第38話「木曜、みつきが、面白い、覗き情報を、また、持ってきた件」
木曜日の朝、悠真が、キッチンに、降りると、首が、待っていた。
天井から、にゅっと、降りてきている。
「悠真くん、おはよう!」
「みつきさん、おはようございます」
「今日、あたしの日!」
「はい」
(みつきさん、首だけで、朝の挨拶)
(毎週、木曜日の、開始)
澪が、コーヒーを、淹れていた。
「おはようございます、澪さん」
「……おはよう」
澪が、悠真の、隣に、コーヒーを、置いた。
いつもの、距離感。
35話以来、毎朝、ある光景。
みつきが、首だけで、それを、見ていた。
「澪さん、進歩、ね」
「……うるさい」
「あたし、覗き、復活させたから、毎日、見てる」
「……」
(みつきさん、覗き、復活)
(澪さんに、見られている、こと、報告)
(澪さん、嫌そう)
「みつきさん、覗き、ほどほどに、して、ください」
「分かってる、安全な、覗きだけ」
「澪さんの、プライバシー、大事です」
「うん」
(みつきさん、了承)
(情報屋、節度、保つ)
---
紅が、新聞を、読んでいた。
「悠真くん、おはよう」
「紅さん、おはようございます」
「今日、みつきちゃんの日?」
「はい」
「楽しんでらっしゃい」
(紅さん、火曜日が終わって、リラックスしている)
(神代さんとの、関係、結論、急がない、と決めた)
(紅さん、安定している)
白音も、お茶を、飲んでいた。
「悠真くん、おはよう」
「白音さん、おはようございます」
「今日、何、する?」
「みつきさんが、決めます」
「ふふ、楽しみね」
(白音さん、傍観者、楽しんでいる)
(金曜日、自分の日、を、楽しみにしている)
ましろも、悠斗も、まだ、寝ていた。
(昨日、追いかけっこで、疲れたらしい)
(八歳児、二人、寝坊)
(俺も、疲れた)
---
みつきが、首を、戻して、胴体つきで、入ってきた。
「悠真くん、今日、何、する?」
「みつきさんが、決めてください」
「あたし、決める権利?」
「あります」
「うーん」
みつきが、首を、傾けた。
「……あたし、悠真くんに、相談、聞いてもらいたい」
「相談、ですか」
「うん」
(みつきさん、相談、聞いてもらいたい)
(みつきさん、相談役、なのに、相談する側?)
「みつきさん、相談、というのは」
「あたしの、悩み」
「悩み?」
「うん」
(みつきさん、悩み、ある)
(情報屋、相談役、悩み、ある)
(人間味、感じる)
「分かりました。聞きます」
「ありがと」
「お礼、いらない、ですよ」
「ふふ」
---
午前、悠真と、みつきは、リビングで、お茶を、飲んでいた。
紅が、白音と、買い物に、出かけていた。
澪は、自分の、部屋に、戻っていた。
ましろと、悠斗、まだ、寝ていた。
(家、静か)
(みつきさんと、二人)
みつきが、お茶を、飲んでから、口を、開いた。
「悠真くん」
「はい」
「あたしの、悩み、聞く?」
「お願いします」
「あたしね、最近、覗き、復活させたじゃん」
「はい」
「で、覗いてるうちに、思った、こと、ある」
「何ですか」
みつきが、しばらく、考えた。
「……あたし、ここの、家族、好き」
「うん」
「みんなと、暮らせて、嬉しい」
「うん」
「でも」
「でも?」
「……あたしだけ、何か、足りない」
(…………)
(みつきさん、足りない、と、言った)
(20話で、ろくろ首として、孤独だった、と、教えてくれた)
(その、感覚、まだ、ある)
「みつきさん、足りない、というのは」
「あたし、ろくろ首。家族、いない。仲間、いない」
「百鬼荘、家族、ですよね」
「うん。でも、ろくろ首の、仲間、いない」
(…………)
(みつきさん、種族の、孤独)
(澪は、雪女の、集落、出身)
(紅は、九尾の、家系)
(白音は、白蛇の、社の、出身)
(ましろは、座敷童、独立した、存在)
(みつき、ろくろ首、家族から、捨てられた、孤独)
「みつきさん、ろくろ首の、仲間、探したい?」
「……うん」
「探したことが、ありますか」
「ない」
「なぜですか」
「怖いから」
「怖い?」
「……ろくろ首、見つけても、受け入れてくれない、可能性、ある」
(みつきさん、怖い)
(自分の、種族に、拒絶される、可能性)
(家族から、捨てられた、トラウマ)
「……」
「だから、ずっと、探さないで、生きてきた」
「みつきさん」
「うん」
「俺、相談役、として、ヒント、出していいですか」
「お願い」
(みつきさん、相談役、なのに、相談される側)
(俺、相談役、になる)
(順番、入れ替わった)
悠真が、しばらく、考えた。
「……探してみる、価値、あると思います」
「うん」
「拒絶されたら、辛い、ですが、見つかれば、嬉しい」
「うん」
「リスクと、リターン、天秤に、かけて」
「うん」
「みつきさんの、人生、です。みつきさんが、決めて」
みつきが、しばらく、考えた。
「……ありがと、悠真くん」
「お礼、いらない、です」
「ふふ」
「みつきさん、神代さんに、相談してみては、どうですか」
「神代さん?」
「神代さん、半妖の、コミュニティ、知っている」
「うん」
「ろくろ首の、コミュニティも、知っているかも」
「……そっか」
(みつきさん、目を、輝かせた)
(情報、ヒント、得た)
「あたし、神代さんに、聞いてみる」
「お願いします」
「悠真くん、ありがと」
「お礼、いらない、ですよね」
「ふふ、いらない」
(みつきさんの、悩み、ヒント、提供できた)
(俺、相談役、できる)
(白音さんに、教わった、こと、活かせている)
---
昼、悠真と、みつきは、近くの、レストランで、食事した。
イタリアン。
みつきが、行きたい、と言った。
「悠真くん、あたし、パスタ、好き」
「いいですね」
「最近、紅さんに、料理、教わってるけど、パスタ、難しい」
「ですか」
「うん。茹で時間、難しい」
(みつきさん、料理、勉強、続けている)
(紅さんの、料理教室、効果)
パスタを、注文した。
待っている、間、みつきが、また、口を、開いた。
「悠真くん」
「はい」
「あたし、相談役じゃ、ない、こと、ある」
「相談役じゃ、ない?」
「うん。あたし、覗き、好き」
「知ってます」
「で、紅さんと、神代さんの、こと、覗いてる」
(…………)
(来た)
(みつきさん、また、覗き情報)
「紅さん、神代さんと、頻繁に、連絡してる」
「はい」
「で、神代さん、頻繁に、紅さんに、報告してる」
「報告?」
「うん。仕事の、進捗、自分の、感情、いろいろ」
「……」
「あたしの、勘、紅さん、神代さんを、選びそう」
(…………)
(みつきさん、勘、外れない、と言った、こと、ある)
(紅さんが、神代さんを、選びそう)
「みつきさん、確信ですか」
「確信じゃ、ない、勘」
「……」
「悠真くん、心配?」
「心配、というか、紅さんの、選択を、応援、します」
「正直、寂しい?」
「……寂しいです」
「ふふ」
(みつきさん、楽しそう)
(情報屋、人の、感情を、楽しむ)
「悠真くん」
「はい」
「紅さんが、神代さんを、選んだら、あなた、紅さんと、どう、付き合う?」
「家族として、続けます」
「家族?」
「ええ。紅さんは、ここに、家族として、残る」
「神代さんと、結婚しても?」
(…………)
(結婚)
(みつきさん、結婚、まで、想定している)
「結婚、ですか」
「うん。紅さんが、神代さんを、選ぶ、ことは、結婚、まで、行く可能性、ある」
「……」
「九尾、長い時間、生きる。神代さん、人間。神代さんの、人生、終わるまで、紅さん、付き合う」
(紅さん、神代さんと、結婚したら、神代さんの、人生、終わるまで、付き合う)
(神代さん、五十年くらい、生きる)
(紅さん、九百年、生きてきた、九尾。五十年、待つ、ことに、なる)
(紅さんの、選択、重い)
「みつきさん、紅さんは、それも、覚悟して、考えていますか」
「……たぶん」
「みつきさん」
「うん」
「紅さんの、選択、本気、ですね」
「うん。本気」
(紅さん、本気で、神代さんを、選ぼうとしている)
(俺、覚悟、しないと、いけない)
(紅さんが、神代さんと、結婚する)
(家族として、ここに、残る、けど、好きは、終わる)
(俺、卑怯な、選択を、続ける、責任、引き受ける)
---
午後、悠真と、みつきは、家に、戻った。
帰り道、みつきが、悠真を、見上げた。
「悠真くん」
「はい」
「あたし、神代さんに、聞いてみる、と言った、こと」
「ろくろ首の、コミュニティ、ですか」
「うん」
「お願いします」
「で、神代さんに、聞いたら、紅さんに、伝わる」
「……?」
「紅さんと、神代さん、頻繁に、連絡してる、から」
「あ」
(紅さんに、伝わる)
(紅さんが、心配する)
「みつきさん、それで、いいですか」
「いい」
「紅さんに、知られても?」
「うん。あたし、ろくろ首の、仲間、探す、ことを、隠したくない」
(みつきさん、堂々と、決めた)
(情報屋、隠し事、しない)
(自分の、行動、堂々と)
「みつきさん、すごいですね」
「すごい?」
「自分の、人生、堂々と、生きている」
「ふふ、おだてないで」
「おだてじゃ、ないです」
「悠真くんも、見習って」
「俺、ですか」
「うん。あなた、卑怯な、選択を、堂々と、しなさい」
(…………)
(みつきさん、堂々と、と言った)
(俺、卑怯な、選択、堂々と、できているか)
(罪悪感、抱えている、こと、ある)
(堂々と、できていない、面、ある)
「みつきさん、ヒント、ありがとうございます」
「お礼、いらない」
「みつきさん、ヒント、出すの、上手いですね」
「白音さん、見習ってる」
(白音さん、教育者、後輩、ができた)
(みつきさん、相談役、として、成長している)
---
夕方、みつきが、神代に、電話した。
悠真も、隣で、聞いていた。
「神代さん、お願いが、あって」
「みつきさん、こんにちは。何でしょう」
「ろくろ首の、コミュニティ、知ってますか」
「……ろくろ首?」
「あたしの、種族の、仲間、探したくて」
神代が、しばらく、沈黙した。
「……ろくろ首の、コミュニティ、知っています」
「ほんと?」
「ええ。陰陽庁、各種族の、コミュニティを、把握しています」
「会わせてもらえますか」
「……可能です。ただし、ろくろ首、警戒心、強い」
「あたしも、警戒心、強い」
「ふふ、では、相性、いい」
「お願いします」
「来週、調整します」
(みつきさん、来週、ろくろ首の、コミュニティに、会う)
(一歩、踏み出した)
「神代さん、ありがとう」
「いえ、こちらこそ。みつきさんから、連絡、いただけて、嬉しい」
「ふふ」
(神代さん、嬉しい、と言った)
(みつきさんに、頼られて、嬉しい)
(神代さん、家族、扱いされて、嬉しい)
(百鬼荘、家族、感、強い)
電話、終わった。
みつきが、ふっと、息を、吐いた。
「悠真くん、決めた」
「はい」
「来週、ろくろ首の、コミュニティ、会う」
「お疲れ様、です」
「ありがと」
「お礼、いらない、ですよね」
「ふふ」
---
夜、紅が、悠真の、部屋に、来た。
「悠真くん、ちょっと、いい?」
「はい」
紅が、椅子に、座った。
「みつきちゃん、神代に、連絡したって?」
「ご存じ、ですか」
「神代から、聞いた」
(紅さん、神代さん、頻繁に、連絡している)
(みつきさんの、情報、即、紅さんに、伝わる)
「紅さん、心配、しましたか」
「した」
「みつきさんが、ろくろ首の、仲間、探すこと?」
「うん」
「紅さん、応援してください」
「うん。応援、する」
(紅さん、即、応援、と言ってくれた)
(百年生きた、九尾の、優しさ)
「ただ」
「ただ?」
「みつきちゃん、傷ついたら、心配」
「ですね」
「拒絶される、可能性、ある」
「みつきさん、覚悟、している、と思います」
「……うん」
紅が、しばらく、考えた。
「悠真くん」
「はい」
「みつきちゃん、相談役、で、楽しんでた、けど」
「はい」
「自分の、人生、考え始めた、ね」
「そうですね」
「悠真くんの、影響、と思う」
「俺?」
「うん。あなたが、卑怯な、選択を、堂々と、続けている、こと、みつきちゃんに、影響している」
(…………)
(紅さん、深い、こと、言う)
(俺の、影響)
(みつきさんが、自分の、人生、考え始めた、こと)
(俺の、選択が、家族、全員に、影響している)
(責任、重い)
(でも、悪い、影響じゃ、ない)
「紅さん」
「うん」
「みつきさんが、いい方向、向いてる、ということ、ですか」
「うん」
「よかった」
「うん」
紅が、立ち上がった。
「悠真くん」
「はい」
「明日、白音の日?」
「金曜日です」
「楽しんで」
「ありがとうございます」
「お礼、いらない」
(口癖、健在)
紅が、出ていった。
(紅さん、余裕がある)
(神代さんとの、関係、安定している)
(紅さん、自分の、選択、進めている)
---
深夜、悠真は、ログを、書いた。
*【自分のログ:三十八日目】*
*感情:感謝、安心、複雑、応援*
*感謝:みつきさんが、相談してくれた*
*安心:神代さんが、みつきさんの件、対応してくれた*
*複雑:紅さんが、神代さんを、選ぶ可能性、より、現実的*
*応援:みつきさんの、ろくろ首コミュニティ訪問、応援*
(ログ、書き終わった)
(みつきの日、収穫、多かった)
(みつきさんが、自分の、人生、進める、決意)
(紅さんと、神代さんの、進展)
(家族、それぞれ、動いている)
(俺、見守る)
そのとき、ノックの音。
「どうぞ」
澪が、入ってきた。
「澪さん」
「……今日、みつきと、長く、話してた」
「はい」
「……みつき、ろくろ首、探す、と聞いた」
「はい」
「……」
「みつきさん、応援、しますか」
「……うん」
澪が、悠真の、隣に、座った。
「悠真」
「はい」
「……雪女の、集落、知ってる?」
「澪さんの、故郷ですか」
「うん」
「……いつか、行きたい?」
(…………)
(澪さん、雪女の集落、行きたいか、聞いてきた)
(澪さんの、故郷)
(行きたいか、悠真に、聞いている)
「……行きたい、ですか」
「うん」
「いつか、連れて行ってください」
澪が、目を、見開いた。
「……ほんと?」
「ほんとに」
「……家族、紹介する」
(…………)
(澪さん、家族、紹介する、と言った)
(雪女の、集落の、家族)
(俺、紹介される)
(重い)
(でも、嬉しい)
「澪さん、ご家族、ご存命、ですか」
「……うん」
「いつ、行きますか」
「……いつかは、決まってない」
「ですよね」
「……でも、いつか」
「いつか」
「……約束?」
「約束、します」
澪が、ふっと、笑った。
「……ふふ」
(澪さん、雪女の、集落に、悠真を、連れて行く)
(家族に、紹介する)
(雪女の、家族と、会う)
(プレッシャー)
(でも、楽しみ)
---
岬悠真、百鬼荘生活、三十八日目。
木曜日、みつきの日。みつきが、ろくろ首の、コミュニティを、探す、決意した。神代さんが、調整してくれる。紅さんが、応援してくれる。みつきさんが、自分の、人生、進めている。澪さんが、雪女の、集落に、悠真を、連れて行きたい、と言ってくれた。
それ以外は——
家族、それぞれ、動いている。
俺、見守る、立場。
(俺の、選択が、家族、全員に、影響している)
(みつきさんが、自分の、人生、進める)
(紅さんが、神代さんと、進展)
(澪さんが、雪女の、集落、紹介、考える)
(俺、責任、重い)
(でも、悪くない)
---
*【第39話「金曜、白音と、お茶を、飲んだ件」に続く】*
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