LOGS:艦隊整備計画3
─LOGS_DATA─
Time:西暦2209年9月10日
Recorder:キリアン・グラムス
Place:小惑星帯/ストーンマイナー駐屯地
─LOGS─
「おい聞いたか!」
「あぁ、キリアンとトムのやつがシミュレーターで対決するんだってな?」
「ちょうど次は空き時間だったな?せっかくだから見物にいってやろうぜ」
俺は好き勝手言いながらシミュレーター室へ走っていく同僚達の背中を歩きながら追いかける……いや見世物じゃねえよ。
「……来たな」
トムはアヤンダ達と一緒に待っていた。後ろに隠れている彼女達の顔色を窺う。トム中尉にエールでも送りに来たのかと思ったが、想像に反してなんだか顔色が暗いような……。
「……アヤンダさぁ、これ思ってた展開と違くない?」
「マクレガー中尉が味方してくれたのはうれしいけど……なんだか話がすり替わってるような気が」
「……むむむ……」
……いや今更かよ!さりげなく会話を聞いていた俺は思わず心の中でそう突っ込んでいた。まったくもって大正解だこの野郎。いや野郎じゃないけど。
しかし彼女達は裏では不満を述べつつも、トム中尉を止める気もなかったようだった。
《トム・マクレガーを止めるリスク:極めて大》
《キリアン・グラムスの価値:限りなく0》
《結論:すまないおっさん死んでくれ》
あまりにも無慈悲な損得勘定。
俺は心の中で静かにむせび泣いていると、何一つ裏の事情を知らないトム・マクレガー中尉が淡々とした口調で話しかけてくる。
「お互いの乗機は航宙戦闘機で、フィールドは障害物のないフラットスペースにしよう。対戦条件は可能な限りフェアじゃないとな」
「……分かった」
トムの提案を肯定すると、やつはシミュレーターに取り付けられたタッチパネルを叩き各種設定をいじり始めた。
現実とほぼ変わらないシミュレーションが手軽に動かせるようになってから何十年も経った。俺達パイロットは筋トレなどと同じ感覚でシミュレーターを起動し、仕事の合間を縫って訓練を行う。
そしていつでも手軽にシミュレーターが動かせるようになると、当然こういう事が起きるのだ。
「配信を開け!今日の対戦カードはとんでもないぞ!」
「あのおっさんがマクレガーと対戦!?」
「こりゃどうなるか見物だな……」
……頼むから、基地司令にだけはバレないようにしてくれよ?
俺はそう思いながらシミュレーターの席に着く。ヘルメットを装着すると、いつものコックピットと何一つ変わらない全周囲モニターが目の前に浮かび上がる。
さて、どうしたものか。
《条件は限りなく互角》
《障害物の存在しない宇宙空間では状況を変動させる外的要因が不足している》
《サポートAIの支援を受けている場合操縦技術やヒューマンエラーによる状態変動も期待できない》
《膠着状態に陥る確率:極めて高い》
「始めるぞ——」
「……」
シミュレーションがスタートし、画面いっぱいに真っ黒な星空が広がっていく。
─LOGS_DATA─
Time:西暦2209年9月5日
Recorder:トム・マクレガー
Place:小惑星帯/ストーンマイナー駐屯地
─LOGS─
すべてはあの襲撃の日から始まった。
その言葉を聞いたとき、俺はパイロットシートから立ち上がり、立場も階級も全部忘れて声を荒げずにはいられなかった。
「待機!?何故ですか司令!」
俺は司令からは見えていないことも忘れたまま、仮想ウィンドウに投影されたA班の戦闘ログを指出す。
(三番機が撃墜されました)
(六番機の信号をロスト)
無数の言葉があふれ出す。思考が脳を駆け巡る。無数の感情が臓腑の中を渦巻いて、何を言えばいいのかもわからなくなってくる。
ようやくひねり出した言葉が、これだった。
「指をくわえて……黙って見ていろと!」
『……』
司令は数秒の間ウィンドウの向こう側で目をつぶり、慎重に言葉を選びながら話し始めた。
『敵は戦力は異常だ。今B班まで全機出せばA班もろとも全滅する可能性がある。これを戦力の逐次投入だというなら勝手にすればいい。しかし今我々に必要なのは戦力ではなく情報だ。違うかね』
「……そのために、司令は仲間を売るんですね」
『貴様ぁ、司令に向かって何をいうかっ!!!』
横から副官が割って入り一喝する。俺はさらに言い返そうとしたとき……それは起こった。
『……中尉!キリアン中尉!』
「!その声は」
『よかった、間に合』
(爆発・閃光)
俺は、その先の言葉を失った。
─LOGS_DATA─
Time:西暦2209年9月10日
Recorder:トム・マクレガー
Place:小惑星帯/ストーンマイナー駐屯地
─NOTE─
俺は納得できなかった。
二コラの死にも、あのおっさんの“栄転”にも。
『俺は信じてますよ、キリアン中尉。お先に戦場で、待ってます!』
……分かってる。頭の方では分かってるんだ。
キリアン中尉があの場でできたことなんてほとんどない。あいつは出撃したばかりで、できることといえばせいぜい二コラ中尉が爆発するさまを見届けることだけだった。それはもしかしたら、俺と同じくらい、いやそれ以上に苦痛だったかも分からない。
だが……翌日廊下ですれ違ったあいつは、すべてを忘れたかのように何食わぬ顔で過ごしている。そして当然のようにルーカスとかいう少佐と手を組んで、新型機のパイロットなんてやり始めた。俺にはそれが我慢ならない。
俺にはあいつが理解できない。
なぜあいつは何も言わない?なぜあいつは何もしない?
そして俺はとうとうあの日、格納庫で聞いてしまった。
——
『悪い。それは……言えないんだ』
『正直あの発言は忘れてほしいと思っている。だがなぜか俺の言葉を聞いたルーカス少佐が——』
ああ、キリアンさんよ。
そうか——お前はそういう男だったんだな。
「そうやってあんたは、ニコラからも逃げるんだな——」
—LOGS—
俺はシミュレーションが始まってすぐ一直線に加速する。
ヤケクソの突撃ではない。
航宙戦闘機にはジョイントワーカーのような非線形機動は難しい。故にその戦い方は昔ながらの一撃離脱戦術に基づいたものになる。
つまるところ、ひたすら速度を稼いで敵が対応できないほどの超高速で突撃。
キリアン中尉のほうを見てみれば、こちらと同じ考えか、まっすぐ突撃してくる——いや!!!
「甘いんだよ!!!」
俺はキリアン中尉の機体からプラズマ発生器が発射されたことに気が付くと、ミサイルを発射しながら進路を傾けこれを回避する。確かにマイナスプラズマは一撃離脱戦術に対する強烈な有効打だ。
だがいくら何でもそんな距離から発射された発生器に引っかかるわけがない!!!
このまま速度を一気に稼ぐ!
長期戦になるが妥協はしない!何時間かかろうが絶対に奴は仕留める!
《これは不幸の記録である》
《この世には時折運命なるものが生じる》
《バラバラに動いていたものが》
《1つの結末に向けてなし崩し的に走り出すことがある》
《世界は人を容易に裏切る》
《逆らうことはできない》
《数少ない例外を除いて》
【ERROR:異常な論理飛躍を検出しました】
【例外処理シュレディンガーを実行します】
【論理エンジンの監視をスキップします】
《キリアン・グラムスは異常である》
「……はあ?」
『トム・マクレガー中尉被弾』
『判定:撃墜』
『戦闘終了:キリアン・グラムス中尉の勝利です』
《たった一つの異分子が》
《因果の流れを破壊する》
—META_DATA—
Logs:Mech Battler Crisis
Title:艦隊整備計画3
——
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