第23話
芽衣
楽しい時間は一瞬で過ぎ去っていき、夜の9時を回ったころ、2人を見送って会はお開きになった。
「泊まっていけばよかったのに」
「部活の朝練があるのなら仕方ないですよ」
「んー」
「明日土曜日で休みなのにー」
お菓子のゴミなんかを一通り片付け、部屋に戻るとベッドに寝転がりながら愛花はブー垂れていた。
「泊まりはまた今度すればいいですよ」
「うん! パジャマパーティしようね!」
「そうですね」
そして最終的には満足げな声色になると、少し沈黙が部屋に充満した。
「どうしました?」
「……芽衣からはプレゼントないの?」
「何を物欲しげに見てるんですか」
3人からのサプライズで満足……かと思えばそんなことはないみたいだ。
まぁ大方そうなるだろうとは思っていたけれど。
「芽衣から特別な何かはないの?」
「……」
無いことは無い。
最悪のケースを想定した時に愛花の機嫌を取るための善後策。
ただこれ……私へのプレゼントにもなってしまうから少し気乗りがしない。
「無いか。ちょっとワガママ言いすぎだね。せっかく色々考えてくれたのに、まだ私は芽衣を……」
「はぁ……仕方ないですね」
「あるの?」
寝転がった姿勢から首を持ち上げて、ベッドからこちらを見つめている。
そんな彼女に背を向けて、私は用意していたものを身につけた。
「はい、これがプレゼントです」
「リボン……? それが何?」
「分かりませんか? じゃあ近くで見せてあげましょう」
私はベッドまで歩き、私は左の小指を立てて彼女の顔に近づけた。
「どうですか? 分かりました?」
「芽衣自身がプレゼントって言いたいの?」
「半分正解です。正確にはこのリボンを解く権利です。プレゼントの箱を開ける権利ってことですね。中身も勿論あなたのものですよ」
「……?」
そして、愛花は私の言葉の意図を汲み取れきれず訝しげにしながらも、蝶々結びされているリボンを解いた。
「あれ? リングは?」
「外した。良かったね愛花、そういうことだから幼馴染の私がプレゼ……うわっ!」
思い切り手首を引かれた。
前にツンのめるような形で、私も広いベッドに飛び込んでいく。
「芽衣は私のものってことでいいの? 本当に……?」
「うん……まぁこんなにがっつくとは思わなかったけど」
「するに決まってるよね。普段の私を知ってるでしょ」
「あぁそうだね……愛花がダメなスケベ貴族なのは知ってたし」
「スケ……ひどっ!」
「いつも半ば無理やりしてくる愛花にはぴったりだね」
あなたの好きなアニメでも、こういうことをするのは悪い貴族でしょ。
なんて軽口に本音を少し交えて、彼女の耳元で心地良くなるであろう言葉を囁いた。
少しだけ胸の奥がすっと軽くなる。
こっちだって常に従者モードでいたいわけじゃないから、こう飾らずに本音を話せると気分が良い。
「それはごめん……でもさ? 今日は感情が抑えられないかも」
「いつも好き好き言ってくるのに?」
「それでも……私、今すっごいテンション上がってる。歯止めが効かなくなっちゃう」
「それは困った、応えられるかな」
そう返すと、今度は体勢をぐるりと入れ替えられる。
私の上に愛花は覆い被さるようにして、上からまっすぐこちらを見ている。
顔の横に手を突かれて、彼女という檻に閉じ込められたみたいだった。
「ダメな主人だねって言わないの?」
「言わないよ? 別に今回は自分から誘ってるようなものだし、少しくらい特別待遇してあげる」
ようなものというか、実際誘っているのだ。
私の顔にかかった愛花の髪を優しく手で払って、私は彼女に微笑む。
「それに私から言わなくても愛花には伝わってると思うけど」
「……バカ」
「恥をかかせなかったって点では良かったのかな。よく出来ました」
頬を撫で、頭を撫でる。
すると、愛花は顔を近づける。
「んっ……」
甘い味のする彼女の唇を少しだけ啄んで、離す。
そうしたやり取りをして愛花を見る。
すると彼女の顔は紅潮して、私を捉えた大きな瞳が濡れていく。
「これ、今夜だけじゃないよね……? 私、プレゼントは大切にするから。ずっと……ずっと!」
私から見ても異様な執着、こちらを強く見つめてる。
泣きそうな顔で見つめられて、私は身体が熱くなる。
そんな風に求められると……私も嬉しい。
そしてそれ以上に愛花が愛花のままでいてくれてることが嬉しい。
私が大好きな、あの小さい頃のまま。
よく転ぶ女の子。私の手を引いても転んでた。
お花を持っても転んでいた。
その様子がとても愛しかった。
大切なおもちゃを手放さず、抱えたまま転んでしまうような女の子の姿に、私は心臓が熱くなったのだ。
「そうだね。今夜限定のつもりだったんだけど……ならそういうことにしようか」
「本当に? こんな私でも愛してくれる? 間が悪くて、サプライズにも気づいちゃって上手くできない私でも?」
「……やっぱ気づいてたんだ……でも、うん。そんな愛花を愛してあげる」
彼女の体温が上がったのがわかる。
首の裏に回った腕が熱いくらいに暖かい。
まっすぐこちらを捉えている視線にも、熱がこもる。
「誓う?」
「誓うよ」
「従者じゃなくて、幼馴染として? 恋人として? 芽衣として誓うんだよね?」
不安に覚えれるようなそんな彼女が、とても可愛らしかった。
まるで抜け道を潰すように、あのねあのねと言葉を繋げるのが、小さい頃から全く変わらない。
そんな愛花が……何よりも煌めいていて、愛おしい。
「恋人……? ふふっ、うん。わかった。どんな形でも誓うよ。愛花様にじゃなくて、愛花にね」
そんな彼女に私は惚れたのだ。
期間限定なんかじゃない。
身も心も、私は愛花のものだから。
従者の時は人生を、幼馴染の時は全ての感情を。
あなたに捧げると誓う。
だからあなたも、私の願うあなたでいてほしい。
そうすればずっと一緒で、ずっと大好きでいることができる。
お互いにずっと一緒にいよう。
そんな想いは昔からのつもりだったけれど、明確に私たちの間で約定となったのはこの夜だった。
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