第2話 始まり







 赤黒い球体から人?が出てきてから1ヶ月、めまぐるしいほど世界が変化していった。


─────あの5人はとりあえず、《神》と呼ばれている。


 まず初めに、俺たち日本人の2割が《 能力 》に目覚めた。ある者は火を扱えるように、ある者は新幹線より速く動けるようになっていった。


 そこからすぐに力を使いこなす逸材達はすぐに国から招集がかかった。


 神からの殺害予告、これを無視できるわけがなく様々な作戦が立てられているんだとか。


 まぁ、これに関しては俺には関係ない。


 俺にも能力と、それを動かすエネルギ―――『アニマ』が授けられたが……俺には自分の能力が分かっていない。実質無能力者である。


 しかしそんな俺にも国からの招集がかかっている。


 さっき説明した人達とは違う、後援者サポーターとしてだ。


 この1ヶ月で人間と神で殺し合うのに色々とルールが設けられた。


 テレビの中では、絶望を煮詰めたような顔のキャスターが、神から突きつけられた『条件』を読み上げていた。


 闘うのは人間代表5人と、その背後を支える20人の後援者。神にたった一太刀浴びせれば、人類滅亡は100年延期される。


 画面の隅で流れる「人類終了」「神の慈悲」というネットの文字を、俺は冷めた目で眺めた。


 「……100年? 短いな。どうせなら俺の代で、あの家族もろとも終わらせてくれればよかったのに」


 だが、もし神を2人殺せば、滅亡そのものが止まるらしい。なら、いい。その『力』を手に入れて、俺を捨てた親を見下ろしてやる。


 後援者の候補として呼ばれているのは1500人だとか、そんな集める必要あるかとも思われるが実はそうとも限らない。人間代表の5人の能力を支える力となれば、何になるかなんて分からない。


 なぜ神は俺たちに猶予を与えるのか。楽しんでいるんだ、この状況を。


 そんな神を殺すための招集、行かないという選択もできる。しかしそんなことはしない。


 いつどんな時だって忘れたことはない。親のくせに息子の俺をごみを見るような目、汚物を扱うような仕草を俺は忘れない。思い出すだけで腸が煮えくり返る。


 これはチャンスなのだ、俺を捨てた家族を後悔させるための、復讐のために使わせてもらう。神が死ぬかどうかなんてどうだっていい、今の俺には親への復讐心しか残ってはいなかった。


 さあ、始めよう。地獄に落ちるのは俺か、あいつらか



─────待合室─────



 言われた所に到着すると、確かに1500人くらいは居そうな量の人がいた。ただ量よりも驚くことがあった。


 年齢層だ。テレビで写っているような人達は皆20代は越えている人達ばかりだが、ここにいるのは高校生がほとんど、中には中学生も混じっている。


 そこで待つこと数分、ステージに見知らぬ男が来た。



 「皆さん、初めまして。僕はここの所長の樟田くすだと申します」


 緑色のボサボサヘアーで、だらしなさそうな印象だ。眼鏡の向こうには、半目で分かりにくいが髪と同じ緑色の目が見える。


 この人に任せていいのだろうか。


 そこからはここが出来た理由、俺たちにしてほしいこと、ここのルールなどと言ったことを説明された。


 「ではまず、先程言った通りスマホはこちらがお預かりします」


 ここから何が始まるのだろう、そんな疑問を込めて足を進める。


─────301号室─────


 番号の書かれた鍵を渡され、迷路のような廊下を歩いて、指定された部屋の前に立つ。


 入ってみると、既に部屋を共にする3人がいた。


 部屋はかなり広く綺麗だった。キッチンや冷蔵庫といった家電もしっかりと用意されており、これなら4人でも生活は容易いだろう。


「よろしく」


 こちらから話しかけて見たところ、全員が会釈を返してくれた。驚いた、まさか同じ部屋で男女2人ずつとは。


 話す雰囲気じゃないため、かなり落ち着ける。


 「なぁ……」


 沈黙を破ったのは、1人の男だった。


 「同じ部屋で過ごしてくし、自己紹介しようぜ。俺は雷文武らいもんたけるだ、よろしく」


 ───雷門武、髪と目がオレンジ色の青年。身長は俺よりもかなり高く、180位はありそうだ。


 ハキハキとした喋り方で、リーダー向きなように見える。


 雷門が作ってくれた流れで、全員の自己紹介が始まった。


 「橘琴佳たちばなことかです、どうも」


 ───橘琴佳、水色のボブで、小柄な女子。

そして注目すべきは目だ。なんというか、不思議な感じとしか言えないがすごい気がする。


 「赤羽優あかばねゆうよ、よろしく」


 ───赤羽優、黒髪ロングで大和なでしこといった感じだ。目だけが赤く、先を見据えているように見えた。


 見た感じの印象しては、気が強く正義感があるタイプといった感じだ。


 「一之瀬大和いちのせやまと、これからよろしくな!」



………………自己紹介はすぐに終わってしまった。


そうしてまた沈黙が続くと思えば、樟田のアナウンスが流れてきた。


「一之瀬大和くん、会議室にお越しください」


は? 俺?




─────会議室─────



「こんばんわ、一之瀬くん。今回は君の能力についてだ」


俺の能力?そんなの俺にすら分からないんだが。


「君の能力は不明とされていた、あぁ責めてるとかじゃない。そういう人含め何人も招集している」


なぜ?そう聞こうとするより早く、樟田は説明を始めた。


「僕の能力は〘 鑑定 〙、それで相手の能力がわかるんだ。つまり─────」


「俺の能力がわかるんすね!お願いします!」


「話が速いねー、では失礼」


そうして樟田は俺の目を見て、数秒静かになった。


「……なるほど、君がわからなかったのも無理はないよ。君の能力は───」


「能力は!」


「秘密」


「おぉ!何かを秘密にするってことっすか!」


なんか凄そうな能力だ。これなら後援者になることも、あいつらに復讐することも……そう思っていたが現実は甘くなかった。


「いや普通に秘密、教えれないんだ」


「え?いや、なんで?」


「君の能力は特殊で、教えてもらうより自分で気づくことが重要なんだ」


……うそだろ?


そんな俺の落胆を感じたのか、樟田がフォローを入れてくれた。


「安心してほしい、僕が全力でサポートする。

共に強くなろう!」


かつてここまで真剣な目で見てくれている人がいただろうか。それくらい真剣に見てた。


「うっす、信じます」


信じることにした、この大人を。




─────301号室─────



​樟田さんは他の能力不明者とも面談するらしく、俺は部屋に戻ることにした。


ドアを開けた瞬間、信じられないものを見た。


あ、赤羽が雷文にドロップキックをぶちかましていた。


「いやー弱いわねー、もっと鍛えなさいよ。置いていかれるわよ」


「…………これでも空手部エースだったんだがな……ガクッ」


意気消沈、といった感じで雷文が気絶した。


「俺がいない間に何おもしろいことしてんだよ。最初から見たかったわ」


 そんな文句を言っていたら、橘が不意に顔を近づけてきた。


 「じゃあ、見る?」


 「え、動画でも撮ったのか?」


 「スマホないのに?」


 確かに……。ではどうするのだろう。


 「こう」


 「!?!?!?」


 ぐい、と橘の手が俺の後頭部に回され、強引におでこ同士がぶつかった。


 次の瞬間、視界がぐにゃりと歪み、脳内に直接「映像」が流れ込んでくる。




 《ちなみに、皆の能力はなんなんだ?》




 「なっ……これ、記憶か!?」


 「そう。私の能力は〘保存と共有〙。見たものを保存して、相手に流し込む。……映像だと、おでこ以外はボヤけちゃうから、我慢して」



橘の記憶を辿ると、雷門の質問に赤羽が《戦えばわかる》とか言い出して始まったらしい。いや怖、

バーサーカーかよ。


ちなみに赤羽の能力は〘 強制 〙、手足を動かなくしたり命令を聞かせたりできる。


雷文の能力は〘 軽減 〙、自分が受けたダメージを軽減するらしい。


そうして就寝時間が来たため、寝ようとした瞬間、 いきなり、樟田さんのアナウンスが始まった。


「……今から生存競争を始めてもらいます。あ、拒否権はありません。死にたくないなら、隣の奴を蹴落としてください」


樟田の声が消えた後、部屋には不気味なほどの静寂が訪れた。


「……は?」


 雷文の声が震えている。俺だって震えていた。……だが、それは周りとは違う理由だ。


(チャンスだ。これで俺は強くなれる……っ!……なのに、どうして、こんなに手が冷てえんだよ)


 脳裏では親を見返す自分を想像しているのに、喉の奥はせり上がる吐き気で焼けている。復讐したい。でも、人を、殺す……?


 俺の中に棲む「復讐者」と、まだ捨てきれない「ただの高校生」が、内側から俺を引き裂こうとしていた。





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