席を立つ順番
最初に動いたのは、誰でもなかった。
それが、この場の限界だった。
全員が“最適解”を選び続けた結果、
誰も最初の一手を打てなくなっている。
サイレンは、もうすぐそこだ。
足音も聞こえる。
時間はない。
それでも。
誰も引き金を引かない。
リョウが笑う。
乾いた笑い。
「なぁ……」
息を吐く。
血が混じる。
「これ、詰んでねぇか?」
誰も答えない。
だが、全員同じことを思っている。
――詰んでいる。
逃げ場はない。
撃てば終わる。
撃たなくても終わる。
だからこそ。
――選ぶしかない。
カズマがゆっくりと息を吐く。
腹の傷から、血が滲む。
だが、その目はまだ死んでいない。
「……条件を変える」
その言葉に、リョウが鼻で笑う。
「まだ交渉する気かよ」
カズマは構わず続ける。
「金は、一人が持っていけ」
空気が変わる。
ほんのわずかに。
タケルが目を細める。
「続けろ」
カズマは頷く。
「ここで三人が足止めする」
シュンが笑う。
「自分以外ってこと?」
カズマは答えない。
だが、それで十分だった。
沈黙。
短い。
だが、その間に全員が計算する。
外の侵入までの時間。
自分の負傷。
他の三人の状態。
そして――“裏切る余地”。
リョウが先に口を開く。
「いいぜ」
あっさりと。
その軽さに、全員が一瞬だけ警戒する。
「どうせ全員は逃げられねぇ」
事実。
「なら、一人くらいは抜けたほうがマシだ」
合理的。
だが。
――それを言うのがリョウ、という違和感。
タケルは、それを見逃さない。
シュンが笑う。
「賛成」
これも、即答。
「どうせさ」
少しだけ視線を落とす。
血が広がっている。
「俺、この足じゃ逃げ切れないし」
軽い口調。
だが、その中に“本音”が混じる。
――捨てる覚悟。
残るは、タケル。
視線が集まる。
タケルは、しばらく何も言わなかった。
その沈黙が、いつもより長い。
そして。
「……いい」
短く言う。
承諾。
だが、その声は少しだけ低い。
カズマが頷く。
「決まりだ」
その言葉で、役割が決まる。
・逃げる一人
・残る三人
だが。
誰が、とは言っていない。
その一瞬。
全員が動いた。
銃声。
一発。
リョウ。
シュンに向けて撃つ。
命中。
だが致命傷ではない。
シュンが笑う。
「やっぱりね」
同時に。
シュンも撃つ。
狙いは――リョウではない。
カズマ。
命中。
肩。
カズマの体が揺れる。
タケルは動かない。
その一瞬を、見ている。
完全に。
カズマが撃つ。
リョウに。
だが、外れる。
弾は壁に当たる。
火花。
――“外した”。
その瞬間。
タケルが動く。
一歩。
最短。
銃口を上げる。
狙いは――カズマ。
引き金。
発砲。
命中。
胸。
カズマの体が、ゆっくりと崩れる。
静寂。
一瞬。
リョウが笑う。
「やっぱお前か」
血を流しながら。
それでも笑う。
シュンも笑う。
「だよねぇ」
座り込んだまま。
もう動けない。
タケルは、二人を見る。
何も言わない。
その視線に、全てがある。
足音。
近い。
扉の向こう。
もう時間はない。
リョウが言う。
「行けよ」
短く。
それだけ。
シュンも続ける。
「持ってけよ、全部」
笑いながら。
血を吐きながら。
タケルは、バッグを見る。
金。
すべてがそこにある。
そして。
三人を見る。
ほんの一瞬。
迷ったように見えた。
だが。
それは錯覚だ。
タケルはバッグを持つ。
振り返らない。
そのまま、出口へ向かう。
背後で、銃声が響く。
一発。
誰が撃ったかは分からない。
だが。
それを確認する者は、もういない。
扉が開く。
外の空気。
夜。
サイレン。
光。
タケルは、その中へ消える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます