「恋の落下速度を問われたのは初めてだ」でもう勝ち。この一行だけでこの作品の価値が証明されている。
大正の空気が嘘くさくない。「ワタクシ」「むつかしい」「給えよ」が借り物じゃなくて、この書き手の中で消化されてから出てきている。コスプレ大正じゃない。ちゃんと呼吸してる大正。新聞が一枚一銭五厘とか、書生が買えない値段とか、そういう細部が世界を支えてる。
志鶴が自分の小説を音読されて「勘弁してください」って狼狽するの最高。執着ないふりして全部書いてるじゃん。正をモデルにした恋愛小説を新聞連載してるじゃん。直接言えないから小説に書くの、作家として正しすぎるし不器用すぎる。好き。
正の「落とし穴の認識は可能か」「落下速度はどれほどか」って恋を物理で解こうとするの、もうとっくに落ちてる人間の質問なんだよな。本人だけが気づいてない。読者は全員気づいてる。
椿が冒頭で「ただ落ちただけ」だったのに、ラストで意味が変わる構造もきれい。
あと引きが強い。「君と私をモデルにして書いたんです」で投下して「ね、これからもお願いしますね」で閉じる。次の話を読まない選択肢がない。1話でここまで関係性を見せて、まだ何も始まっていないという設計が上手い。
続きを楽しみにしております。