一瞬で「関わっちゃダメだ!」と全身が警報を鳴らす人というのがいる。
そういう相手には、やはり直感に従って、声をかけない方がいいのだろう。
本作は、そんな人物に声をかけてしまった男の顛末だ。
ビール片手に桜並木を歩く主人公は、ひどく機嫌がいい。
道行く人々にすら、同じ桜を楽しんだ者としての仲間意識を覚えるほどである。
そんな時、彼の耳に「地獄」という言葉が飛び込んでくる。
今の心持ちとはあまりにもかけ離れたその一言が、浮かれた気分を一瞬で冷やしていく。
声の主は、通行人に向かって「地獄」と「天国」を繰り返し呟く男だった。
人々を勝手に選別しているかのような異様さに、ぞくりとさせられる。
アルコールも手伝って気が大きくなっていた主人公は、その不快さに耐えきれず、男に声をかけてしまう。
とにかく「ヤバイ人」の発言が本当にヤバイ。
相手に口を挟ませないほど饒舌で、読んでいてその声が耳元で響いてくるようだった。
そして怖いのは、その男がただの異常者として片づけきれないところだ。
何か大きなものに選ばれたと信じ、疑いもなく真っすぐ突き進む姿には、ある種の崇高さすら宿っている。
選ばれ、使命を与えられたという自覚を持った人間は、きっと幸福なのだ。
そして、声をかけた瞬間から、物語は予想もつかない結末へと向かっていく。
その顛末は、ぜひ作品を読んでご確認ください。