最初に外したやつが死ぬ
無音は、長くは続かなかった。
ほんの一拍。
心臓が一回だけ脈打つ、そのくらいの時間。
だが、その一拍で十分だった。
全員が理解したからだ。
――ここから先は、“言葉”じゃない。
最初に動いたのは、リョウだった。
銃を抜く。
早い。
だが――撃たない。
狙いをつけるだけ。
カズマ。
その頭部。
距離、約三メートル。
外さない距離。
だが、撃たない。
「……やっぱりな」
リョウが言う。
その声は、静かだった。
怒りも、焦りもない。
ただの確認。
カズマは、微動だにしない。
銃も抜かない。
ただ、リョウを見る。
「遅いな」
その一言。
挑発でも、皮肉でもない。
事実の提示。
リョウの指が、わずかに動く。
――撃てる。
今なら。
確実に。
だが、その瞬間。
横から、気配。
シュン。
すでに銃を構えている。
だが、狙いは――リョウじゃない。
タケルでもない。
カズマでもない。
――“全員を通る位置”。
三人を、一直線に並べる角度。
「動くなよ?」
軽い声。
だが、完全に“殺しに来ている声”。
リョウが舌打ちする。
「めんどくせぇ配置とるなよ」
「でしょ?」
シュンが笑う。
その笑顔。
さっきまでと同じ。
だが、目だけが違う。
冷たい。
完全に、スイッチが入っている。
カズマは、その状況を見ていた。
一歩も動かない。
銃も抜かない。
その理由は一つ。
――“まだ勝てる位置にいる”と確信しているから。
「撃てば終わりだぞ」
カズマが言う。
誰に向けてでもない。
三人全員に向けて。
「一発でも外せば、その瞬間に崩れる」
正しい。
完全に正しい。
この距離、この配置。
一人が撃てば、連鎖する。
そして。
“最初に外したやつ”が死ぬ。
タケルは、少しだけ首を傾けた。
状況を、俯瞰する。
リョウは撃てるが、撃たない。
シュンは全員を抑えている。
カズマは動かない。
そして、自分。
どの位置にも入れる。
どの位置からでも、撃てる。
つまり。
――“最後に動ける”。
「……なるほど」
小さく呟く。
三人の視線が、一瞬だけタケルに向く。
その一瞬。
空気が、ほんのわずかに揺れる。
リョウが口を開く。
「なぁ、カズマ」
銃は下げない。
狙いも外さない。
「最初から、俺ら切る気だったろ」
直球。
カズマは否定しない。
「結果的には、そうなる」
曖昧な言い方。
だが、それで十分だった。
リョウは笑う。
「はは、正直だな」
その笑い。
乾いている。
「でもよ」
少しだけ声が低くなる。
「それ、バレてる時点で負けじゃねぇの?」
空気が、また一段階冷える。
シュンが口を挟む。
「いやいや、それ言うならさ」
軽く言う。
だが、その銃口は一ミリもブレていない。
「お前もでしょ、リョウ」
リョウの目が細くなる。
「発信機」
シュンが言う。
「さっき押したよね?」
沈黙。
その沈黙が、答えだった。
カズマの目が、わずかに動く。
「……外を呼んだか」
リョウは笑う。
「保険だよ」
「保険で全員殺す気か?」
「違うな」
リョウは首を振る。
「“一人だけ生き残るための環境作り”だ」
その言葉。
完全に本音。
もう隠す気はない。
「いいねぇ」
シュンが笑う。
「全員クズで最高」
そのまま、少しだけ銃を上げる。
ほんの数センチ。
だが、その動きで分かる。
――撃てる。
いつでも。
「じゃあさ」
シュンが言う。
「ここで一回、整理しよっか」
誰も返事をしない。
だが、聞いている。
「カズマは、最初から三人切る気」
カズマは何も言わない。
否定もしない。
「リョウは外呼んで、混乱で抜ける気」
リョウは笑うだけ。
「で、俺は――」
一瞬、間。
「全部奪う気」
その瞬間。
空気が、完全に変わる。
タケルは、その言葉を聞いていた。
そして、静かに言う。
「遅い」
三人が、一斉にタケルを見る。
その視線。
さっきまでとは違う。
明確な“警戒”。
タケルは、一歩だけ前に出る。
ゆっくり。
焦らず。
「全員、同じこと考えてる」
その声は、平坦だった。
感情がほとんど乗っていない。
「だから、詰めが甘い」
リョウが眉をひそめる。
「どういう意味だよ」
タケルは答えない。
代わりに。
銃を抜く。
その動き。
一番、遅い。
だが。
一番、無駄がない。
狙いをつける。
カズマでも、リョウでも、シュンでもない。
――“床”。
引き金を引く。
発砲。
乾いた音が響く。
床に弾が当たる。
火花。
その一瞬。
全員の視線が、わずかに“ズレる”。
そのズレ。
コンマ数秒。
だが、それで十分だった。
⸻
二発目。
タケル。
今度は――シュンの足。
銃声。
シュンが崩れる。
「っ――!」
三発目。
リョウ。
反射的に撃つ。
だが、外れる。
壁に当たる。
――“最初に外した”。
その瞬間。
カズマが動く。
銃を抜く。
狙う。
リョウ。
撃つ。
命中。
リョウの肩に弾が入る。
「ぐっ……!」
体勢が崩れる。
空気が、一気に壊れる。
連鎖。
もう止まらない。
シュンが倒れながら笑う。
「はは……やっぱ、来たか」
血が滲む。
だが、その目はまだ死んでいない。
カズマは冷静に次を狙う。
タケル。
だが。
タケルはもう、そこにいない。
一歩、位置をずらしている。
「……」
カズマの眉が、わずかに動く。
――読まれている。
初めて、その実感が生まれる。
リョウは、壁にもたれながら笑う。
血が流れる。
だが、その顔にはまだ余裕がある。
「いいな……これ」
息を吐く。
「最高じゃねぇか」
その言葉。
本音だった。
サイレンが、近づいてくる。
遠くから。
確実に。
時間がない。
だが。
誰も、逃げない。
タケルが言う。
「ここからが本番だ」
静かに。
確実に。
その声に、迷いはない。
四人。
全員、まだ生きている。
だがもう、
“誰も戻れない位置”に来ている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます