第四章(最終章):選ばれなかった願い
翌日、おかみさんはヒラメをみながら
「ねぇ、私、王様が無理なら、神様になれないかしら?」
とまたも何かを思い出すように言いました。
「神様?そりゃまた壮大な妄想だなぁ」
漁師は大笑いしました。
「前にもこんなことを望んだ気がするんだけど…」
おかみさんはそう言って、少しだけ首をかしげました。
けれど——
何を思い出そうとしているのかは、本人にも分かっていない様子でした。
漁師とおかみさんのやりとりを見ていたヒラメは
「こ、これは…ついに…
さ、さぁ!漁師!私に、かみさんを神様にしてくれと頼んでくれ!
そしたら、完全の元の流れにもどるぞ!」
とキラキラした目でじっと漁師を見つめました。
「さぁ——」
ヒラメの声は、どこか期待するようでもあり、試すようでもありました。
漁師は、しばらく黙っていましたが——
やがて、
「いやいや、何を言ってるんだ。」
と、いつもの調子で笑いました。
ヒラメは、じっと漁師を見つめていました。
——今度こそ、物語が“正しく壊れる”瞬間を。
漁師は、やがて、小さく笑って言いました。
「……いや、やめとくよ。」
ヒラメの目が、わずかに揺れました。
「なんでだ?」
「なんでって……」
漁師は少し考えてから、ぽりぽりと頭をかきました。
「そんなもん、叶えちまったら——話が終わっちまうだろ。」
ヒラメは、言葉を失いました。
「俺は、この暮らしが気に入ってるんだよ」
水槽の水が、かすかに揺れました。
物語は——
静かに、続いていきました。
~おしまい~
漁師とおかみ~物語になりそこねた話~ 山下ともこ @cyapel
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