エピローグ
そんな愛花が、やはり可愛くて仕方ない
芽衣
「んーどうしよかっなー。これもいいよね」
愛花は行きつけのラグジュアリーブランドのショップの個室で、並べられたアクセサリーを吟味していた。
「こっちもいいけど、こっちの彫刻のデザインも可愛いよね。どっちも買っちゃおうかな?」
「そうですね。どちらも旦那様のお金ですけど」
聞かなきゃ値段の分からないアクセサリー。
人のお金だとしても中々想像したくない買い物を、恐れることなく出来るのは愛花の凄いことだと思う。
従者としても、これは尊敬してしまう。
「帳簿を管理してる私の母は頭を抱えてしまいそうですね」
「いいの。芽衣を外そうとした罰。お父様は許してくれるよ」
フンと鼻を鳴らして、ふかふかのソファに座りながら強気な視線を向けてくる。
よくもまぁそんな自信満々に。
金遣いの荒さもまたこの子のダメな部分かもしれない……。
「母からお小言を貰うのは私なんですけどね」
「じゃあ一緒に怒られてあげる」
「愛花様が原因なのによくそんな風に言えますね」
悪びれる様子もない彼女に、私はそう伝えてみた。
「だーかーら、それは芽衣を外そうとした腹いせだから、本来怒るなら私なんだよ? 大好きな従者を外されかけたんだもん」
「はいはい」
「あっ! そんな風に澄まして! 芽衣も泣いてたくせに!」
「いつまでそのことに味占めてるんですか」
あれから何度か、困ったことがあればいつも「泣いてたくせに」「そんなダメな私が好きなんでしょ」とマウントを取られる。
ダメな私が好きなんだよねと開き直られたら、正直私としてはノーと言いたいけれど、でもそれも愛花らしい。
彼女の振る舞いを見れば開き直りではないと分かるし、可愛らしいと思えてしまうのだ。
冗談でも自分のダメ人間っぷりを誇ってしまうなんて。
「と、いうより。そもそも罰なんて言ったらですね? 毎回お嬢様の方が罰を受けるべきですよ。日頃の行いなど」
「日頃の行い? 悪いかな?」
「従者の扱いが悪いです。ショップに連れ回されて待たされる身にもなってください」
「それは……まぁごめんだけど」
少し反省した様子を見せたのか、愛花は口を尖らせながら小さく呟いた。
別に謝って欲しいわけじゃない。
むしろ……さっきのように笑うくらいでちょうどいい。
改めて思い起こされる、愛花がどこかへ消えてしまいそう感覚。
アスファルトの下にあるものを探すために、硬い道路に指を突き立て引っ掻き続けるような絶望。
それを掻き消すように私は彼女からの視線を受け止めた。
「別にいいですよ。そうですね、迷うなら今回は私が出しましょう。給金も貰ってますので」
それに思い起こせば起こすほど、私は何も返せてないことを思い出す。
ただ愛花を求めていただけ。
だから成績が向上していたことに不安になってしまった。
けれど愛花が愛花でいてくれたから、私は偶然救われることが叶った。
この子がこの子のままでいてくれたおかげ。
本当に嬉しい、瑠姫の教えでどんどん真人間になっていく気がした彼女も結局変わることはなかったんだ。
ただの偶然、愛花が失敗してくれた。
瑠姫の教育に愛花のダメっぷりが勝ってくれたことで、私は今も穏やかに彼女のことを見つめていられる。
思い出すだけで、胸が安心で満たされる。
なら今回はその感謝を届けよう。
「えーいいの? プレゼント?」
「はい、愛花様がダメ人間だったおかげで私は従者としてそばにいれましたから」
「それを言われると複雑だけど……わかった。じゃあこれにしようかな」
すると彼女は、いくつか並べられたジュエリーの中から小さなピアスを指差した。
石がついた普通のもととは違った、不思議な模様が描かれた特殊な意匠のシルバーのピアス。
特殊で奇抜なデザインを気に入る、愛花らしいチョイスだった。
「ピアス……着けたいんですか?」
「うん! ちっちゃくて可愛いし」
「分かりました。すいません、これプライスは?」
するとショップの担当からは、とんでもない価格が飛んできた。
こんな小さなものに……2桁。
流石に自分でも顔が引き攣ったのがわかる。
「あ、芽衣大丈夫? やめる?」
「いえ、払えなくはないので……本当にお金のかかる女性ですね、お嬢様は」
「うん、箱入りのお嬢様だからね」
彼女は笑った。
彼女の笑顔は、全身の筋肉や神経の糸が弛緩する気がする。
全くもって褒められた状況でなくても、穏やかで暖かい。
それを見るうちに、何かが私の骨が緩めるみたいにふわふわする。
そうか、それならまぁ仕方ないかという気持ちで私も微笑みを返す。
金遣いも、なんなら人使いも荒いダメなお嬢様。
私にはそんな愛花が、やはり可愛くて仕方ない。
これだけ手がかかってダメダメな人をずっと見守りたい。
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