第5話 ミラの予言
「んあ?」
そこからチカチカと、視界の端で点滅する明かりを拾う。
あまり柔らかくないソファから起き上がり、与一は背を伸ばす。外は暗く、気分は
「おはよう。長い事、眠ってたわね」
与一が顔を上げると、今にも消え入りそうな電極の光。その真下にあるテーブルの手前で、椅子に体育座りをしながら、じっと与一を眺めるミラが居た。
「昨日、酷い目にあったからな。危うく殺されかけた……って、まだ昨日じゃないか?」
与一は包帯に巻かれた自分の腕を見る。
「ええ。日は跨いでないわ」
「そっか。速いところ腹に何か詰め込んでおくか。また今日も、ヤバいところに駆り出されそうだし」
言って、与一は立ち上がる。
「ミラも飯はまだか?」
「ええ」
「お腹空いたら、ちゃんととっておけよ? お前、本に読みふけったりするとすぐ飯とるの忘れるからな」
返事は無かったが、恐らくこっちの言葉は聞き入れているだろう。そう判断し、部屋の隅に置かれてあるダンボールからパンや缶詰を取る。
それらを食卓に並べ、与一はミラと食事を共にした。
そんな時だ。ミラが唐突に口を開く。
「出会って一週間ぐらいに、私が貴方に言った事、覚えている?」
「ん?」
缶詰の魚肉を頬張りながら、与一は小首を傾げる。
はて? どんな会話をしたっけ?
そんなことを思っていると、ミラもそれを察してか溜息を吐いた。
「私は……他人が辿るであろう、『未来』が見える」
「…………」
瞬間、与一は思い出した。
彼女がいきなり突飛な発言をしたこと。
その時は冗談かと笑って流したが、彼女の次に口にした内容は軽く済ませられるものではなかった。
「与一……貴方は近い将来、死ぬ」
食事の手を止め、与一はミラを見据える。
彼女の黒い瞳は全く動じていない。出会った時から不思議な雰囲気を感じていたが、目前の少女から発せられる『圧』は、不気味なほど強かった。
異様に喉が渇き、与一はコップの水を飲み干す。
そうやって一間置き、彼は喉の調子を整えた。
「まあ、その……何が言いたいんだ? 俺が近々死ぬとして、俺に何かさせたいのか?」
「……私が見る『未来』を、覆した人間は居ない。恐らく、貴方がどう頑張ったって、その未来は変わらない」
「ああ~、そうなのか……。正直、そんなこと言われても、危機感を感じないんだよな。言ってしまえば、一週間に一回は死にかけてるし」
白髪の混じる黒髪を掻きながら、困った顔で唸る与一。
自身の腕や腹回りは包帯でぐるぐる巻きだ。珀者との戦いを物語る。
「私が分からないのは……貴方が私を『見捨てない』こと」
「は?」
また突飛なことを言ったかと思えば、今度の彼女はどこか弱々しい声だった。
ミラは目を逸らして言う。
「貴方に会うまで、何人か他の人間らとも出会った。けれどどの人達も、私を気味悪がっていたわ。そしてその多くは、力不足に死んでいった」
そしてもう一度、与一へ真っすぐ視線を向けてくる。
瞳はどこまでも黒い。何処までも続く闇のように……。
「私が居ると、周りに『死』を振り撒いてしまう。私は『魔女』……。私に関わった人間は、ことごとく死んでいく」
「…………」
「前にもそう、貴方に話した。けど貴方は、変わらず私をここに置く。悩む素振りすらなく」
一度、目を伏せるミラ。
次に瞼を開けた時には、その瞳の暗さは幾分か和らいで見えた。
「貴方の『死』を招いたのは、私かもしれない。貴方は……私を恨まないの?」
「ごめん。その、理解が追い付かないんだが――率直に恨む理由が分からん」
ミラの瞳が驚いたように大きくなる。
だが二秒と足らずに、半眼になった。
「ちゃんと頭に入ってないようね?」
「いや、お前の話を聞いてるとさ。なんか別に、お前が意図して誰かを不幸にしてるわけじゃないんだろ? そうなんだよな?」
「ええ。まあ」
「なら、見捨てる理由にならなくないか? 俺はお前が困ってると思ったから、助けたんだぞ?」
「…………」
「それに俺はまだ生きてる。勝手に死んだことにするな」
「…………生きている内は、どうとでも言える。人間は死ぬ間際まで、どんな本音を隠しているか分からない」
「う~ん? なんかめんどくせえな」
眉間を指で押さえながら、与一は言葉を考え――とある疑念に思い至る。
「それじゃあさ。未来が見えるって言うんなら、俺が死ぬ時、何をやったのか分かるんだよな?」
「ええ」
「俺は死ぬ時、後悔の言葉を口にしてたか? お前を責めるようなことでも言ってたのか?」
数秒の沈黙。
そののち、ミラは首を振る。
与一はそれを聞いて、ニヤッと笑ってみせた。
「ならまあ、それが答えだよ。心配するな、俺は死にはしねえ。これでも、体は頑丈な方だと自負してる」
言いたいことを終えると、ミラは面食らったように瞳を大きくする。
それで納得してもらえたかは分からない。けれど与一は、どんな理由があろうとミラを一人にするつもりはなかった。
静真が自身を見捨てなかったように。ミラも家族なのだから、どこまでも一緒だと。
そうやって与一が食料の最後の一口を終えた瞬間――外から大音量のサイレンが鳴り響いた。
コロニー内の住民、全てへの危険信号。
「っ⁉ サイレン‼」
与一はすぐさま立ち上がり、窓から外を見渡した。
見下ろす道路には、状況が分からぬまま立ち尽くす人や、何かから走って逃げて行く人など混沌と化している。
「この状況……まさか
最悪のケースを想定して、与一はすぐさま部屋にある防護服と武器を手に取る。
「ミラ! すぐさま
与一が振り返って告げると、ミラは静かに立ち上がる。
それから一分とかからず、与一はミラの手を引いて外に出た。
人々が逃げ惑う。彼らが遠ざかろうとする方角からは、火事でも起こったのか炎が巻き上がり――耳をつんざく、強大な唸り声が響いていた。
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