第26話 初めての異能と戦い

 与一(よいち)の周囲に、炎が吹き荒れる。

 ただの炎ではない。白い炎だ。


 

 それが、相手の見えない攻撃と直撃した瞬間……一気に暴発した。


 

 突風が吹き荒れ、与一とルーミエは腰を落としてそれに耐えた。

 粉塵が掻き消え、視界の見晴らしが一気に良くなる。

 ラルフは、まだ状況が飲み込めてないのか、茫然としていた。

 そして次第に与一も、自身の変化に戸惑いを覚える。

 

「なんだ? 身体から、白い炎が……⁉」

 

 皮膚から一、ニセンチほど隙間を挟み、炎が身体を囲っていた。

 それはやがて面積を増やし、形を変えていく。見方によればタトゥーの様であり……白い炎のラインがまっすぐ伸びたり、円形に広がったり。

 気づけば与一は、全身に幾何学の文様を纏っていた。

 しかもそれらは、熱を帯びた白い炎。明らかに自然のものではない。

 今、与一はラルフと同じく、規格外の力を手に入れた。

 

「そんな……与一さん」

「くっくっく! はは‼ 状況を打破するためとはいえ、まさかそれに手を出す奴が居るとはな‼」

「ああん⁉ どういう意味だ?」

 

 与一はルーミエとラルフの顔を交互に見る。

 一方は辛そう。

 そしてもう一方は、馬鹿を見るような嘲笑をやめない。

 

「そうか、しかもその『権能』がどういうものかも知らねえのか? こりゃ、愉快な『従者』を持ったな? なあー聖女の嬢ちゃんよ?」

「ううっ……‼」

「そう悲しそうな顔をするな。ちょっとの間だけ、生きられる時間を享受できるんだからな‼」

 

 ラルフがこちらに突っ込んでくる。

 その速力はまさに脱兎の如く。与一が反応するよりも早く、上半身に相手のかぎ爪が撃ち込まれていた。

 勢いに地面へ横たわる与一。

 しかもそのまま引きずられていく形で、ラルフと共に地上を移動していく。

 

「おらあ‼」

 

 かぎ爪が服を抉り、与一は無理やり地面から宙へ浮かされる。

 そこでラルフから蹴りを打ち込まれ、その身は近くの建物の壁へと突っ込んで行った。

 

(くそ! 調子に乗りやがって~‼)

 

 奥歯を噛み締めて、木片の壁に手を付けた。

 すぐに起き上がって、相手に食いつかねば。とにかく一発殴らねば気がすまない。

 そんな感情が沸き上がった瞬間、両腕に熱い温度が灯った。

 


 ゴオッ‼ と、与一の身体が宙に放られる。


 

「へ?」

 

 何が起こったのか分からなかった。

 気づけばラルフの姿が目の前に近づき、相手は咄嗟に盾の部分で防御態勢に入る。

 与一はラルフの盾に直撃し、そして二人共、地面を跳ねた。

 

「がっ! ごっ、ぐっ‼」

 

 二、三度バウンドしたところで、地面の窪みに指を突っ込み、踏ん張った。

 そして与一は顔を上げて、目前の惨状に向き合う。

 自分が先ほどまで居た壁は、何かによって吹き飛ばされていた。

 ぽっかりと穴が広がり、剥き出しの木片には焦げ目や白い炎の残り火が灯っている。

 

(アレって……俺がやったのか)

 

 だとすれば一体何が起因で――そう立ち上がる与一。

 そんな思考は次の瞬間、吹っ飛んだ。

 

「おらあ‼」

 

 またラルフが、かぎ爪をこちらに振り下ろしてくる。

 与一は咄嗟にそれを、クロスさせた腕で受け止めた。

 鈍い音と振動が、身体を伝わる。

 恐怖で目が瞑りそうになったが、自身の腕を見て辛うじて立ち止まった。

 血が出ていない。それどころか骨が折れた様子も、皮膚が裂かれたりもしていない。

 そう……相手の攻撃は、全くこちらに通用していないのだ。

 

(見間違いじゃない! コイツにしても、あのハンマー女にしても……俺の身体は全く外傷を負っていない‼)

 

 確信し、与一は希望を見出した。

 

(コイツらの攻撃を気にせず動けるなら、やり様はいくらでもある‼)

 

 そう拳を握る。

 しかしその両腕は、下からの衝撃で上に跳ね飛ばされた。ラルフがもう片腕のかぎ爪を振り上げ、無理やり与一の腕を打ち上げたのだ。

 その間に、かぎ爪の切っ先が与一の目の先に突っ込んでくる。

 間違いない――目を潰すつもりだ。これには恐怖に耐え切れずに、与一は瞼を閉じた。

 全身が緊張で、体温を上げていく。


 

 そして瞼に衝撃が走るや、またゴオ‼ と爆風がまき散らされた。


 

 今度は全身を包むほどの広範囲。

 またふわりと空中に投げ出され、仰向けのまま地面に着地していた。焦げた匂いにせき込みながら、与一は起き上がる。

 

「くそ‼ さっきから何が起きてんだよ⁉」

「それはこっちのセリフだ、クソガキが‼」

 

 相手の憎悪に満ちた声。

 与一は口を拭いながら、ラルフに向き直る。小さな黒煙が薄くなるにつれ、その表情が歪んでいるのが見えた。

 それだけじゃない――顔面の右半分辺りが火傷で黒く染まっていたのだ。

 

「ちくしょう! むやみやたらと暴発しやがって‼」

「はは……攻撃した当人が傷ついてちゃあ、世話無いわな!」


 初めて相手に土を付けられた。その事実に、与一は余裕を取り戻す。


(どうやら全身を包んでいるこの炎……何かのきっかけでいきなり爆発するらしいな)


 唾を飲み込み、腕に纏わりつく幾何学な文様を見下ろす与一。


(その攻撃のやり方を掴めれば……コイツに勝てる‼)


 ふーっと息を吐いて、与一は突撃した。

 拳を強く握り、それを相手に打ち込もうと。


「付き合ってられるか⁉」


 しかしラルフは、与一の突き出した拳に盾の側面を当て、いなす。

 そのまま与一の側面に立ち、かぎ爪を振り払った。

 風圧――その勢いが増し、与一は衝撃波に包まれる。恐らくあの見えない攻撃を喰らったのだろう。

 強制的に上に吹き飛ばされ、与一は建物の屋根に激突していた。

 瓦を砕きながらも、ダメージは全く感じていない。しかし斜面で足場が悪く、すぐには立てなかった。


「アイツは⁉」


 与一は地上を見る。

 ラルフを発見した時には、奴は一直線にとある方向へ走っていた。

 その先に居るルーミエを目指して。

 こちらの相手に業を煮やしたのだろう。

 与一は奥歯を噛み締める。


「ちくしょう! 思い通りになんか、させるかよ⁉」


 怒りで走りだそうとした時、両足に熱が籠った。

 見れば、足の周囲に揺らめく文様が、光と共に火花を散らしている。


(これってまさか⁉)


 与一はそのまま、足に意識を集中させて、ラルフを見据える。


「頼む‼ 俺をアイツのところまで……飛ばせーーッ‼」


 爆音が鼓膜を揺さぶった。

 与一の視界は急激にブレ、視認しづらいままにラルフの背を追う。


「おらああああーーーーッ‼」

「なんだと⁉」


 驚愕したラルフの顔を一瞬だけ視認し、相手の身体に抱き着いた。

 そして与一とラルフは、ルーミエを通り過ぎ、その先へ不時着していく。

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