「罰ゲームで恋人ごっこ?」幼馴染彼女に別れを告げたら、逆ギレされて骨折した。 〜今さら泣いて謝られても、もう俺の心は戻らない。怪我した俺を看病してくれるのは、後悔に沈む姉ではなく、可憐な妹でした〜
第19話「そんなの全然良かったのに。私、いつまででも待ってましたよ?」
第19話「そんなの全然良かったのに。私、いつまででも待ってましたよ?」
「一応、別室で時間延長で受けることも出来るぞ。どうする?」
「……先生、それ、もうちょい早めに聞きたかったです」
期末テスト初日の朝。
登校して早々に担任から受けた打診に、俺は思わずため息混じりの苦笑いを浮かべてしまった。
右腕を骨折しているというハンデを考慮しての、学校側の配慮なのだろう。ありがたい話ではあるのだが、俺はその提案を丁重に断ることにした。
理由の一つは、単純に特別扱いされるのがむず痒かったからだ。いくら利き手が使えないとはいえ、なんとか左手でも文字は書ける。さすがに赤点を取るほど悲惨なことにはならないだろうという算段もあった。
そして何より、タイミングが悪かった。
試験当日は不正防止のため、学校へのスマホの持ち込みが厳しく禁止されている。つまり、初日の朝である今から予定を変更したところで、月乃ちゃんに連絡する手段がないのだ。
もし俺が時間延長を受け入れてしまえば、テストの終了時間がズレてしまい、予定通り迎えに来てくれる彼女を外で無駄に待たせることになってしまう。
◆
「そんなの全然良かったのに。私、いつまででも待ってましたよ?」
帰り道、俺が時間延長を断った理由をぽろりとこぼすと、月乃ちゃんは少しだけ嬉しそうに、でも申し訳なさそうにそう言った。
今日の彼女も、先週と同じように少し大人びた格好をしている。一人で校門前で待っていた彼女を見て、案の定クラスの男子たちが「あの子やっぱり可愛くね?」「俺、声かけてみようかな?」とざわついていた。
「それはさすがに悪いよ。ほら、月乃ちゃん可愛いんだから、一人で待ってたら変なやつにいっぱい声かけられちゃうかもしれないだろ?」
「……心配、ですか?」
月乃ちゃんが、歩幅を合わせてこちらを見上げ、期待を込めたような上目遣いをしてくる。
「そりゃ心配だよ。妹の大切な親友だし、幼馴染の妹だしな」
「……そう、ですか」
俺がそう答えると、月乃ちゃんはあからさまにシュンと肩を落とし、分かりやすくヘコんでしまった。
……俺だって、そこまで鈍感じゃない。
うつむいて歩く彼女のつむじを見下ろしながら、俺は内心で一人ごちた。
きっと月乃ちゃんは、俺に好意を持ってくれているのだろう。月乃ちゃんはすごく可愛いし、何より気遣いができるいい子だ。
この間、神社で『病気平癒』のお守りをくれた時、お参りをする彼女の横顔はなぜか泣きそうだった。自分の高校受験が控えているというのに、きっと自分のことよりも、俺の腕が治ることを神様にお願いしてくれていたのだと思う。
そして俺自身も、今日のテストの点数よりも、月乃ちゃんを待たせないことを優先してしまった。
正直、彼女のことが気にならないと言えば、嘘になる。
(でもなぁ……)
姉の結愛と別れたばかりで、その妹というのはどうなんだ。しかも家は隣同士で、月乃ちゃんは陽葵の親友でもある。とにかく結愛の件がまだ片付いていない。姉妹の関係がどうなるかも気になる。
乗り越えなければならないハードルが多すぎて、どうしても一歩を踏み出すことにブレーキがかかってしまう。
「そういえば、今日は陽葵は?」
気まずい空気を変えようと話題を振ると、月乃ちゃんはピクッと肩を揺らした。
「えっと……ヒマちゃんは、今日もちょっと用事があるみたいです」
「……そうなんだ」
(絶対、月乃ちゃんの参謀ポジになってるだろ、あいつ……)
陽葵のわざとらしすぎる不在に、俺は心の中で呆れたようなツッコミを入れた。
その後は、他愛のない話をしながら二人で帰路についた。
◆
三日間の期末テストも終わり、いよいよ、月乃ちゃんたちの高校入試の『合格発表の日』がやってきた。
発表当日、昼休み。
スマホの画面を見ると、月乃ちゃんからメッセージが届いていた。
『ヒナくんのおかげで合格出来ました。ヒマちゃんも合格です。今日もお迎え行きます』
二つの桜の絵文字が添えられたその文面を見て、俺はホッと胸を撫で下ろし、無意識のうちに口元を緩めていた。
「何ニヤけてるの?」
ふいに頭上から声が降ってきて顔を上げると、そこには佐藤と、ひどく緊張した面持ちの結愛が立っていた。
「いや、陽葵と月乃ちゃん、無事に合格したってよ」
「ホントに? 良かったねー!」
俺の報告に佐藤がパッと表情を明るくする一方で、結愛は自分のスマホの画面を見つめたまま、しょんぼりとした声を出した。
「……私には、連絡ない」
「何いじけてんのよ。そのうち来るわよ」
佐藤が呆れたようにツッコミを入れるが、結愛はまだ少し暗い顔のままだ。
すると佐藤は、結愛に聞こえないよう少しだけ顔を寄せ、俺に小声で耳打ちしてきた。
「でね? この前言ってたわよね。期末テストも入試も終わったし……ちゃんと話をしてあげて。ずっと大変だったんだからね」
「……分かってるよ。ありがとう」
俺は小さく頷いて佐藤に礼を言うと、改めて結愛の方へと視線を向けた。
「結愛。一度、二人で話しよっか?」
「……うん。今日、日向のお家に行っていい?」
少し落ち着いた様子の結愛を見て、俺は『それも悪くないか』と思った。
「分かった。来る前に連絡して?」
「うん、分かった」
結愛は少しだけホッとしたように頷いた。
◆
そして、放課後。
昇降口を抜け、校門へ向かうと――そこには今日も、一人で俺のことを待っている月乃ちゃんの姿があった。
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