第39話 リーリャ、教材を考える

「じゃあウチは机と椅子をもらってくるニャね」

「いえいえ、自分でやりますのでリーリャ様は自身のお仕事をなさってください」

「そう? わかったニャ」


 すでに席から立ち上がってしまっていたのだが、そう促されたためリーリャは再び着席し、机の上に目を向ける。リーリャの机の上には書類は溜まっていない。リーリャは溜まっている書類を片付けるのではない。書類を作るのだ。


 とはいってもどうやって書類を作ればいいのかわからない。まずリーリャは物品を自分で注文したことがないのだ。なのでひとまず紙とペンをすぐ側に持ってきて、底に今後の教育で必要な物品を書き出す。


 あまり先のことまで見通しても、子供達の成長や気分によって内容は逐一変わっていくだろうから、とりあえず出だしの教育で必要な物をあげる。


 フィルマとレネットの戦闘組は、まずは基礎的な訓練をしていく。


 フィルマは剣の持ち方と、間合いの取り方。足の運び方といったものからスタートするのが良いだろう。そのために必要な物は特になし。


 なので次に進む。


 レネットは火を使う。リーリャは火を教えることができない。ということで、火魔法が使える人を呼んでもらう必要がある。おそらく付いてきている騎士達の中に火魔法を使える人がいるはずなので、おそらくというか必ずいるので、そのうちのよさげな人を一人見繕って連れて行こう。


 なので、ひとまず紙に、レネット、火魔法を使える人、と書いておく。


 ただ、その人が必ずしもどうこうできるわけではないので、火の魔石を使った魔道具を準備する。視覚的な情報から得られるものは多くあるはずだ。言葉で説明を受けるより、実際にどのようなものかを見た方が早い。


 なので少し高価だが、魔法の組み込まれた魔石をいくつか。


 エルビアに必要な物……、これはティニーが戻ってきてから聞くことにしよう。




 でだ。3人に必要な物がある。それは教材だ。


 今まで挙げたものもいってしまえば教材だが、そういう教材ではない。座学用のテキストだとか、実験器具だとか、そうした教材だ。


 王宮にやってくる人の大半が王都にある学院を卒業している。つまりは一定以上の学を持っていて、マナーも十分身につけている。


 しかし子供達3人はいずれも学校に通ったことがない。つまり一般常識が抜けているのだ。一般常識以外にも学問は役に立つ場面があるし、頭が悪ければ下に見られてしまうかもしれない。


 王国と世界の歴史、王国の地理環境、政治や経済。これら王国地誌については最優先事項だ。


 そして書類仕事はある程度片付けられた方がいいだろう。リーリャが言えたことではないが、できれば何かと重宝する。なので書類関係のもの。


 そしてマナー。食事マナー、社交マナー、業務上のマナー諸々。王宮で働く上でマナーというのは常につきまとう。マナーが悪い、と貴族から批判を受けてきたリーリャは、そのマナーの大切さを嫌というほど理解している。


 これに関してはティニーに任せよう。座学もリーリャの得意範囲ではないから、教えられる程度の勉強はしていかなければいけない。


「まずは自分の教材ニャね……」


 いくつか子供達用の教材が書かれていた紙に、自分用の教材、と大きく記入した。


 修道院を出て勉強から解放されて。それで喜んでいたけれど、聖女になったら結局家庭教師が付いて。教会の聖女ではなくなって勉強をしなくて良くなったと思ったら、子供達に勉強を教えるためにはまず自分が勉強をする必要があって……。


 人生は勉強なんだなぁとつくづく思うリーリャである。






「いい感じニャね」

「はい。これで気持ちよく仕事ができそうです」


 リーリャの机と併せて、L字になるように配置されたティニー用の机の上には、すでに小物が配置されている。椅子はリーリャ用の豪華なものではなく、そこら辺にあったのであろう適当な椅子である。


 リーリャは注文リストにちょっとよさげな椅子を追加して、ゆっくりとティニーに目線を合わせた。


「ウチはティニーさんのことを秘書だと思っているけど、同時に子供達を育てる同僚だと思っているニャ。そして、ティニーさんもウチのことをただ上司と思わず、同僚だと思って接してほしいんだニャ」

「わかりました」

「様付けは禁止ニャ。子供達から見たら、ウチらは等しく先生なんだニャ。そこに上下関係はいらない。一緒に子供達を立派に育てるんだニャ」

「はい。やれるだけやってみます」


 そう抑揚なく返してくるが、彼女の目は真剣だ。リーリャが大真面目にティニーに語りかけていたわけだから、それに当てられたのかもしれない。

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