第87話 神鼠の最強大王は 女の扱いが下手すぎる
(自筆イラスト)
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執事のモレルが僕に耳打ちをする。
次の予定まで、あと少ししかない。
リヒトさんが庭園に向かったことをヤンから聞くと、
僕は神通力で窓から飛び出した。
…いた。
小さな影。
「リヒトさん!!!」
リヒトさんは振り向かない。
しゃがんで、木の棒で土を掘っている。
何かを言おうとしたが、うまく口から出てこない。
急にリヒトさんが言う。
「どうして、何も言わないの?」
「エッ…?
いや…言うことがないから…
見ていた通りです。
僕は何も知らなかったし…
リヒトさん、どうして怒っているんですか?」
「怒ってない。」
そのとき、従者が走ってきた。
「シリウス様、次のご予定が…」
僕はため息をつく。
何を言えば、リヒトさんの機嫌が直るのか分からない。
「リヒトさん…
寝るときは、燭台で合図します…」
リヒトは、黙々と土を掘っている。
「ねえ、リヒトさん、僕は、はっきり断りましたよ?
これ以上、何をすればいいんですか?
リヒトさん…!!!」
リヒトさんはずっと黙っている。
僕は、少しムッとして、その場を離れた。
*************
その晩、執務を終えた僕は、
執事のモレルを問いただしていた。
「なぜ、一緒に行かない?」
「お世話になった教授の小さな退任パーティだから、
一人で行きたいと、強くご要望で…」
「遅すぎるだろう。」
「まだ亥の刻にもなっておりません。」
「そもそも、なぜ、その予定を僕に言わないんだ。」
「リヒト様も、夕方に思い出したとのこと…
この予定だけを、他の方もいらっしゃるのに、
執務中のシリウス様にお伝えすることはできません。」
「彼女が危険な目に遭うかもしれないだろう。」
「ですから、少し離れた位置で、親衛隊が複数人警護しております。」
僕はむしゃくしゃした。
執事のモレルは静かに続ける。
「ご報告ですが、ヘスティア様は、大神殿の一室にご宿泊です。」
「夜が明け次第、帰ってもらえ。
僕は会わない。」
モレルは退室した。
***********
僕は、自室に戻ると、窓を覗いた。
リヒトさんの部屋は暗い。
僕は、妙に寂しくなって、
燭台で合図をしてみた。
1,2,3,4,5,6,7,8,9
返事はない。
1,2,3
もちろん、返事はない。
僕は腹が立ってきた。
一人で部屋をウロウロする。
僕が、燭台で合図をするときに、
部屋にいないなんて。
僕は、燭台で合図すると言ったじゃないか。
教授って誰だ?
その宴会に来るのは誰だ?
彼女は今、楽しそうに笑っているのか?
あの笑顔で?
…僕がいなくても?
そのとき、遠慮がちに扉をノックする音がする。
僕の心臓は跳ね上がった。
リヒトさん!!!
扉に飛んで行く。
が、すぐに扉を開けると、
まるで待っていたみたいで、
今の、むしゃくしゃしている僕の変なプライドに反するから、
二呼吸ほど待って、ゆっくり扉を開けた。
************
が、そこに立っていたのはリヒトさんではなかった。
「…ヘスティア嬢。こんな夜分にどうされましたか。」
僕は鋭い視線を大王付きに送る。
なぜ、この人をこの廊下に通した?
「大王様…私をお呼びになりましたでしょう?」
「僕が?」
呆気に取られていると、
「ええ、先ほど窓から、燭台を点けて、私に手を振っておられたでしょう。
私も、手を振り返しましたが、ご覧になりました?」
と言う。
が、なんにせよ、距離が近い。
胸元が当たりそうだ。
しかし、後ろに下がると、部屋に入ってきそうだし…
僕は動かないまま言った。
「いいえ、
見間違いでしょう。」
「どなたかに、しておられたのですか?」
ヘスティア嬢は健康的な艶っぽい笑顔を浮かべる。
「部屋にお戻りください。」
「分かりました。
それでは、大王様のご健康をお祈りいたします。」
と言いながら、僕の手を取ると、両手で包んで、
胸の谷間に当てる。
あまりの積極性に面食らっていると、
さらに、僕の胸に顔を寄せてきた。
僕が、慌てて手と身体を離すと、
「お休みなさいませ。
…またいつでも参りますわ。」
と、ようやく去ってくれた。
やれやれとため息をついたとき、すぐに、ヤンが近付いてきた。
「リヒト様がお帰りで…」
「リヒトさんが?無事か?」
「はい…お酒に酔っていらっしゃいますが…」
「酔って…」
僕は、先ほどのヘスティア嬢の禊をしたいし、
なんでもいいから、
酔っ払った、可愛いリヒトさんに会いたくてたまらなくなった。
「まだ寝てないんだろう?
少しだけ顔を見たい。」
「あ、あの…」
「なんだ?」
「今、ここにいらっしゃったんですが…」
僕は、嬉しさでくすぐったくなった。
リヒトさん、会いに来てくれたんだ!
すぐに追いかけようとした僕に、
ヤンがためらいがちに言った。
「シリウス様が、ヘスティア嬢とその…寄り添っているお姿を見て…
一人にしてほしいと、立ち去られました。」
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