第82話 殺すなら せめて 君が 気持ち良くなってから
(自筆イラスト:テレシウスの顔面)
https://kakuyomu.jp/users/ugimuro_sashiko/news/2912051596226709031
私は雌猫に近づく。
雌猫は、怯えたように後ずさる。
「ハッ!
安心しろ。
私は貴様とまぐわらん。」
私は嘲った。
「雌猫なんぞとまぐわって、
子でもなそうもんなら面倒だ。」
私は、怯える雌猫の顎をつまみ上げて、
その瞳を覗き込んだ。
「
その瞬間に、女は私の手に猛然と噛みついた。
女の牙が私の手に食い込み、血が流れ出す。
「ハッ!
こんな状況でも、憎悪と食欲は旺盛か…」
私は女を張り飛ばして、片手で首を押さえつけた…
が、どこかから声がする。
「…リヒトさんに…手を上げるな…」
女は一瞬の隙をついて、私の手から逃れる。
「逃げて…早く…」
女は髪を掻きむしりながら、激しく首を横に振り、
また私に襲い掛かって来る。
無論、私は易々と片手で押さえ込む。
が、力を込めようとすると、不思議と力が抜けていく。
「逃げて…!」
1000年に一度の神通力を持つ、
異常なまでにこの女に執着している。
「猫族に惚れるなんぞ、異常趣味だ。
神鼠の恥さらしめ!!」
「うるさい!!!!!」
急に女が叫ぶ。
見ると、黒曜石のようだった瞳が、
正気を取り戻し、
私を真っ向から睨みつけている。
「誰だか知らないけど、
このクソ馬鹿ゴミ野郎!!!!!!!
シリウスは恥さらしなんかじゃない!!!!!
シリウスは…」
女の目から涙が溢れ出す。
「最高にかっこいいんだから!!!
世界一かっこいいんだから!!!!!」
そう言うなり、私に押さえつけられながら、
着ている服を肩から脱ぎ始めた。
さすがの私も、女の動きを凝視する。
「何が、
馬鹿じゃないの!!!!!」
「さっきから聞いていれば、この私を愚弄して…」
私は、女の両手を押さえつけて、覆いかぶさった。
「貴様の命など、すぐに奪える。
貴様が、この男と…猫族の殲滅に役立つ道具だから、生かしているだけだ。
今すぐ殺してやってもいい。」
「頭の悪いゴミね。
だから、脱ごうとしてるんでしょ!!!!!」
「は?
気が狂ったか…」
「何でもいいわよ、黙ってて!!!」
女は私に言い放つ。
「えっと…シリウス…さっき、君、その…
そういうことを、
しようとしてたでしょ…?」
強気な言葉から一転、
顔を紅潮させて、目を伏せる。
「お互い、殺し合っちゃうなら、死ぬ前に…
いいよ…そういうこと…」
女の顔は耳まで赤く、目を伏せているのに、
瞳が熱で潤んでいるのが分かる。
女は、露わになった滑らかな肩から、さらに服を引き下げようとする。
「わ、私…すごく…貧相だから…
がっ…がっかりするかも…」
「ハッ…誰が
「がっかりしても…『綺麗です』とか、
言ってくれると…助かるかも…」
女は、私の存在を忘れたように、
熱っぽい瞳で私の顔を見つめた。
「これ以上自分で脱ぐの恥ずかしいから…
シリウスが、
脱がせてくれたら…助かるかも…」
「ウァァァァァ!!!!!!!」
私は、訳の分からない激痛で倒れ込む。
女は、倒れ込んだ私に乗りかかる。
ポタポタと女の涙が顔にかかる。
「君が先に逝くのは、ナシ…」
…リヒトさん!!!
…リヒトさん!!!!
「シリウス…さっきの続き、しないの?
私とは、もう、したくない?」
「ウァァァァァ――――ッ!!!!!!!」
僕は激しく首を横に振る。
「私が君を殺しても、
君が私を殺しても、
お互い殺し合っても、
もう、なんでもいいよ…
でも…」
リヒトさんは、涙に濡れた頬を僕の頬に擦り付けて、
耳元で囁いた。
「せめて、君が、気持ち良くなってから、
殺してね…?」
***********
僕は、大きく身震いをして、声を絞り出した。
「リ…ヒ…トさん…」
「シリウス…?」
リヒトさんは、ゆっくりと身を起こし、
信じることを恐れるように、
おずおずと僕を見る。
僕も、ゆっくりと上体を起こす。
「ええ…今は、間違いなく僕です。」
「『今は』…か…」
と言いながらも、今度は僕を真っすぐ見る。
「本当だ…髪も目も、戻ってる…」
と言った瞬間、顔を歪め、僕の首に飛びついた。
僕は、リヒトさんと一緒に仰向けに倒れる。
獣化したリヒトさん
変化した僕…
そういうことをしようとした僕と
死ぬ前にしてもいいと言うリヒトさん…
上半身裸の僕と、
肩まで脱いでいるリヒトさん…
僕たちは、もう何も言えず、
黙って二人で、寝台に茫然と横たわっていた。
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