S理髪店
妖筆ノ怪異
帰り道
その日、私の気分はどん底だった。
会社で発注のミスが発覚したのである。
我が社の一大企画になるはずだったその企画は、私のミスによって白紙に変わったのである。
上からの評価も、同僚からの目線も。
全てが耐えれなかった。
上手く行ってる時こそ、本当に用心するべきだったのに。
そう思っていた私の目に、ちくりと何かが刺さる。
そういえば最近、働き詰めてたせいで身だしなみに気を配れてなかったのかもしれない。
外見は何より大切だ。それが営業なら尚更。
仕方ないので、私は会社からの帰り道にとある理髪店に寄ることにした。
私も、帰り道に理髪店があるなんてのは最初は知らなかった。
けどまぁ、これもまた何かの巡り合わせかもしれない。
上手くいかない私にとっての、ツイてない巡り合わせではあるけれど。
『いらっしゃいませ、こちらへどうぞ。』
『本日はどんな感じにしますかぁ?』
…もうバッサリ切っちゃってください。
後ろも、前も。
もう切り替えないといけない。
そんな思いで私はそう注文した。
ちょきん、ちょきん。
『お客さん、良い髪してますねぇ…勿体無い。』
良いんです、これを機に色々頑張らないといけないですから。
それに髪が短ろうが長かろうが、良かろうが悪かろうが、私にはあまり関係ないですよ…
ちょきん、ちょきん。
『本当に頑張ってきたんですね…おつかれさまです。』
私なんかに労いの言葉は似合いませんよ…
それに、もっと頑張ってる人はいますよ…
ぢょきん、ぢょきん。
『しかしまあ、上司も同僚さんも見る目がない。もっと優しく慰めてあげればいいのに…』
そうですよ。
私はがんばったんです。ただ、運がよくなかっただけなのに。
ぢょぎん、ぢょぎん。
『これからも、私だけは応援してますからね。また来てくれると嬉しいです。』
わかりました。またかみがのびたらきますね。
ほめてくれて、ありがとうございました。
ばちん。
かみをきったあのひから、わたしはこまかいことはかんがえなくなりました。
もう、なんかぜんぶどうでもよくなって。
すっごく、おもくなくてさっぱりしたきぶんになりました。
S理髪店 妖筆ノ怪異 @ayakasi666
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