※02※

十分もすると精神疲労も解消された。


 爽やかな風が時折吹き抜ける以外は変化のない快晴の空の下。

 何も考えずに過ごしていいのなら、こんなに贅沢なことはないだろう。


「…が」

 だがしかし。いつまでものんびりとはしていらない。


 寝っ転がっていた態勢から、座りなおしてもう一度「ステータスオープン」した。


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名前/ケンゴ  種別/人族


性別/男  年齢/25 


ユニークスキル/SA


レアスキル/今いる場所ところ 郷に入っては郷に従え


ノーマルスキル/


称号/転生者

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 ユニークスキルを詳細表示しただけで、まだレアスキルの方を確認していない。


 レアスキルの【今いる場所ところ】の部分をタップ。


「お、出た」


簡易地図作成能力。現在地周辺や行ったことのある周辺地図が分かる。レベル1


「なるほど…。ちなみに、今いる場所は…」


【今いる場所ところ】と呟いたと同時に周辺地図が頭の中に浮かんだ。今いる場所ところというのがキーワードなのかもしれない。


「ってか。…ここ、なにもないじゃんか!」


 森。小川。丘。けもの道。ただそれだけ。


 ちょっと想像してみて欲しい。真四角の白い紙が一枚あるとしよう。中心に丘の文字が書いてあり、薄緑色に塗られている。その薄緑色よりも濃い緑色が全体に塗られていて、森と書いてある。

 丘や森の所々にほっそい線が所々に引いてあり、けもの道を示している。南南東にほんのちょっぴり水色の線が引いてあり、そこが小川を示している。


 村や町や大都市はどこにあるんだ? けもの道はあるが、田舎道すらないなんて!


 なんとなく、俺が見ている地図が10キロ四方のものだと分かる。もしかしたらレベルが上がれば表示可能範囲が広がるのかもしれない。だけど、現状は10キロしかない。

「現在のレベルは1か」


 10キロしかないけど…これが街の中にいたとしたら10キロもあれば充分なんだろうが…現状では役に立たない。


「どっちが北でどっちが南なのかは分かるが…どこに行けばいいのか分んないぞ」

 人のいるところに行かなきゃ商売にならない気がする。


「だがまあ、先にするべきことは他にもあるからな」

 ここからどっちへ向かって移動するかを考えるのは後にしよう。先に自分が使えるスキルについて確認しておくことの方が大事だ。それによって今後を考えるべきだ。


 レアスキルの【郷に入っては郷に従え】をタップ。


【郷に入っては郷に従え】 レベル1

 コミュニケーション支援  (会話、読み、書きが可能になる)

 馴染みの人 (違和感なく現地に溶け込めるようになる)

 当たり前のこと (現地の文化、常識などが分かる)


「………すっげぇ!」


【郷に入っては郷に従え】ってなんじゃこりゃと正直思っていたが、これはすごい。侮って悪かったと謝罪したい気分だ。


 レベル1となっているから、これも成長スキルなんだろうが…現状でもかなり使える。

 どれもこれもありがたいことばかりだ。


 現地の人との会話が可能にならなきゃ困るし、 違和感なく現地に溶け込めるようになるってのもいい。現地の文化、常識などが分かるというのもかなり助かる。


「よしっ。これで意思疎通の不安はなくなった」


 レアスキルの次はノーマルスキルなのだが…表示がなく空欄だ。つまり、現在の俺はノーマルスキルは何も持っていないということだろう。

 この世界でどうすればスキルを手に入れることができるのか分からな…いが、分かってしまった。


 もしかしたら、これもお金についての知識を得た時同様、【郷に入っては郷に従え】のツリースキル、当たり前のこと (現地の文化、常識などが分かる)がいい仕事をしてくれた結果かもしれない。


 この世界でノーマルスキルを修得する人は珍しくない。生活していくうちに経験や鍛錬、生まれ持った素質などで突然発現する、そうだ。だが、いわゆる…人気があるスキルやレアスキルを持っている人は少ない。少ないからレアスキルなんだともいえる。


「さて…ラストか」


 最後に残った称号/転生者。転生者の文字をタップする。



転生者

 別の世界で生き死にをし、記憶の一部を引き継いだまま、この世界で新たな人生を送ることになった者



「…………………」


 やっぱり、死んだのか。

 どこでどんな風に、いつ死んだのか分からないが…軽くショックだ。

 やっぱりな、とは思うものの…改めて現実を突きつけられると…な……


 フゥーっとため息をつく。ついてしまう。

 分っていたはずのことなのに、現実から目を背けて軽く考えようとしていた。意識的に。


「…………………」


「……………ま……いいよな」


 幸い、今は生きているし。ユニークスキル1つにレアスキルを2つももらって…そう、転生特典をもらってここにいるんだし、切り替えていこ。俯いていたって仕方ない。前を向かなきゃ。うん。


「確か、管理人事務所ならどこにでも設置できるんだったよな」

 えーと…どうすりゃいいんだ。ステータスオープンのようにステータスボードから操作するのか?


 いや、そうじゃなかった。

 管理人事務所を設置したいと思ったところでそれは突然現れた。チカチカと点滅している範囲に設置できるのだろうと思ったところで、設置しますか? と確認のアナウンスが来た。はいと心の中で答えると…


「見た目、プレハブかコンテナハウスみたいだ」

 組み立て建築というのかな。シンプルな四角い…プレハブかコンテナハウスのような外見の事務所が出現した。正面から見える窓は小さめなのが一つ。ドアはシンプルな片開き。ピッキングに弱そうなドアノブなのでちと不安。


「いゃ、まあ…管理人事務所って言葉から連想したままか」

 気を取り直してドアを開け、中に入ってみる。


「…ん? 土禁か?」

 玄関と呼ぶには可哀そうなほど狭いスペースだが、わずかな段差と色の変わったフロアマットが敷いてある。ここで靴を脱ぐように、ってことだろう。

 ドアを閉め、用意されていたスリッパに履き替えて上がる。床と壁は無垢の板張りで温かみがあっていい感じだ。外観はプレハブだったが、室内は山小屋風の木のぬくもりがある。


「…狭いな」

 つい呟いてしまうほど、室内は狭かった。

 ホワイトボードが正面の壁に嵌め込まれていた。入ってすぐの右手側に細長いロッカーが一つ。中央にソファが1つ。左手側壁際に小さな台があり、ケトルとコップが1つあるだけだ。


 ざっと室内を見てからロッカーの扉を開けてみると、中にはハンガーにかかった状態で制服らしき上下の服が入っていた。上の棚には布…いや、取り出してみるとそれはフェイスタオルだった。足元にも棚があり、超シンプルな下着が上下セットで用意されていた。


「トランクスでよかった…」

 ビキニだったりしたら躊躇していただろう。多分、前世でもトランクス派だった気がする。


 ロッカーの扉の裏には小さなミラーが付いている。

「…………」


 ここで俺は自分の顔とはじめてご対面したわけだ。

 髪の色は落ち着いた雰囲気の焦げ茶で瞳の色は爽やかな印象の翠。森の緑ではなく森の中にある湖水をイメージする翠色だ。肌は白く、日焼けもしていないし傷跡もない。

 生前の顔を覚えているわけではないので違和感はない。ないのだが、なんとなく髪の色も瞳も黒だった気がする。ほんのちょっぴり不思議な感じ。


 だが、これはこれで悪くない。いや…悪くないどころか顔面偏差値は平均以上な気がする。

 ぜいたくはいかん。

 男は顔じゃない。顔じゃないが…


「いいんじゃないか」

 ほんのちょっぴり垂れ目気味だが、優しそうだし、まじめそうだし、おそらく誰にも警戒心を抱かせるような感じではない。客商売での愛想のよさはかなり重要だ。


「着てみるかな」

 ハンガーから制服を外し、上着に袖を通す。下もジーンズから綿パンに履き替えた。上着と同素材、色も併せてあるので統一感がある。

 上着の丈は膝上まである。やや長め。しっかりした厚みのある綿素材という感じなのだが、着心地は悪くない。パッと見の印象は〇ーソンとファ〇マのコラボデザインだ。両脇に手がすっぽり入るポケットがある。


「って、なんだ?」

 手に触れる何かがあり、取り出してみると…


「スマホ?」

 画面に触れてみる。


「わっ!」

 触ることで電源が入ったらしい。いや、それだけならこんなに驚かない。

 なんと壁にかかっているホワイトボードまで光ったのだ。


「というか、これ…連動してるのか?」

 ホワイトボードに浮かんでいる文字と、スマホっぽい画面に表示されている文字は同じだ。


「つまり、これが管理人だけが操作できる設定画面ってことか」

 持ち歩き出来るスマホ…いや、通信機能がないから携帯端末と呼んだ方がいいか。管理人室にいなくても操作できるというのはありがたい。


「どっちでも操作できるのなら、画面がデカい方がいいよな」

 一度に表示されている情報量は断然多いし、操作も楽そうだ。

 携帯端末をポケットに戻し、俺は壁の前に立った。


 まず【設定】の項目の中から【お知らせボード】をタップ。すると細長い四角が現れた。

【客へのメッセージ  音声入力可】となっている。


「ふむ…」

 とりあえず四角い枠をタップ。


「いらっしゃいませ。ごゆっくりどうぞ」


 感動した。呟いただけなのに、枠内にはちゃんと「いらっしゃいませ。ごゆっくりどうぞ」の文字が書き込まれた。数秒間文字がチカチカしていたが、決定済みになったのか点滅が終わる。


 次は…


 あ、名前か。そうだったな。まだサービスエリアの名前を決めていなかった。

 24時間経てば名前の変更は可能らしいから、気軽に考えりゃいいんだろうが…気軽に決められない性分なんだよなぁ。


 名前というのは大切なものだ。子供に名をつけるのとは違うと分かっていても慎重になってしまう。


 うんうん唸っている間にふっと浮かんできたのは北極星ポラリス


「ポラリスか…」

 古来から夜空を見上げて…方角を知る手掛かりとして使われてきた星。そんな目印の一つとして、道を行き来する人たちに愛される場所になれたらいいな。


 ってことで、俺のサービスエリアの名前は『ポラリス』。『ポラリスSA』で決定だ。


 あとは…


 げっ! と思うほど、いろいろな項目が表示されている。

 サービスエリアの境界をどうするか。これは柵で囲うを選択。あ、素材も決めなきゃいけないのか。現状で選べるのは石かレンガの2択。

 レベルが上がることで選択肢が増えていくのか、読めない状態でグレーになった項目のスペースが並んでいる。


 照明か。照度はミキサーバーのようにスライドして設定できるのか。で、色ね。現在選べるのは自然光のみか。オッケー。


 次、入場料金ね。ふむ…これは俺が決められるんだったっけ。ゼロから10メレルまでの間…で、ひとつ選択すればいいんだな。

「ちなみに、10メレルって日本円にするといくらなんだ?」


 …日本円?

 あ、そうか。そうだったな。俺は元日本人だ。そうだそうだった。


 え? あ、1メレルが100円相当?

【郷に入っては郷に従え】スキルの【当たり前のこと】がいい働きをしてくれたのか、俺に分かりやすいように教えてくれる。


「ってことは…500円くらいでいいか。5メレル」

 様子を見て、これが高そうなら下げればいいし、安そうなら上げればいい。


「グレー表示、多いなぁ」

 レベルが1だと実際にできることは少なかった。


「えーと、トイレの利用料か。これも決められるんだな」

 俺はこれまで無料のトイレしか利用したことはないが、外国だと有料トイレがあったと聞いたこともある。んー幾らにしよう。悩むな。

 もし腹を下している人がいたら、何回も使いたいだろうし…トイレも気軽に使ってもらいたいよな。


「ってことで2メレルにしてみよう」

 これも実際にやってみて、適切でないと判断すれば変更すればいい。


 地点登録ができるだの転移ができるだのと管理人ができることの説明書きに書かれていたが、どこを探してもそんな項目はない。

 従業員について選択できるところもみつからない。


「まだレベル1だしなぁ」


 そういや、レベルupについて/表示する 表示しない って、SAスキル説明を確認した時に項目があったよな。どちらも選ばずに後回してしていたけど…やはり気になる。


「ステータスオープン」からの… レベルupについて 表示する をポチっと。


 レベル1を2へ上げるには

 利用者がのべ10人以上または売上100メレル以上になること。

 と、はっきり書いてある。

 レベル2を3へ上げるには…の下はグレー表示になってる。すべてが一度に分かるわけではないらしい。


「……とりあえず、次のup条件が分かるのはありがたい。ありがたいけど…100メレル?」

 日本円にすると1万じゃないかよ! 高いっ!

「……あ?」

 落ち着いて読み返して気が付いた。って書いてある。

 つまり、利用者がのべ10人以上いればいいのだ。


「入場料安くしようかな。思い切って無料にしてもいいけど…」

 悩むなぁ。

「そういや、トイレ以外には何があるんだ?」

 確認のために設置してみたいがどうすればいいんだ?

 あ、そか。道がいるのか。場所の条件を満たさないとSAは設置できない。けもの道じゃダメなのか? ダメなんだろうな…。

「グワーッ! 条件厳しいぞ」


 俺は髪の毛をかきむしった。

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