俺だけが知っている、君達の救い方
やまちゃん
第1話 降臨
「ふざ……けんな……よっ!」
あいつに吹っ飛ばされ壁に当たる。背中からは滝のように血が流れ、頭がくらくらする。壁に当たる前から片目は切られ、両腕は千切られ、全身が自分や仲間、敵の血で覆われていた。
(みんなは……?)
周りを見渡すと、仲間の死体、転がっている自分自身の両腕、目の前に殺されそうになっている仲間。全てに吐き気がした。自分の腕にも目はいったが、それより仲間に目が行く。
「あ、が……っ」
あの子の喉から空気の漏れるような掠れた音が漏れた。ギリギリと肉が食い込み、首の骨が悲鳴を上げている。必死に敵にしがみつくその指先は、次第に力を失い、ぷらんと腕が降りた。
「あ……あぁっ!」
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれっ!
俺のせいでまた仲間が死んでいく、そんな事実に耐えられなくなりうずくまる。
「ボス……どうする?こいつ」
「生かしとくとでも?殺せ」
「へーい」
あいつの部下が俺にどんどん近づいてくる。俺のせいで仲間が死んだのに、自分は未だ死ぬ覚悟が持ててはいなかった。
「お前を殺すの……実は気が引けるんだよな」
「……は?」
「知り合ったのは今日が初めてだけど……けっこう好きになったぜ。特にお前が仲間のために腕を犠牲にした瞬間!あーいうのなんて言うんだろ?漫画?みたいで熱かったなぁ!」
気色悪い笑顔で俺を褒めてくる。
「まぁそのお仲間殺しちゃったけど……安心しろよ、お前もちゃんと――――殺してやるからさ」
そう言って俺の顔面があいつの手に包まれた瞬感、俺の意識はもう2度と戻ることはない。
はずだった。
───俺だけが知っている、君達の救い方───
「てかさ、あれまじなんなんだろな」
「………………」
「……おーい?大和君や?大丈夫か?なんかシャツすげぇびちょびちょだぞ」
「…………あぁ、眠たくてな」
そういえば昨日は寝ていないような気がする。目をこすり、脳を起こす。
「しっかりしろよな~」
「わりぃ……何の話だっけ?」
「パンドラの話だよ」
パンドラとは、数日前に現れた赤黒い球状の何かだ。
国どころか世界が調査するためにヘリを飛ばしたところ、塵すら残らず消し飛ばされたとか。
「俺予想を立てたんだがな!実は……あの黒いのは宇宙船で、そして俺の元に降りてきたと思ったら、中には美少女が!」
「………」
「せめてなんか言えよ!」
「ごめんごめん……ちょっと体調悪いっぽいし、帰るわ」
俺は荷物を置いたまま、逃げるように教室を後にした。 背後で正人が困惑の声を上げているが、今はそれに応える余裕すらない。
「一之瀬君!」
「…………あ」
廊下を歩いていたら、後ろから声をかけられた。振り返ると……中学のころから一緒の
「大丈夫?すごい顔してるよ」
「ちょっと体調不良でさ……今から帰るとこ―――」
清水の白い首筋を見た瞬間、そこに赤黒い手のアザが浮かび上がり、骨が軋むミシミシという音が鼓膜に張り付く。……何が何だかわからず目をこすりもう一度見ると、いつも通りの清水が立っていた。……本当に今日の俺はおかしいようだ。
「一之瀬君……?大丈夫?」
「…………あぁ、大丈夫だ」
今出来る精一杯の笑顔を浮かべ、清水に心配かけないようにする。こいつには何度も心配をかけてしまった。せめて今は心配させないようにしないと。
「そっか……気をつけてね」
その言葉を最後に、俺は学校を離れ自宅に戻った。
「ただいま───って言っても居るわけないか」
親に見捨てられ、子として最低限与えられた家に誰かがいるわけはなかった。ベットに横になり、これから怒ることを考える。
(どうするべきか……)
学校をさぼったのはいいが、何をしたらいいかわからない。
(……外に出よう)
自分の状態を考えれば、外に出るのは良くない。しかし静かすぎる家の中にいると、自分の心臓の音がカウントダウンの秒針に聞こえて耐えられなかったため外に出る。夏の暑い気温、痛みすら感じる陽射しが服で隠されていない腕や頭に感じる。
歩く、ひたすら歩く。目的地があるわけではないが、ただただ歩きたいが一審で歩く。どれくらい歩いたか分からなくなる位歩いていると、晴れているはずなのにいきなり俺の足元には大きな影が映っていた。
「………………あれ」
何かと思い上を見てみると……パンドラの真下に来ていた。それは異質そのもので、今までの日常には不相応なものだった。
今はあんなものが見たいわけじゃない、視界は下に向け聞こえてくる音に集中する。
車のエンジン音、話し声、風の音までが、何かに吸い込まれたみたいに。
自分のコンクリートを踏む音だけがやけに大きく響く、次の瞬間。
ドォォォォォォォォンッ!!
鼓膜を突き破るような爆発音。
だが、街が燃えることはなかった。音が止んだ空で、天に座していた球体が五つの影へと分かたれる。
人型を成したそれは、世界中の人間に等しく、冷酷な宣告を突きつけた。
「喜べ。力を授けてやる」
そして――。
「半年後に、お前たちを殺す」
そんな、殺害予告だった。
―――その瞬間、世界が激しく明滅した。脳の裏側で、見たこともないはずの「赤」が爆ぜる。膝が震え、胃の底から苦いものがせり上がってくる。
初めてのはずだ。こんな理不尽、経験したことがあるはずがない。なのに、どうして俺の指先は、あいつの喉を掻き切る感触を覚えている?
「……っ、は、あ……っ」
灼熱の太陽の下、俺一人だけが、凍えるような悪寒に震えていた。
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