第27話 一之瀬大和とは
――――雷門武視点――――
一之瀬が、天野さんを殺していた。その事実が俺達をどん底に沈めた。
(いかん……!しっかりしろ!)
現状一番冷静な自分が動かないでどうする。思うところはあれど、一之瀬にも事情があるのかもしれない。
「………………事情を話してくれ」
心の中で願う、どうか……何か事情があれば、俺達が納得する事情があればどうとでもなる――――が、それは幻想に過ぎなかった。
「事情……か。そうだな、話してやるよ。それは―――こいつの力が欲しかったんだよ。こいつの能力は強いからな、狙ってたんだ」
「は?」
……意味が、分からない。殺した理由に違和感がある。力が欲しかった……?
「……そういえば、まだお前達に話してなかったか、この際見られたしな……教えてやるよ」
俺の疑問がぬぐえないまま、一之瀬は自分が隠していたことのすべてを語り始めた。
「まず俺の能力ついて……自覚してないとか言ったよな?あれ嘘なんだよ、ちゃんと能力は分かってたんだけどよ……それでお前らに警戒されたらめんどうだったからな」
「どういう……ことだ」
信じられなかった。知られたら面倒な能力?分からないままでいる俺を無視し、一之瀬の能力が明かされる。
「能力は―――『骸の王』」
「……なんだよ、それ」
つい聞いてしまった、心のどこかではわかっているはずなのに、それを受け止められなかった。俺の質問に呆れたように一之瀬が答える。
「分からないか?殺した相手の能力、アニマ、記憶、血肉全てを奪う力……それが骸の王だ。天野を見てくれ、そっちの方が分かりやすいからな」
倒れていたはずの天野さんに目を向けると――――天野さんの体が粒子のようなアニマへと崩れ、吸い込まれるように一之瀬の手から体内へ吸い込まれてく。
「あ……あ、あ……っ」
橘の口から漏れるのは、言葉にもならない、細く掠れた吐息だった。瞳からは大粒の涙がとめどなく溢れているのに、表情は凍りついたように動かない。
「頼む!今はやめてくれ!お願いだっ!」
見ていられなかった、この状況をどうにかしたい一心で一之瀬に懇願する。しかし――――彼の中にはもうあの頃の一之瀬大和はいない。
「やっと、やっと殺せたんだ……仲間として忠告してやる、邪魔すんなよ?次ゴタゴタ言ったらお前も殺す」
ビクッと、体が震える。これが一之瀬の殺意……?人間のものとは思えなかった。
そうして天野さんの体のすべてが一之瀬に入っていった直後―――一之瀬の体全体からアニマが溢れていた。
「ふぅ……」
溢れていたアニマを抑え込んだ一之瀬の姿は―――異質そのものだった。今まで無色透明だった一之瀬のアニマが、天野さんの鮮烈な色に侵食されていく。混ざり合うはずのない二人の命が、一之瀬という器の中で歪に融合し、どろりとした闇のような輝きを放っていた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
「待て!」
一之瀬への憎しみが限界に達した赤羽が、自身の薙刀を手に一之瀬を殺そうとした――――が、意味をなさなかった。
「――――序曲、嬉游曲」
次の瞬間―――赤羽の背後に回った一之瀬が、赤羽の背中に蹴りを食らわせる。
「かはっ!?」
瞬きすら許されない速度。反応することさえ叶わず、赤羽は自身の背後を獲られたことに気づくことすらできなかった。
放たれた重い一撃が彼女の骨を軋ませ、最強の一角を紙屑のように吹き飛ばす。
「…………まじか」
赤羽はこの監獄のNo.2だ。そんな赤羽を一撃、その時点で俺達とは格が違う。
「別にこのまま殺してもいいけど……まあ仲間まで殺す覚悟がまだ持てないんだよ。だから……次に会ったその日、それがお前たちを殺す日にしよう」
背を向け、立ち去ろうとする一之瀬を橘が制止した。
「待って!教えてよ!私たちの絆って、こんな物なの?!私たち……仲間じゃなかったの?」
足を止め、こちらを振り返った一之瀬は―――笑ってた。
「――――お前たちは仲間だ、もちろん花音も」
「じゃあなんで!?何でそんな簡単に殺せるの!」
しばし考えた一之瀬は、あっけらかんと答えた。
「――――仲間として殺した、これ以上でもこれ以下でもない」
絶句し、橘は膝をついた。一之瀬はそんな彼女を一顧だにせず、踵を返した。一之瀬は、歩みを止めず森の方へと姿を消していった。
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