月面移住という未来的な題材を扱いながら、実際には「届くかどうかもわからない相手へ言葉を残す」ことの切実さを描いているのが印象的でした。壮大な宇宙開拓の話であるはずなのに、最後に残るのは文明の希望ではなく、たった一人に向けた祈りのような言葉です。とくに、「静かの海」が月面の地名であると同時に、二人の記憶の海にも重なっていくところが美しいです。近未来SFでありながら、遺書文学としての静かな痛みがよく残る一作でした。
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