第34話 周旋
渋谷先生は、藩士を呼びに遣いを出した。そのまましばらく世間話をしていると、やってきたのはなんと、国家老の岡本様御一行だった。意外な大物の登場に、おれたちの身は固まってしまった。
「ここは町家だ、そう畏まるでない」
岡本様は、なだめるようにいった。
「そなた達も知るように、我らは先の一件で、京の悪評を払拭できずに往生しているところだ。そこで今日は、そなたたちに京の風評を聞かせてもらいたいと思ってここにきた」
そこから、思わぬ展開が待っていた。
「渋谷、酒の用意はあるか」
まさか国家老様とあろうお方が、足軽風情と町家で酒盛りをしようというのか。
「客人から二升ほど、手土産をいただきました」
「二升?足りぬわ。客人の酒に倍足して四升、すぐに用立ててまいれ」
岡本様の命で、渋谷先生の家の者たちは酒肴の手配を始めた。支度ができるまでの間、岡本様は長州はどんな様子だ?薩摩は何を考えている?とおれたちに根掘り葉掘りと聞いてきた。
そんなことをいわれても……適当にごまかすしかなかった。
酒の用意ができたところで、「攘夷」が肴のどんちゃん騒ぎが始まった。
おれたちの持ってきた二升と、渋谷先生の四升はあっという間になくなった。おかわりに次ぐおかわりで、結局十升は空けたと思う。おれたちの変名は、いつの間にか実名に変わり、飲んでいる間中、岡本様たちから、彦根と長州を取り持ってほしい、と何度も頭を下げられた。
探索は、武佐で一泊、彦根で一泊の都合三日であっさり終わった。彦根の警戒が厳しいとか、久坂さんはどんな探索をやったんだ?
彦根を出たところで、おれはいいことを思いついた。ここはひとつ、堀さんに提案してみよう。
「帰りが早くて楽な務めだと思われるのも癪に障ります。もう少し探索を続けませんか」
「続けるといっても、彦根の国家老がお門違いだといったんだ。今更何を探る?」
「何をいっているんですか。探索するところなんか、いくらでもあるでしょう」
訝る堀さんを連れて、おれは中山道を京方面に、大津宿へ向かった。
「ここです、ここを探りましょう」
それから三日、おれたちは懐の金がつきるまでたっぷりと大津宿を探索した。さすが京の奥座敷、飯も座敷も、手練手管も素晴らしかった。
こうして都合六日の探索を終え、おれたちは京藩邸に戻った。
久坂さんや藩邸の上役から、過分のお褒めの言葉をいただいた上に、毎日いい酒を飲めた、大満足の探索だった。
旅は道連れ、どんな探索だったのかは明かしませんよね、堀さん。
その後しばらく、おれは京に留め置かれ、彦根と長州の
その上、面倒なことに江戸の桂さんから文がきた。おれが京にいるのを幸いに、幾松さんの様子を見てこい、という。吉田屋に上がった金はしっかり桂さんに付けさせていただいたが。
十一月に入る頃には、彦根との周旋に一通りの目処がついた。おれは宍戸様から、ご苦労、とのお褒めの言葉と金一封をいただき、江戸に戻る許しを受けた。
京に来てからこっち、なぜか飲み代には困らなかった。
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