第4話 リーリャ、臭う

 住む場所がないのでしょう、と今日は離宮に泊まることになった。2階の貴賓室のひとつをリーリャ用の部屋として開けてもらい、場所の確認も兼ねてひとまず少ない荷物をその部屋に置きに向かう。


「……なんで付いてくるニャ?」

「ふふふ~、リーリャ、今日は一緒に寝ましょ?」


 そう言ってフィリーはリーリャの手を取ると、るんるんで腕を振りながら長い廊下を歩き出す。


「ニャんで?」

「ニャんでも」

「馬鹿にしてるニャろッ!」

「にひひ~っ」


 中央の階段を挟んで少し。階段から2つ目の部屋がリーリャ用に用意された部屋らしい。利き手である右手がフィリーによって奪われているため慣れない左手で扉を開けると、入って右手側に天蓋つきの広めのベッドと、奥の窓側に白い革張りのソファーがひとつ。その前には小さなローテーブルと、入り口左側には大きなクローゼットと机に椅子。身だしなみチェック用の鏡が机の上に付いていて、その机の横には姿見が置かれている。右手側ベッドの隣には扉が見えて、トイレと洗面所、それからシャワーがある。

 地面に敷かれたカーペットは花の装飾がなされていて、天井を見ると控えめなシャンデリアが部屋を照らしていた。

 1人で使うには広すぎる部屋だ。2人で使うには少し狭いように感じるが、付いてきたメイド達を部屋から追い出すと、フィリーはお構いなしにベッドへとダイブして、ゴロゴロとし出した。どうやら本気で今日は一緒にいるらしい。明け方降っていた雨はやみ、どんよりとした雲の隙間から青い空が顔をのぞかせる。もうすでに時刻は5時なのだが、今は夏ということもあり8時過ぎまで日は沈まない。


「あのニャあ……、一国の王女様がそんニャんでいいニャ?」

「いいのいいの。今はリーリャしかいないでしょ? それに、リーリャも一国の王女様に向かってため口でいいの?」

「なんですかニャ、敬語がいいでしょうか」

「やっぱいやだ~」


 普段着として使っている余計な装飾のない白いドレスが、ベッドで大きく動く彼女の足に合わせて舞い上がり、せっかくきれいに整えてあったベッドは、フィリーが暴れたことにより皺が付いてしまっている。


「リーリャ、相談もなく王家の事情に巻き込んじゃって本当にごめんなさい」

「いいニャいいニャ。フィリーが謝ることじゃニャい。フィリーは王女様でしょう? 胸を張って堂々としてニャいとだめニャ」


 クローゼットに少ない荷物を置いたリーリャはベッドの隅に座るフィリーの元へ向かうと、ゆっくりとその横に腰を掛け、ごろんと後ろに倒れるようにして寝っ転がる。それを真似するかのようにフィリーも後ろに倒れると、互いに向き合ってに手を取り合った。


「ウチは聖女として人を助けるのが好きだった。でも、それと同じくらい、いや、それ以上にフィリーと一緒にいる時間が大好きニャ。だから何も後ろめたく思う必要はニャい」


 そう言ってフィリーの額にそっと口づけをすると、フィリーは照れたように頬を赤く染めた。そしてリーリャの胸元に顔を埋めると、しばらくしてリーリャの顔をゆっくりと見上げた。


「リーリャ、お風呂入った方がいいかも……」

「ニャッ?! ウチ臭いニャ?!」

「臭いって訳じゃないんだけど……」


 急いでフィリーを胸元から引き剥がして距離を取る。フィリーは抵抗しようとしたが力の強いリーリャには勝てず、不満そうに離れるとベッドから立ち上がってフィリーの手を取った。


「一緒に入りましょ。私が洗ってあげる」

「自分で洗えるニャ。ウチの方が年上ニャよ」

「いいのいいの、洗わせてよ」

「仕方ないニャあ……」







「殿下、いけません」

「どうしてかしら。私の部屋のお風呂じゃ狭くて2人で入れないわ」

「大浴場は使用人が使うものですので……」

「私は気にしないわ」

「私どもが気にするんです。我慢してくださいませ。部屋のお風呂の用意は済んでいます。狭いかもですがお二人でご使用なさっては?」


 フィリーが普段使っているお風呂は一人用の小さいもの(本人談)で、フィリーの自室にある扉からアクセスできる。普段は使用人に入れてもらっているものの、一人用だったので使用人が使っている大浴場を使わせてもらおうとしたのだが、執事によって却下されてしまった。


「アントンは頭が固いわ」

「そんなことないニャ。王女殿下が使った後のお風呂を使うなんて恐れ多いニャ」

「なに、一緒に入るのは恐れ多くないの?」

「ウチは別ニャ~、歯ブラシだって共有できるニャ」

「そう? じゃあ一緒の使う?」

「冗談ニャ……、さすがに勘弁してくれニャ……」


 大浴場は諦めて自室のお風呂を使うことにした。2人で入りたいといつもフィリーをお風呂に入れているメイドの人に相談すると、でしたら本日は2人きりでお入りくださいと快く快諾してくれた。リーリャは離宮に頻繁に遊びに来ていたため、ここで働く使用人とはある程度顔見知りになっている。

 だからこそ護衛としての意味も持つメイドなしでの入浴を許可してくれたのだろう。そもそもリーリャが護衛としての役目も果たせるため、リーリャの側にいればフィリーがけがをすることはほとんどない。怪我をしたとしてもリーリャは元聖女。簡単に回復させることができる。


「あ、ウチ着替えもってないニャ」

「大丈夫よ。すでに用意させてあるわ。リーリャの居場所を探すのと同時にリーリャの荷物を買いに行ってもらってるの」

「そうニャの? ウチお金払うニャ」

「お金なんてほとんど持ってないでしょう。いいわ気にしなくて」

「う~ん……」

「これからの働きで返してよ。出世払いよ」


 ほら、早く行こっ、と歩く足を速める。彼女は夜ウチの部屋で寝るといっていたけれど、いまからフィリーの部屋に行くならそこで寝たらいいんじゃないか。そうリーリャは思ったが、口に出さずにピタリと後ろを付いていった。



====あとがき====

初日投稿分を過ぎ、4話目まで読んでくださりありがとうございます。

4話目公開時点で複数件星の評価をいただき、本当の励みになります。ありがとうございます。

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猫獣人の元聖女、辺境で孤児を鍛えます。 べちてん @bechiten

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