第6話 文体研究

 小説の要は文体である。と、村上春樹も三島由紀夫も言っていた。正しい文章から、小説の言語への脱皮である。


 チオリは小説講座の友人から、アーシュラ・K・ル=グウィンの『文体の舵をとれ』をおすすめされ取り組んだ。


 そして、さらに田中の文体を真似してみることにした。


 出来上がった怪文書の数々。しかし、やってみてわかったのは、田中のような情けなさ、柔らかさは、チオリの文章からは出ないということだった。チオリの言葉は、長年、問題の解明と解決に費やされきたため、そういう響きしかもたなかったのである。


 これについて、当時はその理由がはっきりわからなかったのだが、最近あらためて田中文体を真似したところ、以下の違いがあることがわかった。


・田中はつぶやき、チオリは演説

・田中は日常、チオリは事件

・田中はキャッチボール、チオリはドッチボール


 何気ない文章でも、次にどんな言葉、どんな文節を置くのかは作者が逐一選択している。その数え切れない選択の基準が、田中とチオリではこれだけ異なるのである。


 チオリは思った。自分には小説は書けないのではないかと。憧れの田中には程遠い。何十年もこの感性と言葉で生きてきたのだ。今更自分が変われるわけはないと。


 そんな折、チオリの怪文書を読んでコメントをくれた少年がいた。

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