第22話 無痛の終わりと魂の一撃

 龍がアルトを見下ろす。獲物が弱り果てたことを確信し、トドメの一撃を加えようと首を持ち上げた。

 アルトは苦痛のあまり死にたかった。このまま意識を失い、すべてを終わらせたかった。

 だが、薄れゆく意識の中でルカとテオ、そしてリアの顔が浮かんだ。

(僕は、死ぬまで痛みから逃げちゃいけないんだ)

 アルトは折れた右手の剣を、歯を食いしばって握りしめた。感覚があるということは、絶望であると同時に、自分の体が「どこまで動くか」を初めて完璧に理解できたということでもあった。

「死なせて……くれないんだな。リア……」

 アルトは立ち上がった。全身の傷が、生きていることを叫んでいた。

 龍がブレスを放つ。アルトはそれを、感覚の戻った右脚で強く地面を蹴って回避した。

 肉が千切れる。骨が軋む。だが、その痛みこそが彼に「生きている実感」を与え、動きを研ぎ澄ませた。

「あああああ!!」

 アルトは龍の懐へ飛び込んだ。龍の爪が彼の肩を貫くが、彼は構わず剣を龍の目に突き立てた。

 痛みで気が狂いそうだ。だが、彼はその狂気を力に変えた。

「これが、僕たちの……痛みだ!!」

 剣を深々と突き入れ、彼は自重をかけて引き裂いた。龍は断末魔の叫びを上げて山頂の雪を盛大に撒き散らしながら、やがて動かなくなった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る