愛花様はダメな子ですよ

第25話

   愛花


 誕生日時に彼女のくれた「誓う」って一言が嬉しかった。


 もっともっと勉強を頑張ろうと思える。


 幼馴染としての芽衣はずっと私と一緒にいてくれるって言ってくれた。


 ならもっと私は頑張って、芽衣と一緒にいれるだけの格を持つ主人にならなくちゃ。


「楽しそうですね、この後は水上先生との勉強ですけど」

「楽しいよ? 分かんないことが分かるようになるの。芽衣はパーっと答え言っちゃうでしょ?」


 学校帰りの送迎車の中で芽衣と2人。


 彼女の質問にそう答えると、隣に座った芽衣は何か疑り深そうな視線でこちらを見ていた。


 私の心は安心でいっぱいなのに、なぜか芽衣の視線は落ち着きを失いつつあった。

 期末テストが近づくにつれて、それが如実になっている気がした。


 何かを疑って、何かを見定めるように、私の表情を見つめている。


 とくに瑠姫先生の訪問がある日は、それが顕著だった。


 顕著と言っても、きっとそれが分かるのは普段から一緒にいる私くらいだろうけど。


「私の教え方は……嫌でしたか?」

「嫌じゃないよ? でも今まで違うことって楽しいの」


 芽衣の教え方を彼女が正しいって言うならそれがきっと正しいんだと思う。


 芽衣は私のことを大切に思ってくれているのは分かるから。


 けど、それとは別に瑠姫先生からも愛情みたいなものは伝わってくる。


 これでいいって言う優しさとこうした方がいいって言う優しさ。


 お互いに違うものがあるように思える。


「公式の使い方とかね、色々聞いたら教えてくれるの。芽衣と違ってね」


 イタズラっぽく芽衣の目を見つめてみると、彼女の眦に少しだけ力が入った。


「……そうですか」

「あーでもね? 芽衣の時はね、すぐ終わっちゃうから芽衣とお話いっぱいできて楽しいよ? 家の中だと芽衣は他の侍女たちの仕事に混ざっちゃうんだもん」


「そうですか。私も愛花様とお話できて嬉しいですよ」


 ただやっぱり寂しさの色は顔から抜ける気配はなかった。


「定期テスト終わったら戻るんでしょ? 試用期間なんだもんね。がんばるね?」

「ええ、そうですね。はい」


 いつもだったら彼女から色々と言ってきたりするのに、やっぱり調子が悪そうだった。


「芽衣どうしたの? 体調悪い?」

「え? いえ、そんなことないですよ。お嬢様の成績が心配なんです」


 そう言った瞬間、自分の変調を近くしたように顔色を取り戻した。


 いつものように穏やかに笑ってこちらを見たのだ


「……それならいいけど」

「お嬢様はダメ人間ですから」


 芽衣が彼女自身にも言い聞かせているような言葉に、私もまた安心を覚えた。


 少し考えごとをしていたのかもしれない。


 それか……。


「もしかして瑠姫先生に私を取られるんじゃないかって嫉妬してた?」

「……嫉妬ってほどではないです」


 そっか。

 それが最大限配慮した言葉なんだね。

 嫉妬ってほどではないけど、嫉妬に近い感情は持ってたのか。


「……ふふっ」

「何がおかしいのですか?」

「なんでもないよー」 


 色々聞いてもどうせこの状態の芽衣は本音を言わないだろうし。


 そう思って、放っておくことにした。


 ただなにかしら今の状況に不満や不安を覚えているのは事実みたい。


 瑠姫先生だって試用期間が終われば、また芽衣に戻るだろうし、それでいいのに。


 私はそんなことを考えていた。

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