第52話 狼達の思惑

 着陸した土地は、見渡す限りの緑と土色の大地であった。

 少し高台に建てられた飛行船の停留所から、与一(よいち)は周囲の景色を見渡す。

 農村ということもあり、まばらにある家屋以外は畑、畑、畑。

 白い網のようなもので全体を覆われた畑もあれば、水を張った畑もある。収穫時期はまだまだ先なのか、作物はなっていない。

 あれだけ都会っぽい王都から一気に田舎の風景になり、落差は激しかった。

 

「皆の者。まずは空の旅、ご苦労だった。早速だが討伐任務を開始する。ここの騎士や農村関係者の協力の下、結界付近での調査班。下宿先での備品運搬班に分かれてくれ」

 

 ログナスが全体にそう指示し、騎士らが二手に分かれていく。与一らは、調査班であった。

 そうやって飛行船の停留所から出ようとすると、遠くで少し大きな木造建築を見つける。

 扉が開け放たれ、中には船のような形をした何かが、佇んでいた。

 

「どうしたの? 与一」

「ん? いや、アレ何だろうと思ってよ。陸地なのに船があるのか?」

 

 指を差して、聞いてきたアノンに疑問の大元を示す。

 アノンは自分が乗って来た飛行船を見上げて。

 

「コレの、小型版。ここに居る人達が、王都へ行けるように」

「そうなのか。でも、あの大きさだと入るのって一○人ちょっとってところか」

「うん。活躍の機会、あんまりない」

 

 用意はしてあるが、結局埃被って、使えなくなるパターンかな? 日本で何度も経験したことを思いつつ、与一は調査のために移動していく。


◇


 広い畑を超えて、与一、ノレア、ギルムは農村配属の騎士が運転する車で、結界の外へ出た。

 

「いやはや、王都で優秀な成績を残したお二方に来てもらえるなんて、心強い。と言うことは、そちらの方も大きな功績を立てているんでしょうな」

「俺か? まあ、これからって感じかな」

 

 フフンと鼻を鳴らす与一。

 騎士の男は「それはそれは!」と笑うが、ノレアはジト目になっていた。

 

「あまり調子に乗るのはやめなさい。それにしても」

 

 ノレアは屋根のない車から、周囲を見渡す。

 草木の生い茂る大地。その陰には、虫やネズミのような小動物がチラホラと見える。

 

「大型は別にしても、中型の魔物も居ないわね? この周辺は前からこうなの?」

「いえ。草食の魔物も普通に居ましたよ。けれどクオープスの野郎共が、そいつらを根こそぎ狩っていきまして。結果、多くは逃げていき、中にはこちらに牙を剥く怪物になってしまいました」

 

 運転する騎士の説明に、助手席に座るギルムが「ふむ」と考え込む。

 

「そうなると、食肉を獲るのも苦労してそうですね。クオープス化した生物の肉なんて、固すぎて食用に向いていない。今はどうやって食べ物の確保を?」

「家畜やそこから生産された卵。あとは王都から支給されてます。が、日に日にそれも少なくて厳しくなってますよ」

「そうですか。やはりこの問題はこれ以上、先延ばしにはできませんね」

 

 やがて原っぱの先に森が見えてくる。

 そこで車両は停車した。

 

「ここから先が、奴らの根城になってます。奴らは木々の影から襲撃して来るんでさあ」

「奴らを誘い出すなら、やはり囮を使った方が良さそうですかね」

「ええまあ。ただ何度かそうやって罠を張ったり、待ち伏せなんかもやってみたんですけど……奴ら、引き際を弁えてるもんで。あっしの思い違いじゃなけりゃあ、人間を殺すことが目的じゃないのかもしれやせん」

「どういう意味?」

「人間は二の次に、食料や物資を狙うんでさあ。奴ら、別に喰う必要もねえのに、自分らの運搬車目掛けてね。そいでもって、荷物をズタズタにしたら、戦闘もせずに帰っちまう」

「それが死者の居ない理由ですか。まさか奴ら、こちらの兵站を弱体化させるために?」

「確かに、そんな行動に見えるわね。だけど問題は……こんな農村で一体何のために」

「この村を貧しくさせて、一気に攻め落とす――いや、なんか回りくどいよな? 空から物資が出入りできてる以上、あまり頑張っても意味が薄いっていうか」

 

 与一の言葉に、ノレアもギルムも唸る。

 

「兵站の弱体化も、中途半端な効力しかない。けれどこうやって時間を掛けて、農村に固執している。確かに不気味ね。明らかに裏で何かを企んでいる」

「どちらにせよ、奴らをおびき出す策を考えなくては。わざわざ奴らの有利な森の中へ突っ込むのは危険ですし」

「そうね。ログナスにここの地形を伝えて、作戦を練りましょう」

 

 言って、ノレアらは車両に戻って行く。

 与一も後に続いたが、遠方で小さな光の反射を見た。

 

「ん?」

 

 与一は振り返ると、そこで呼吸を止めた。

 木々の隙間――茂みの暗闇の中で、赤い結晶を肌に張り付け、鋭い眼光を宿すモノを見た。

 こちらをまるで観察するように……そいつは与一の視線に気づいたのか、身を翻して闇の中に消えていった。

 

「今のが……」

 

 一瞬だったために、断定はできない。

 しかしもしそうだとすれば、確かにそのクオープスには知能が有る。

 与一は相対する敵に対して、一筋縄ではいかなそうな雰囲気を感じ取った。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る