第16話:ここに“来たことがある”気がする

「……初めてじゃない、ってどういう意味だ」


俺は低く呟いた。


アカリとセラが、互いに視線を交わす。


「断定はできない」


アカリが慎重に言う。


「でも、“ダンジョンには記憶が残る”って説はあるの」


「記憶……?」


セラが続ける。


「強い力を持つ探索者ほど、“痕跡”を残す」


「それが、空間に干渉して――」


「“再現”されることがある」


「……つまり」


嫌な予感がする。


「俺が、その痕跡ってことか?」


「可能性はある」


『怖い方向いってる』

『ループ系か?』


「……冗談だろ」


だが、その時。


――ズキッ


「……っ!」


また、頭痛。


「ユウマ!」


「触るな!」


反射的に声が出る。


一瞬、空気が凍る。


「……悪い」


「ううん……」


アカリが少しだけ距離を取る。


「無理しないで」


「……分かってる」


だが。


“来る”。


今度は、強い。


視界が、歪む。


「――っ!!」


そして――


“見えた”。


今度は、はっきりと。


同じ場所。


この遺跡。


だが――


「……違う」


そこにいるのは、今の俺じゃない。


もっと冷たい目をした、“俺”。


「……おい」


そいつが、こちらを見る。


「……は?」


視線が、合う。


ありえない。


“記憶”のはずなのに。


「お前――」


そいつが、口を開く。


『遅かったな』


「……誰だよ」


『分かってるだろ』


笑う。


その顔は――


完全に、自分だった。


「……ふざけんな」


『ふざけてるのはどっちだ?』


「……」


頭が、混乱する。


『お前はまだ、“そこ”なんだな』


「そこってどこだよ」


『選ばなかった方だ』


「……意味分からん」


『すぐ分かる』


一歩、近づいてくる。


『どうせまた――』


その瞬間。


「ユウマ!!!」


現実の声。


視界が、戻る。


「……っ!」


膝をつく。


「大丈夫!?」


アカリが支える。


「……今の」


息が荒い。


セラが、真剣な顔で聞く。


「何を見たの?」


「……俺だ」


「?」


「もう一人の、俺」


沈黙。


『うわあああああ』

『ドッペルゲンガー!?』


「……どういうこと?」


「分からん」


だが、ひとつだけ。


「……あいつ、俺のこと知ってた」


「それって……」


アカリの顔が、青くなる。


「最悪じゃない……?」


「ええ」


セラも、静かに頷く。


「“未来の自分”か、“別の自分”か」


「どっちにしても――」


一瞬の間。


「関わっちゃいけない存在よ」


「……もう関わってるけどな」


苦笑する。


だが。


胸の奥が、ざわつく。


「……選ばなかった方、か」


あの言葉。


引っかかる。


「……なあ」


「何?」


「もし、だ」


二人を見る。


「別の“俺”がいるとして」


「そいつがヤバい奴だったら、どうする?」


一瞬の沈黙。


アカリが、ゆっくり答える。


「止める」


「全力で」


セラも続ける。


「必要なら、殺す」


「……」


迷いのない答え。


「……そうか」


俺は、小さく笑った。


「なら、安心だ」


「?」


「もし俺がそっち側になっても――」


「止めてくれるんだろ?」


「当たり前でしょ!」


アカリが強く言う。


「絶対に止める!」


セラも、静かに頷く。


「任せなさい」


「……頼もしいな」


その言葉に、少しだけ安心する。


だが。


心の奥で。


「……」


もう一人の“俺”が、笑っていた。

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