第十一話 価値観の違いによる当たりと外れ。

 声が掠れる。呼吸ができない。苦しい。

 だが、それもすぐに収まった。吐き出した覚えは無いから、体の中に定着したのだろう。


「うえぇ……体の中に、古代種がいる……」


 その事実だけで頭がおかしくなりそうだ。体の内側から破裂するんじゃないか、意識を奪われて自分の体で暴れるんじゃないか、そういう妄想が止まない。

 というか、さっきまであれだけ暴れてたのに今は何もしてこない。急に落ち着いた。


「……お、おーい」


 恐る恐る声をかけてみるが、返事は無い。けど、その代わりに胸の奥がわずかに揺れた。


「……いる、よね……」


 吐いてないから居るに決まってる。決まってちゃあダメな事実だけど……

 ゆっくりと、息を吐く。まだ大丈夫。

 今のところ死んでないし、意識も自分の物。


「……出てきたりしますか」


 返事は無い。それが一番怖いのに……


「うーん、どうしようかな。セリナになんて説明しよう……まぁ、いいや。なんとかなるでしょ」


 面倒になりそうな事は後回しにして考える、悪い癖が出た。


「……とりあえず、歯磨きとか済ませよ」




「あっ、セリナー!孵化したよー!」

「ほんとぉ!?わーい見せて見せてぇ!」


 ぱたぱたと軽い足音で近付いてくる。


「……あー、見せる、のは……」


 あー、やばい。これ、どうやって見せるんだ。体の中にいるんだけど。


「んー?どうしたのぉ?」


 セリナが首を傾げる。にこにこしてるけど、目はしっかりこっちを見てる。


「いや、その……ちょっと特殊な事に……なってて……」


「ふぅん?」


 一歩、距離を詰められる。


「見せられない事情でもあるのぉ?」

「うん、ちょっとね。体の中に定着?……しちゃってさ」


 セリナは何度か瞬きをして言う。


「それ当たりじゃん!」


 ……?

 あ、当たり?こっちは怖くて大外れだよ!


 とん、と胸を軽く叩かれる。


「それってぇ、もう半分融合してるってことなんだよぉ!」


「いや怖い怖い怖い怖い」

「怖くないよぉ!むしろ逆ぅ!」


 セリナは楽しそうに笑う。


「拒絶も暴走もしてない時点でぇ、完全に適合してるからねぇ」

「……て、適合?」


 セリナがこくんと、頷く。


「しかもぉ、相手は古代種だよぉ?」


 セリナの口元が歪む。


「普通はねぇ、触れた時点で終わりなのぉ!侵食されるかぁ、暴走するかのどっちかぁ!」

「うわぁ……ほんとに?」

「でもミルは違ったぁ!」


 指を向けられる。


「今こうして普通に喋ってるぅ。中で大人しくしてるしぃ!」


 セリナが一歩引いて、満足気に頷く。


「それはもう選ばれたんだよぉ!」

「あぁ、悪運……」

「幸運だよぉ!」


 即座に訂正された。

 ……はぁ、体内でペットを飼育しなきゃあならなくなった。しかも得体の知れない封印個体。一体どんな罰ゲームなの?


「あ、ありがとセリナ。俺はちょっと気晴らしに迷宮(ダンジョン)に行ってくるよ。レオンによろしく言っといてね」

「おっけ〜!」




「はぁ、来てみたはいいけど、一人で攻略できるかな……絶死齎界(ぜっしさいかい)」




――――――――――――――――――――

おまけのコーナー

絶死齎界(ぜっしさいかい)


SS級(ランク)迷宮(ダンジョン)の一つ。

踏破どころか、生還報告すら極めて少ない。


内部は全20層の階層構造を持つが、それ以外の詳細はほとんど知られていない。

理由は単純で調査に入った者の大半が帰ってこないためである。


出現する魔物は最低でもA級(ランク)上位以上。

深層に至っては、SS級(ランク)相当、あるいはそれ以上の存在が確認されている。

また、この迷宮の特異性として、魔物同士の縄張り争いが成立していない点が挙げられる。


本来、強力な魔物は互いに干渉を避ける、または殺し合う傾向にあるが、絶死齎界においては例外であり、同格以上の個体が同一領域に複数存在することが確認されている。

そのため、一度戦闘が発生した場合、横槍の乱入、もしくは連鎖的な戦闘に発展する可能性が極めて高い。

さらに、環境自体にも強い魔力汚染が見られ、

長時間の滞在は精神・肉体の双方に悪影響を及ぼす。


SS級(ランク)冒険者による四〜六人のパーティ推奨。

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