※28※

 マサキを連れて管理人事務所から町の中へ出る。道行く人がチラチラこちらを…というかマサキを見る視線に気が付いた。美少年だから仕方ないのかなーと思っていたら「制服だと思います」と囁かれた。


 そう、か! そういや俺も管理人事務所に戻ってマントを脱いだからお揃いの制服姿でいたんだった。うわー恥ずかしいかも。ひょっとして…「ねーねーあれってペアルック?」的な意味の視線だった? カップルだと思われたのか?


「ご主人様、ケンゴ様。落ち着いてください。この世界にも制服はあります。衛兵や自警団の制服などを思い出してください」


 あーそうだった、そうだった。良かったよーペアルック騒動にならなくて。


「えーと、じゃあなんで?」

「憶測ですが…。この制服はデザインが特徴的なことに加えて、ひとめで質の良さが分かりますから、王都やほかの領から来た役人か特別な任務に就いている者か、なんだろう? と思われているのではないでしょうか」


 改めて町ゆく人たちの服装を見てみると…確かに質という意味でもデザインという意味でも彼らの方が劣っている。マジックポケットを利用したかったから常に制服を着るようにしていたが、マントを羽織って隠すことで周囲に溶け込めることを最近知ったばかりだ。

 冒険者が珍しくないこの町では、季節に関係なくマント姿は違和感を持たれない。


「ひとりよりふたり、で制服が目立つのと…さらに言うと僕がじろじろ見られているのは髪色が珍しいのでしょう」


 かっこいいなと思ってメッシュを入れたが失敗だったか?


 「そんなことはありません、僕はケンゴ様にいただいたこの容姿がとても気に入っています。それと、すでに決定済みになっていますのでもう変更はできません」


 だよねー。一度決定しちゃったから今更変えられないよね。メッシュについては仕方ないとしても、上に羽織るマントは買っておこう。木工屋へ向かっていた足を古着屋に変更して、マサキ用のマントを購入。予備にしてもいいかと自分用のマントももう1つ買った。


「ケンゴ様、僕にももうひとつマントをお願いしてもいいでしょうか」

「ん? いいけど。予備?」

「はい。サキがマサキになった時にあると便利なので」

 サキがマサキに? どういうこと?


 店内で他の商品を探しに行くふりをして、少し店員から離れる。


「もしかして、と思っていたのですが…僕は分身出来ます」

 うん。マサキとサキになってたよね。


「マサキふたり、あるいはサキ2匹の状態になれます」



「……!」


 そ! そうか! そうか、そうか! 分身して変身…言われてみたらどちらか片方だけにしかなれないということの方がおかしいのか。


「り、理解した。同じマントをもう一つ買っておこう」

「はい。ありがとうございます」


 猫2匹と暮らす生活か~。右にも猫。左にも猫。抱っこしながら脚もとスリスリ…も夢じゃなーい。買い物を終えて、スキップしてしまいそうな…足元が浮つく気分でツーツーリ木工店へ向かっていた俺は店が遠目に見えたところでハッとした。


 まずい。このまま浮かれて変なテンションで突撃したら、爺さんにどんな目で見られることか。気を引き締めて歩みを進めると、いつものようにツーリ爺さんが店先で作品作りをしている。それを野次馬のように見ている人もいる。何を作っているんだ? 


 人垣の間から覗くと、作っているのは折りたたみ椅子だった。観客になりきって見ていると、ツーリ爺さんの手が驚くほど早く迷いなく動いて、面白いように形が作られていく。見物人が群がるのも分かるなぁと思いつつ見ていると…

「ん? そこにいるのはケンゴか!」

 目ざとくこちらに気づいた爺さんの大声で、人垣がざっと左右に割れた。


「こんにちは。お忙しそうですね」

「おかげさんでな」と俺に笑いかけた後、周りで見ていた客? に向かって「済まんが、用事が出来たから帰ってくれ」とツーリ爺さんは言い放った。


 えーと、と爺さんと彼らを見ていると「仕方ねーな」というように素直に彼らはその場を立ち去っていった。

「良かったんですか?」

「ああ、近所の暇を持て余した爺たちだ。ワシが最近変わったものばかり作るようになったと、冷やかしに来る。ま、完成したら売ってやるとも言ってあるから客でもあるんだがな」

 お客さんだったのか、結局のところは。


「で、そっちの変わった髪の少年は?」

「うちの従業員のマサキです」

「マサキです。初めまして」


「おう、ワシはツーリだ。匠と呼んでくれてもかまわんがな。……ケンゴ、移動販売の働き手を増やしたということか」

「そうです。さすが匠。話が早いですね。パンの箱4つと背負子のセットを2組お願いします」

「2組? そこの少年だけでなくもうひとり増やしたのか?」

「将来的に増やすことになると思うので、この機会に…と思いまして」

「ほぉ…儲かっとるようだな。そんなにうまいパンを売っとるのか?」

 俺だけの時には無理だと思っていたがマサキと一緒ならこの店での販売も可能になる。カージュ爺さんたちに内緒にして欲しいと頼んだが、いつかバレた時に…を考えるとやはり仲間外れにするみたいで、少し気にはなっていた。


「気になるようでしたら次回は少量お持ちしますよ。でもこちらは従業員の数も多いですよね、いま何人になっているんです?」

「何人か……分からん」

 おいおい。


「日によっても変わるからな。どうせツーツーもケンゴに話があると言っていたから、聞いてみてくれ」

 ついて来い、というように奥へ入っていくツーリ爺さんの後に続く。途端に木の匂いが濃厚に漂う。仕事場はカンカン、ゴシっゴシっと木をノミで削ったりのこぎりで切ったりする音があちらこちらでしている。職人たちはちらりとこちらを見て、俺の姿を認めて会釈してくる者や無反応で仕事に戻る者など様々だった。

 中庭へ視線を向けると、そこで作業している見習いの数もさらに増えている。ように見える。


「ツーツー! ケンゴが来たぞ!」

 ツーリ爺さんの声に応じるように扉の閉まった部屋からツーツさんが出てきた。

「こんにちは。お忙しそうですね」

「おかげさまでな」

 案内された応接室には俺とマサキ、ツーリ爺さんとツーツさんの四人で入った。


「そっちの少年は?」

「うちの従業員です」

「初めまして、マサキといいます。ケンゴ様の代理として今後こちらにお邪魔させていただくことがあるかもしれません。どうぞよろしくお願いします」


「なるほど。俺はツーツ。このツーツーリ木工店の店主をしている」

 ツーツはそう言った後「あの話は?」と確認してくる。方位計の件だな。


「大丈夫です。話はきちんと通っています」

 実際には話さなくてもこれまでのことは俺との情報共有で分かっているというのが正しいのだが、そんなことまでは言わなくてもいい。


「では、試作品の制作単価と販売価格、販路について話を進めたい」

 制作単価についてはカージュ爺さんのところから購入する部品、孤児院から仕入れる浮石代、それからツーツーリ木工店で本体のケースを作って最終的に組み合わせるという材料費及び工賃を含めて算出されたのが…ひとつ12メレルということだった。日本円にして1200円。ま、妥当なところかな。


「最終的に10メレルまで下げられる余地はあるが、出来れば12ほどにしておきたい。希望店頭販売価格は15メレルだ」

「いいと思います。性能試験の結果がまだ出ていませんから商品価値がさらに上るか、それとも下がるかは不明ですが」

 安全を買うための道具と考えればもっと高くてもいい気はするが、出来るだけ多くの人に買ってもらいたいという本音もある。店頭価格15メレルなら冒険者におススメできる気がする。はじめはチームでひとつから始めて、余裕があれば全員が携帯して万が一に備える、のが理想だ。


「で、性能的には変わりないが…貴族向け商品としてこういうものを作ってみた」


 大きさは約1.3倍ほどになり方位を示すラインをはっきり太く、なおかつ一般向けが東西南北とその間の北東、南西など8方向を示すのに比べて貴族向けはさらに細かく北北西などが分かるようにラインが引かれている。


「これは分かりやすくていいですね」

「中に入れている浮石も大粒のものを厳選して使うことにした。性能が変わらない可能性もあるが、石が大きい分だけ耐久性が上がっていることを期待している」

 その可能性はあるな、と俺も同意するように頷いておく。


「で、ケンゴ。こっちの商品名も任せた」

 えー。ツーリ爺さんがにやっと笑っているんだけど…同じ方位計ではダメな……そう、ダメですか。


「ン~。高級方位計」

 時計と高級時計の違いではどうですか?


 その程度か、と笑っているもののこれに同意しないと自分たちにブーメランが帰ってくると思ったのかあっさり受け入れられてしまった。何でもよかったんだろうな。設計者が決めたという言い逃れさえできたら。


「おそらく、これの販売価格は20~22メレルくらいになるだろう。で、販売についてだが…」

「使用テストが終わってからですよ」

「何度も念を押さなくても分かっている。そのテスト期間が終わったらまずは領主様に献上する」

 それも聞いているので頷き返す。

「領主様次第なところもあるが、配下の領兵の分の発注がいただけるんじゃないかと思っている」

 領兵、か。何人ぐらいいるんだろう。


「それと同時並行して冒険者ギルドに全て委託販売してしまおうかと思っている。どのみち、背負子もギルドで売りたいと大量発注が入っている」

 あーそうだよなー。ここで個人客対応するのは面倒くさいだろう。ここの商品を並べて売っているスペースはあるにはあるが、ほんのわずか。しかも専用の売り子がいるわけでもない。

 ツーリ爺さんが店番を兼ねていたが最近だと作る方に夢中になっている。奥さんたちの方は裏方仕事をしているのかほとんど見かけない。いや、ちらりと姿を見ることはあるからちゃんと存在しているよ。幻じゃない。


「で、販路について問題なければ…最後にコレだ」

 何だろう? テーブルの上に…珍しく紙に書いた…って俺が書いた設計図か。


「これは一般向けのものだから、新たに高級方位計についての設計図を頼む。設計者が同じでないとおかしいからな」

「……分かりました。次に来る時までに用意します」


「ちゃんと両方ともにサインしておけよ」

 ツーリ爺さんがにやりと笑う。

「え…サインって、いらないでしょ?」

「いいからしておけ」

「権利だのなんだのと、いりませんよ」

「それでもしておけ。まったく関係ない第3者が権利を主張してきたらややこしいことになる」

 あーそういう、危険が無きにしも非ず、なのか。


「ないとは思うが、思いたいが…偽設計者が現れて、権利を主張して勝手に販売価格を吊り上げたり売り上げの一部をせしめたり、最悪の場合この領にはわずかな材料費のみしか入れずに暴利をむさぼられたりすればみんなが困るだろう?」

 ツーツさんがそう言えば、ツーリ爺さんもさらにダメ押ししてくる。

「脇が甘いとそういうことになるぞ。利益が要らなくても権利はしっかり握っておいた方がええ」


「それで面倒なことになったりしたら、困るんですが…」

「受け取るものは受け取って、いらなきゃ寄付なりなんなりはっきりと第3者の介入が入らないようにしておいた方がええ」

 ツーツさんに睨まれた。

「寄付、ですか…」

 俺が寄付するなら教会と孤児院だろうか。


 すでに用意されていたらしく、紙による書類をツーツーさんがテーブルの上に並べた。もちろんインク壺とペンも並ぶ。



 新商品の方位計および   (と、ここではまだ高級方位計の表記はなく空欄になっている)に関する設計者および権利について。


 設計者   名前の記入欄。

 入金先   入金先の口座情報の記入欄。

 利益    商品1つアタリの利益についての記入欄。

 そしてこれより下には広く取られた白紙欄がある。


 俺はまず高級方位計と空欄を埋め、制作者のところにケンゴとサインし、入金先の口座情報にこの町…マレルレの教会とクリロサ孤児院に半分ずつ寄付と書いた。具体的な口座番号があるかどうか分からないが、それは入金の手続きをする多分商業ギルドかどこかで調べてもらえるだろう。そして商品1つ当たりの利益を1メレルとした。つまり2個売れて初めて1メレル(100円)の寄付が教会と孤児院の両方に入ることになる。ちりも積もればなんとやら、になるといいかな。


 下の広い空欄には開発に至った思いなどを熱く書こうかと一瞬思ったが、やめた。手続きの代行者にツーツーリ木工店、店主ツーツを任命する、と書いてから返した。


「後はよろしくお願いします」

「…………」

 はぁっとため息をついてからツーツーさんが書類を突き返してきた。


「なんです? どこかダメでした?」

 揶揄うようににやにやすると、頭が痛い、というようなジェスチャーをされた。


「お前なぁ…これじゃただの落書きと変わらんだろう」

 落書きだって?


 むかっ。


 ≪ご主人様、契約書類には本人の魔力を流さないと意味がありません。≫


 こそっと隣からマサキが念話で教えてくれた。


 そういうことか…わぁ、恥ずかしい初歩的なミスをしていたのか。黙って書類を取り返し、マサキに念話で問いかける。


 ≪どうすればいい?≫


 ≪書類の中央、表と裏両方を挟むようにして、両の手のひらから魔力を紙全体に染み渡るように意識しながら少量だけ魔力を流していただければ…はい、そうです。終わりです。≫


 手と手を合わせて幸せポーズをしつつ、手の間の紙に魔力を流す、ね。


「なんだ、やり方知っていたんじゃないか」

 面白そうにツーリ爺さんが笑った。


「キチンと印も出ていますね」

 ツーツーさんが指差した先には、ケンゴの名前の後ろにハンコ…というよりQRコードのような不思議な文様が浮かんでいた。大きさといい、四角になっているところといい…良く似ている。不思議だー。


「では、こちらは預かって時期が来たら手続きしておく。他に何か質問があったら今聞いておくが?」

「方位計のことではないけど…明日俺が移動販売しているパンをここにも持ってくるとツーリ爺さんと約束した。他の従業員用にも必要なら持ってくるけど…何人いるのか、だいたいでも数が知りたい」


「ツーツ。ケンゴが売るパンは美味いみたいだぞ。そこの従業員を追加で雇い、さらにもう一人増やすかもしれないんだと。背負子とパン箱を追加で頼まれたが、2セットともワシが作るからそっちは心配せんでええ」

 ツーツさんは顎を擦りつつ聞いてきた。

「パンの値段は? うちでは2つで1メレルのパンを職人たちの昼用に用意しているが…」

「それだとこちらからの納品はやめておきましょう」

「待て待て、ワシやカミさんの分くらいはたまの贅沢として買ってもいいだろう? ここで逃がすな、と勘が言っておるんだ」


 ツーツーさんは父親をちらりと見て、すぐに同意するように頷いた。

「で、そっちのパンはひとつ幾らだ?」

「2メレル。ジュース1本も2メレル。スープは1つ3メレル。味についてはその日のお楽しみということになっている」

「では、お試しでパンとジュースとスープそれぞれ1つずつ5人分。…2、いや3日分頼もう」

 家族の分だけ、という感じだな。


「ご注文ありがとうございます。配達時間は昼過ぎ、あるいは10時前後になると思う。ギルド販売が12時からなので」

「それなら10時前後で。多少前後してもいい、時間はそちらに任せる」

 マサキとともにありがとうございますと軽く頭を下げてツーツーリ木工店屋を後にした。


「明日の午前中だと背負子とパン箱のセットが1組出来ていたらいい方かな」

「とりあえず明日は肩掛け鞄と風呂敷を利用しますね。…あ」

「どうした?」

「留守番をしていたサキからの連絡です。『白星の矢』のみなさんがダンジョン本店におみえになりました」

「初日の探索を終えて戻ってきたのか。急ごう」

 

 管理人事務所に入るとモニターが起動していて、ワウンやチャチャムたちの声が聞こえてきた。


「ケンゴさーん! いないのー?」

「ケンゴさーん! いたら返事してー」


「ぜひ、僕もご紹介を」 

「分かった」

 すぐに町からダンジョンSAへ転移し、入ってきたばかりのドアを再び開けた。


「お待たせー。みんなおかえりー」

 にこやかに手を振って登場すると、こちらへ駆け寄ってきたワウンとチャチャムの足が手前でピタリ、と止まった。

「あ、紹介するよ。新しく従業員として働いてもらうことになったマサキだ」

「はじめまして。マサキです」

 チャチャムがやや挙動不審になって、ワウンの後ろに隠れた。って無理があるよね。君たちサイズ的にそんなに変わらないから。


「ケンゴさーん! 早くー!」

 自販機前でレアニが叫んでいる。コルサ達も新メニューにくぎ付けなのか必死にのぞき込んでいる。不審者っぽいぞ。


「お待たせ」

 三人も俺に何か言いかけて、すぐにマサキの存在に気が付いて口を閉じた。

「あ、彼は新しく増えたSAの従業員。マサキだ。よろしくな」

「みなさん、よろしくお願いします。マサキです」

「あ、よろしく…コルサだ」

「どうも、よろしく。チャウチだ」

「レアニです。よろしく。…歳いくつぐらい?」

「20です」

「ってことは俺と同じかー」とチャウチが嬉しそうに笑った。


「彼が副管理人もしてくれることになったから、この場所でずっとSAを営業できるようになった」

「え、そうなのか! それは助かる」

「確かに便利になって嬉しいけど、ケンゴさんずっとここにいるの?」

「いや。支店を増やせることになったから、もう一カ所は町の近くとか街道の分岐近くとかどちらかに時間を決めて設営することになると思う」

「支店…」

「へー。支店が…増えたんだ」

 意味が分かったような、分からないような…不思議そうな顔をしている。


「それより、今日の新作が入荷したんだ。もう食べたか?」

「それだー! すげー気になるものがあるんだが、ケンゴが来るのを待ってた」

「うんうん。早く食べたい。お腹ペコペコ」


「わ、分かった。今日の新入荷の3種類はどれも美味しいと自信を持ってお勧めできる。暖かい状態で出てくるが、袋を開けても2日以内。未開封だと1週間保管できるんだ」

「すごい! 早く食べたい!」


「マサキと手分けするから、こっちでホットスナックを受け取ったらマサキのいるところでパンとジュース、好きなのを選んでくれ」

 分散して彼らの買い物代行して、売上金を受け取る。マサキもコインを入れずに商品を取り出せることに一瞬彼らは驚いたようだが、すぐに順応した。


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異世界SA ふぅみ @hitomi4

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