『無敵』の男、過酷な異世界で抗い抜く‼

ホオジロ ケン

第一章 ルグドー襲撃編

第1話 絶望。しかし希望の兆し

 恐ろしい風切り音が鳴り響く。

 目の前の光景に、一人の少女――ルーミエが絶句で呼吸を詰まらせた。

 ルーミエの前には、二人の人物が対峙していた。

 一方は彼女と歳の近い青年で、ルーミエを助けようと前に立つ。

 しかしそんな青年に対し、もう一方の人間。ルーミエよりも小柄な少女でありながら、その手には巨大なハンマーが握られていた。

 少女は、自分の背丈よりも大きいその鈍器を軽々しく振り回し、


 少女を守るために立ちはだかった青年――与一よいちへ容赦なく振り払った。


 鈍い音が鳴る。

 見知った知り合いが、近くの建物へと吹き飛ばされていく。数メートル先にある木片の壁を突き抜け、瓦礫が降り注いだ。

 積み上がった瓦礫の隙間に、だらりと手が垂れ下がっている。


「やだ……」


 絶望に、ルーミエの奥歯がガタガタと震えた。

 また……誰かが死ぬ……。

 また……失うの?


「居なくなっちゃったね? 貴方の騎士様」

「……っ⁉」


 気づけばルーミエの前に、ハンマーを掲げた少女が立っていた。

 金髪の髪が陽に当てられて輝く。

 大体一〇歳ぐらいの少女だろうか? その屈託のない笑顔は、今しがた人を殺した人間のするものではない。

 相手はハンマーを持つ手を変えながら。


「貴方に恨みは無いんだけど、ごめんね~。私の教祖様が、貴方の死を願ってるんだ~。この世に居る聖女様は、一人残らず殺してーって」

「そ、そんな! 一体何が目的で⁉」

「さあ知らな~い。まあ、知る必要なんてないんじゃない? どうせ貴方、死ぬんだし」


 そう言うや、少女はハンマーを空に掲げて。


「んじゃ、覚悟決めて受け入れてね~。あんまり痛くないようにするから」


 まるで子供をあやす様な無邪気さで、凶器を振りかざそうとしている。

 ルーミエは、ただ目を瞑った。

 この非常な現実に……受け入れがたい運命に目を背けたくて。

 か弱い聖女は目を瞑るしかなかった。


(ごめんなさい……お父様。お母様。そして与一さん……)


 瞼越しの光が、何かの陰で遮られていく。恐らく、相手のハンマーが振り下ろされている直前なのだろう。


(私も、今そこに‼)


 風を切る音。

 迫る風圧。

 それが眉間を撫で……ピタリと、何も感じなくなる。

 痛みも無い、不気味な静寂。


「あれ? どうしてなのかな?」


 相手が何かへ向けて、拍子の抜けた声を発していた。

 ルーミエは瞼を開ける。そして目前で鉄の塊を制止させながら、その持ち主は別の方角へ視線を向けていた。

 ルーミエもまた、その方角へ視線を流し――息を詰まらせる。


「どうしてお兄さん、生きてるの?」


 そこに……砕けた木片を足蹴にしながら、立ち上がる青年が一人。

 死んでしまったと思っていた与一は、生きていた。

 手足も折れた様子はない。出血も全く見て取れない。

 その身は汚れが目立つ以外、何も変わらず……彼は自身の体を見回しながら。


「本当だ⁉ 何でだろう……」


 状況にそぐわない、緊張感も欠片もないリアクションを返してきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る