第21話
その日の放課後、数学教師に働きかけて愛花への補習を30分ほど行なってもらうことにした。
理由は補習という名目で愛花1人を足止めするためだ。
「というわけで上手いこと愛ちゃんを誘導してもらって、サプライズ計画再始動だね」
「芽衣ちゃんありがとう〜」
「いえ、あそこで止められなかったのは私の落ち度でもありますので」
放課後の麻里亜や未来と机を挟む。
そして恵は嬉しそうにノートを開いてみせた。
色々と案が書かれていて、バッテンでいくつも消されている。
「それにしてもこんなに考えて……よく誕生日分かりましたね」
「そりゃあね? ほら、メッセージアプリにももうすぐ誕生日って出るじゃん。あれで分かったんだよ」
「だから考えてたんだけどさぁ、見つかっちゃったんだよねぇ」
冷静に考えたら2人は愛花をよく誘ってくれる遊び大好きな企画屋だ。
知ってる前提でケアしてあげるべきだった。
「でも種ちゃんが協力してくれるならさ、もうちょっと愛ちゃん喜ばせられるよね」
ポニーテールをフリフリとさせながら未来は笑った。
愛花の友人は両方とも素敵な笑顔をする。
カラりと明るい未来とフワフワとユルい麻里亜。
そんな彼女たちが私の大好きなご主人様を喜ばせようとしているなら協力する。
愛花を近づけたミスについても挽回したい。
「愛花ちゃんお嬢様だしぃ、結構悩んでたんだよねぇ」
「そうなのですか?」
「そうそう、なんでも買えちゃうだろうから何貰ってもピンとこなそうでさ。だからこそ気持ちが大事だって結論になったんだよね」
「それで、この案になったわけですね」
視線を落とすとノートには「昼休みにサプライズでお菓子パーティ(甘いやつ)」に丸がグリグリと付けられていた。
サプライズで愛花と沢山のお菓子を食べようと思ったのだろう。
「どうかなぁ? 流石に安直かなぁ?」
「いや、悪くないですよ」
「マジ?」
「えぇ、お嬢様は物欲ないですし」
物欲はすぐ発散出来てしまうから溜め込まない……という方が正しいけれど。
すると、今度は正面に座る麻里亜のぼんやりとした表情がじんわり熱を持ち始めた。
「ほんとぉ? これでいいのかなぁ」
「えぇ、こういった思い出や体験の方を大切にする方ですし、昼休みというのも不意打ちっぽくていいと思います」
それに旦那様の関係者から貰うことの多い高級なフルーツや、彼女には到底読むことのできないフランス語のお菓子より、一般的に売られてるお菓子の方が彼女にとっては新鮮なはずだ。
それが何も知らないタイミングで炸裂すれば、
十分サプライズになったんだけど……。
『し、知らないよー……』
彼女のあの反応はまぁ……バレてるよね。
つくづく愛花は間が悪いんだなと実感する。
本当にダメな子……。
「どうしたの種ちゃん、そんなに良かった? 私たちの案」
「えっ?」
「やっぱり作戦会議は楽しいよねぇ。特に愛花ちゃんのためなら芽衣ちゃんも巻き込んで良かったかもぉ」
「あー……はい、そうですね。こんな風に考えてくれるご友人がいて、愛花様は幸せですね」
顔に出てた……ということみたいだ。
少し眩しく感じたので窓のカーテンを閉め、取り繕うように2人にも笑いかけてみせる。
私は自分の思ってる以上に顔に出るタイプなのかもしれない。
「やっぱり大好きなご主人様のためだもんねー」
「ねぇ〜」
「……お嬢様だけじゃなく、こちらもきっちりイジるのですね」
「そりゃもちろん。それに緩んだ種ちゃんは見てて楽しいし」
悪びれる様子もなくそう言い切ってみせた未来と「ねぇ〜」とさらに同意する麻里亜。
この悪戯心が、愛花の友人としてはふさわしいものに思える。
私は心の中で2人の格付けをさらに上に位置付ける。
「お嬢様には内緒でお願いしますね。恥ずかしいですから」
そして笑って誤魔化すと「うんうん」と2人とも首を縦に振った。
恥ずかしいとか以前に、愛花の前でこんな私のことを話されたら彼女は絶対に調子に乗る。
それはそれで別に構わないけれど「私が好きなのだから何もしなくてもいい」なんて開き直られたら困る。
そんな彼女は私の好みじゃない。
「よーしそれじゃあ頑張ろぉ〜」
「とにかく愛花様には悟られないように」
「私がどうかしたの?」
「っ!」
「うわぁ!」
「えっ!」
すると顔を突き合わせる私たちに割って入るように、愛花は口を挟んだ。
補習に持っていったはずのテキストとペンケースを胸に抱いて、不思議そうにこちらを見下ろしている。
「愛花様……どうしてもう? 30分の補習だったと思うのですけど」
まだ10分しか経っていない。
「瑠姫先生と勉強したところだからすぐ終わったんだー。なんの話してたのー?」
普段なら……。
少しだけ、腹の奥が焼けそうになった。
私の計算が狂ったことにじゃない。
愛花がこんなそつなく勉強を終えている事実と、その一因を作った人間に。
「いえ、ただの雑談ですよ。バラエティ番組の話をしてました」
ただそんな感情をお腹の奥で抑えて、表情筋を操って笑顔を取り繕う。
「へー、芽衣お笑い好きだもんね」
そんなことを言いながら、椅子をこちらへ持ってくる。
そして話に混ざろうとこちらを見た後で視線を机に落とした。
「ん? なにこれ? 昼休みにお菓子パー……」
「———っ! 未来様!」
「あっ! ヤバっ!」
バサっと急いで隠したけれど、時すでに遅しだった。
視線が完全にノートへ向かっていた。
そして、視線を泳がせて誤魔化すように知らん顔をし始めた。
これ見よがしに。
「あー、何も見てないヨー」
ヒューヒューと掠れた口笛で誤魔化している。
このダメ人間……! 旦那様の前では多少の腹芸や愛想良くする演技ができるのに……。
サプライズの計画をしていることだけでなく、何をするかまでバレてしまった。
そうして少しばかりの泡立ちを心の奥に感じて、焦ってることに気づくとブルリとスマホが震えた。
『どうする……?』
ひっそりと愛花の目を盗んで未来がメッセージを送ってきた。
正直なところ、私も愛花がここまで間が悪いとは思わなかった。
小学生と中学生で会ってない時期に、突如生えてきた気質なのか。
「いやー、偶然目に入らなかったナー」
無理があるよ、その誤魔化し方。白々しくシラを切る彼女に心の中で伝える。
愛花の誕生日を祝って喜ばせるくらい、普段の欲望丸出しな要求を見れば、どうにでも出来るんだけど……。
せっかく2人と仲良くなれたのだから、満足そうな愛花の顔を見たい。
愛花が彼女の箱庭の中で笑うには、幸せであることが前提なんだ。
……とそんなことに頭を巡らせた一瞬。
ふとアイデアを思いついた。
『大丈夫かもしれません。考えがあります』
スマホを身体で隠し、指先を画面上で滑らせタップしながら未来にメッセを送る。
あぁそうか、これでいいじゃないか。
これが多分、愛花には効果的。
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