腐敗が進み、六大卿の空位が五年も放置された聖都リザルト=レイヴンに、三万の軍勢が迫る――
そんな黄昏の空気が物語全体を包み込みます。
頼るべき軍事総監は不在、派閥争いで会議は進まず、国運が揺らぐ中で皇母が選んだのは宮廷の誰でもない、離宮に引きこもる異端の女芸術家ヴィラン。
傍若無人で飄々としながらも、亡きラーデンブルク公が唯一その才を認め、名も責任も託した弟子である彼女が、崩れゆく聖都の命運を背負う展開は胸を打ちます。
芸術家でありながら戦記の中心に立つ彼女の姿は、継承とは何かを静かに問いかける。
外敵と腐敗が同時に迫る中、遺志を継ぐ者が黄昏の聖都を守る継承戦記です。
権力者たちの派閥争いと外敵の進軍という二重の危機の中、皇母が最後に頼ったのが宮廷の誰でもなく、離宮に引きこもる気まぐれな女芸術家だったという選択の意外性が、この物語の出だしを強く印象づける。
ヴィラン=ウィーグという主人公の造形が秀逸で、傍若無人で気が向かなければ絵も描かないという破天荒さと、亡き師がただ一人才を認めた継承者という重みのある背景が同居している。豪快な目覚め方や小姓とのテンポの良い掛け合いに見られるユーモアと、六大卿の腐敗・派閥争いという重厚な政治劇が同じ世界の中で違和感なく溶け合っているのが巧みだ。派手な戦闘の連続ではなく、人間の心がいかに国を腐らせ、また救うのかを静謐に描く構成も光る。
連載中・全34話と進行中だが、「証書」「撃退」と続く章立てから察するに、聖都を守るための戦いはすでに本格化している。気だるさすら魅力になる主人公の継承戦記、続きが気になる一作だ。
いわゆる前日譚に位置する外伝ですが、本編に負けず劣らずの読み応えがありました。面白かった〜!
宗教共和国が戴く皇母の虎の子、芸術家ヴィランはダウナーな飲んだくれおねえさま。
傍若無人に周囲を翻弄するトリックスターのようでいて、その実、道を見誤らないまっすぐな心を秘めています。
本編でも魅力的でしたが、主役を張るとより強い。好きです。
圧巻の戦闘描写もさることながら、立体的なキャラクターたちが織り成す人間模様も見どころです。
誰しもに理想があり、信念があり、立場があり、守りたいものがある。
打ち倒すべき“敵”って、いったいなんなのでしょう。
答えはひとつじゃないし、そうそう出せるものでもないけど、考え続けることは止めずにいようと改めて思えました。
ヴィランがヴィランだったからたどり着けた結末を、ぜひ見届けてほしいです。
作者黒わんこ様が、ファンタジーのタグから歴史のタグへ変えられたことに納得です。
始まりは陽気なファンタジーのような面白さを楽しませて頂いてましたが……
あれよあれよと言うまに、主人公ヴィランの周りには「国家の大きなうねり」がやってきます。
その時、彼女はどう考え、どう動くのか。そして、そうさせる彼女の背景には何があるのか。
この物語の魅力は力対力の話ではなく、思想と思想であり、お互いに引けない大義名分によって突き動かされるからだと感じます。
ヴィランも敵対するギュルハネも、皇母も、全員が「自分の発言や行動が、国家や民にどう波及するか」という政治的責任の中で確実に生きています。
こちらは本編『EWIG(エーヴィッヒ)』の過去のお話とのこと。
この話の未来が本編でどう輝いていくのかも、楽しみです。
芸術家が主人公の”戦記ファンタジー”という珍しい設定を、物語として成立させているのが本作の魅力です。
主人公ヴィランは、異端視される女芸術家でありながら、聖都リザルト=ヘイブンを守るため、亡き師の名を継いで戦場に立ちます。時に凛とした色気を漂わせ、時に冷徹なまでの智将ぶりを見せつける――その姿が実にかっこいいのです。
戦略や政治の描写は丁寧で緻密です。その中で、ヴィランの“芸術家ならではの視点”が物語に独特の色を添え、戦場の情景や人の心の揺れを鮮やかに浮かび上がらせます。
重厚な戦記でありながら、主人公の感性が柔らかい余韻を残す、読み応えのあるダーク戦記です。