第53話 狼の討伐作戦、始動

 狼型クオープスの討伐遠征。

 与一(よいち)らがその被害にあっている農村に到着してから、三日の時間が経過した。


◇


 朝。太陽が照り付け、それなりに熱い気温が纏わりつく中……与一は食堂代わりに使われているテントへやって来た。


「与一、おはよう」

「ああ、おはようアノン。お前も朝食か?」


 コクリと頷くアノン。

 二人でパンとスープ、こまごまとした野菜を受け取り、長テーブルへ振り返る。


「おお、与一君。こっちが空いてるで~」


 するや、この農村で知り合った騎士のおじさんに手招きされた。

 見ればおじさん以外にも二人ほど、若い騎士が同じ朝食を取っている。


「おはよう。今日もここは熱いな」

「この季節はな~。これからどんどん熱くなるから、ちゃんと水分取るんやで?」


 与一とアノンは、そのおじさんの隣に座る。

 するやおじさんは、テーブルに置かれてある筒形の装置――冷感鉱石機(れいかんこうせきき)を起動させた。装置の内部から白い煙が排出され、周囲に冷たい空気が振り撒かれる。


「王都から皆さんが来て貰って、ここも随分とにぎやかになった。前までは本当に、閑散としていたからな~」

「ずっと農村のおばちゃんらにどやされる毎日でしたからね」

「そういや、最近は若い騎士に野菜おすそ分けで忙しくって、絡んでこなくなったな」


 おじさんと二人の騎士は盛大に笑う。

 なんともなごやかなムードである。ここがクオープスの被害にあっているなど、思えないほどの平和だ。


「人数が多いと、やっぱり活気がみなぎるわ。いっそ、君らもここに配属されたらどうや?」


 言われ、与一はスープを飲みながら考える。


「農村で生活か。まあ、確かにほのぼのして良いかもだけど。王都にルーミエを待たせてあるからな」

「なんや、君の彼女かいな? そういや君、ノレアさんとも仲良いよな? うらやましいな~両手に花やね」

「おいおいおい、プレイボーイにもほどがあるだろ!」

「俺らにもその運気を分けてくれ!」

「え? いや、そんなんじゃないって。それにノレアって、気難しい奴だぞ? 一緒に居ても、辛辣なこと言って来るし。そんなに羨ましいか?」

「美人ってだけでお釣りが来るだろ! あの美貌……ここじゃ絶対にお目に掛かれない」

「うんうん。辛辣な発言も、それはそれでご褒美だしな!」

「嘘だろ……。俺の心が弱いのか?」

「気にしないで、与一」


 アノンに優しく頭を撫でられる与一。

 すると隣でおじさんが「わっはっは」と笑う。


「まあ、これくらい豪胆な奴らだ。今回の作戦は安心して背中を任せてやると良い。と言っても、奴らがこちらの策に乗ってくれるかが問題だが」

「例え知能のある奴らと言っても、所詮は獣。奴らの驚異も、今日で全部狩り取ってやりますよ!」

「ああ!」


 若い騎士二人が、そう言って意気込む。

 狼型クオープスの討伐作戦。それが今日、行われる。

 アノンと隣に座るおっさん、少数の騎士は農村を守り、それ以外の教会関係者は二手に分かれて、掃討に向かう手はずだ。物資を運ぶ振りをしながら森に近づき、奴らを誘い出す。

 与一はそこでノレアらと行動を共にし、狼型を相手取ることとなった。


「そろそろ作戦決行の時間だ! 皆の者、車庫の前に集まってくれ!」


 外から騎士が、こちらに号令をかけてくる。

 与一は最後のパンの欠片を口に突っ込み、立ち上がった。


「それでは頼むぞ与一君。生きて帰ってこれたら、うまい酒でも奢ってやるさかい」

「俺、酒なんて飲めねえけど、まあ期待して待っててくれ!」


 言って、与一らはそれぞれ、作戦へ向かうのであった。


◇


 それから一時間ほどして、車両に繋がれた荷台に、騎士らが乗り込んでいく。相手に物資と思わせるためだ。

 ただ全ての荷台が偽物だと知られれば、逃亡を図られる可能性もある。それも考慮して一台だけ、本物の物資を騎士達が運び乗せていた。


「いよいよ始まりますわね? どちらが先に狼型を潰せるか、楽しみですわ」

「まだその勝負の事、覚えてたのかよ?」


 不意に話しかけて来たクラリスの発言で、与一は勝負を持ち掛けられていたことを思い出した。


「あの時はカッとなって乗っかったけど、ここの人達のことを思うと、やっぱそんな勝負に乗れねえな。失敗なんて許されねえし」

「あら、自信の小さいことで。まあ良いでしょう。私の部隊に三匹一気に来ることとなれば、貴方達の出る幕なんて無くなりますしね」

「まあ、それで良いよ。ちゃんとやれよ? 奴らがそっちに行ったら、全力で駆けつけるから」

「余計なお世話ですわ。自分のことだけ考えてなさい」


 そう言ってクラリスは、別の部隊へと合流していく。

 その後与一も、ノレアに呼ばれ車両の後部座席へと乗り込んだ。


「与一、これを」


 するとドア越しにアノンが、一枚のお札を手渡してくる。

 紙には手書きで、謎の文様が描かれていた。


「何だこれ?」

「私の権能を、発動させるための切符。それを千切れば、五分間、『未来視』が使える」

「『未来視』? それって、未来が見えるってことか?」

「うん。相手の二、三秒先の動きが、残影みたいに見える。けど、あまりに多くの敵を視界に入れて発動すると、疲れるから。使いどころは見極めてね」

「へえ~便利だな。他の奴らにも同じ物を配ったのか?」

「私のお札、五枚までしか作れない。だから他はノレアとログナス、クラリスとギルムにそれぞれ」

「そんな大事な一枚なのか。ありがとう、きっと役に立つはずだ」

「ちゃんと、戻って来てね」


 こちらに真っすぐ見据えて、アノンは告げてくる。

 与一は「ああ!」と彼女の頭を撫でたところで、車両にエンジンが響いた。


「それじゃあ、討伐任務に出るわ。気を引き締めなさいよ、与一」


 前の助手席に座るノレアへ頷き返し、車は結界の外へと移動し始めた。

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