11 愛のために選んだ星
「小賢しい結界など、張りおって」
銀次が、赤羽家の前の電柱の上で、腕を組んで呟く。
実は、結界の力は消えかけていた。
そう。愛の結界は、皮肉なことに、永遠ではない。
「ふん」
銀次は颯爽と地に降り立つ。
と、薔薇型の銀の杭と本物の薔薇を、赤羽家目がけて舞わせた。
「喰らえ! シルバー・ステイク・ブラッディ・ローズ!」
家が激しく揺れた。
「きゃあ!」
美紅が慌てて、2階から降りてくる。部屋着のままだ。
「美紅!」
美桜がエプロン姿で、キッチンから出てくる。
「お母さん、きっとあいつよ!」
美紅が逡巡する。勇気を出して言った。
「私が囮になる! お母さんは逃げて!」
だが。
「美紅。お母さんは、この家を捨てたりしないわ!」
「何言って……」
もう一度激しく家が揺れる。
「もう!」
美紅が飛び出す。
「あははは、小僧! 私の血をお吸いなさい!」
裸眼にロングヘアの、挑発的な美紅のセリフに、しかし、銀次は顔一つ変えない。
「ふん。ヴァンパイアごときが」
反対に、美紅の顔は真っ青。
そう、強がっているのだ。
「行くぞ! シルバー・ステイク・ブラッディ……」
「き、きゃあああ!!」
美紅が腕で顔を庇い、目をつぶる。
「━━待てよ!」
割って入る影!
「……わ、若木くん?」
若木だった。
心なしか、少し前よりたくましくなり、
そして、目がとても真剣だ。
少しだけ、別人みたいに精悍に見えた。
「だ、だめだ、若木、……わ!」
牙が角を曲がると、我が家が見えてきた。
そこには━━……
「美紅さんは、俺が守る!」
若木は懐から、巻物を取り出した。
銀次の顔色が変わる。
「そ、そのスクロールは!」
手近な柱の上に飛び退いて、髪を揺らしながら、銀次は振り返る。
牙が懸命に走ってくる。
「……!」
銀次が息を呑む。
だが、若木は牙に気づかない。
叫ぼうとして、無様に転んだ。
己の軟弱さを呪った。
「ま、待て、わ……」
やめろ、若木!」
手を伸ばす。
声はまだ、届かない。
「僕の血が告げてる、
そのスクロールは、開いちゃ、だめだー‼︎‼︎」
「美紅さん、俺の命、美紅さんに捧げます!」
若木は、スクロールを開いた。
「我に、闇の力を……!」
「きゃ、何⁈」
若木がいたはずの場所に、<そいつ>が現れた。
血色のない肌。痩せた体。
鋭い爪と牙。
眼窩は深く落ち込み、瞳が濁っている。
猫背の背中……。
牙が拳で地面を激しく叩く。
「あ、あと少し。あと少し早ければ……!」
もっと早く回復していれば。
ベル番が届けば。
僕がもっと、強ければ……
キッチンの窓からそれを見、
美桜は呟いた。
「ごめんね、若木くん……」
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