第十二話 使い方と便利さ。
「うわ、やっぱり雰囲気が全く違うよ〜」
百鬼廻廊とは似ても似つかない刺すような空気に気圧される。だが、クヨクヨしていても仕方無いので、奥へと進む。
「あっ、魔物だ。えっと、あいつはキラースパイダーか」
5m超の黒い蜘蛛だ。これに出会った者は確定で死ぬと言われる程厄介で危険な魔物だ。
「鈍足の禁域」
キラースパイダーが困惑しているうちに、腹柄節を斬る。
「ふう、レベルアップっと」
より奥へと進む。一層目では脅威となる魔物は居なかった。
「二層目〜。ここでは確かトラップが多かった気がする」
気を引き締め直し、足を踏み入れる。
「……うわ」
空気が変わった。一層目とは比べ物にならないほど濃い。魔力が淀んでいるというか、纏わりつくような感覚。
「これは……嫌な感じ」
一歩、踏み出す。
――カチッ。
「あー、これやった……」
乾いた音。次の瞬間、足元の石床が沈む。
「よっと!」
横に跳ぶ。その直後、さっきまで立っていた場所に無数の槍が突き出した。
「いきなり殺しに来るじゃん……」
着地しながら苦笑する。その時だった。
「……ん?」
ほんの僅かに胸の奥が揺れた。意識を向ける。
すると、違和感が広がった。
「……なんだ、これ……分かる、そう言った方が良いのかな」
何が、とは言えない。でも確かに、危ない所がなんとなく分かる。
「……まさか」
試しに、一歩。違和感の薄い方へ進む。
何も起きない。もう一歩。
やはり、何も起きない。
今度は逆にさっき感じた濃い場所わざと踏む。
――カチッ。
「やばっ!」
すぐに飛び退く。今度は、天井から刃が降ってきた。
「なるほどね」
軽く避けながら、確信する。
「トラップの位置が分かるんだ」
胸の奥が、また僅かに揺れる。肯定するみたいに。
「……本当はめっちゃ便利?」
苦笑が漏れる。怖さよりも、実用性が勝ち始めていた。軽く肩を回す。
「じゃあ、ちょっと頼ってもいい?」
そう呟いて、先へ進む。罠の配置が手に取るように分かる。それのお陰で難易度は激減する。
「これなら……」
進む速度が上がる。迷いが消える。
「うん、君のお陰で二層目は楽勝だったよ」
そして、三層目、四層目、五層目と階層を降りていく。
どの階層も危険ではある。魔物の強さも、罠の質も確実に上がっている。普通なら、一歩進むごとに神経をすり減らすはずだ。
「はぁ、はぁ……やっと十層目……づがれだー!」
目の前に大きな扉がある。
「絶対中ボス部屋だ……いいや、入ろ」
深呼吸を一つして、扉に手をかける。重い音を立てながら、ゆっくりと開いていく。
中は、異様に広い空間だった。天井は高く、柱も何もない。ただ単にだだっ広いだけの空間。その中央にそいつはいた。
「名前は……ふむふむ、“亡きデスマーチ”ねぇ」
亡きデスマーチの全長は軽く十メートルを超えているだろう。黒ずんだ外殻に覆われた身体に節のように区切られた異形の構造。無数の脚のように生える腕が、不規則に地面を掴んでいる。
本来あるべき場所に頭部が存在せず、代わりにいくつもの口が重なり合うように存在していた。開閉する度に、かすかな音が重なって、不快なざわめきになる。
「……あっ、やべこっち来た」
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おまけのコーナー
アイラ
ギルド内では姉貴的立ち位置の女性。
面倒見が良く、困っているメンバーがいれば自然と手を貸すタイプ。
普段は常識人として振る舞っており、暴走しがちなメンバーへのツッコミ役を担うことも多い。
特にセリナに対してはブレーキ役になる……はずなのだが、たまにブレーキが壊れる。
判断力と状況把握能力に優れ、戦闘時は非常に冷静。
無駄を嫌い、最適解を選び続けるタイプ。
ただしその最適に、倫理や感情を必ずしも含まない。
必要と判断すれば、切り捨てや危険な選択も躊躇なく実行する。
そのため、一見すると常識人だが、思考の根本は他のメンバーと同様にズレている。
本人にその自覚は無い。
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