次期勇者は現勇者の***から聖剣を抜いた俺!?~転移先で荷物運びの俺、聖剣を抜いて次期勇者に選ばれた!?しかもパーティーの女の子は俺の聖剣に夢中になって…?おい勇者、お前この状況理解してる?~
第2話:空腹の魔導士は「遠隔操作」~フラグを全力で損切りする件~
第2話:空腹の魔導士は「遠隔操作」~フラグを全力で損切りする件~
「……いた。間違いなくリナだ。一週目のあの『女王』っぷりは影も形もないが……」
サトウは、裏路地のゴミ捨て場の影に力なく座り込んでいる赤い影を見つけ、壁の陰にサッと身を隠した。隣では、先ほど「採用」したばかりのマイが、不思議そうに首を傾げている。
「サトウさん、あのお姉さん、本当にお腹空いて動けないみたいっスよ? アタシが担いでパン屋までデリバリーしてあげるっス!」
「待て、マイ! ……焦るな、これは一歩間違えれば、二週目も過労死一直線の『超大型・依存案件』への入り口だぞ!」
サトウは反射的にマイの服の裾を掴んで引き止めた。
視線の先にいるリナは、ボロボロの魔導書を膝に置き、震える手で空の財布を何度も確認していた。
一週目のような、店主を魔法で脅すような傲慢さは微塵もない。ただ純粋に、魔法の修行に全リソースを注ぎ込みすぎて、生活費(と自分の血糖値)の管理を完全に無視してしまった、あまりにも真っ当で、不器用な「頑張り屋の女の子」の姿だった。
「……うう、……あと一回、……火球のフォーマットを……試したかっただけなのに……。……お腹が、……鳴る気力も、……ない……」
弱々しく漏れるリナの独り言。それは、かつてサトウがブラック企業で、締め切り間際にデスクの下で呟いていた「……もう、立ち上がれない……」という絶望の声に酷似していた。
(……くっ、同病相憐れむ、か。だがダメだ! 社畜時代の教訓その百十五……『情けは人のためならず。……転じて、安易な直接救済は、依存という名の無限残業を招く契約書へのサインと同じだ』!)
サトウの脳裏には、一週目のリナが放った「サトウ! 私の勝負服を汚した責任、取ってくれるんでしょうね!?」という叫びが、呪詛のようにリフレインしている。
今の彼女は、普通の、性格の良い女の子だ。だからこそ、ここでサトウが颯爽と現れてパンを差し出し、「大丈夫かい? お嬢さん」なんて紳士的なセリフを吐こうものなら、彼女の純粋な恋心という名の最強のデバフに火をつけてしまう。
(二週目の俺は、誰の心も掴まない。誰からも感謝されない。……ただ、物流の要であるマイと共に、静かに効率的に稼ぐだけの『幽霊中間管理職』になるんだ……!)
サトウは、先ほど市場の入り口で、自分たちの昼食として買ったばかりの「最高級・ハチミツ入りのふわふわパン」を二つ、マイに手渡した。
「いいか、マイ。これが今回のアサインだ。お前のその『規格外の脚力』と『投擲能力』を駆使して、あのお姉さんにこのパンを届けるんだ。……ただし、絶対に姿を見せるな。顔を見られたら、俺たちの二週目の平穏は終了だと思え」
「……? よくわからないっスけど、ステルスミッションってことっスね! 任せてほしいっス、サトウさん!」
マイはサトウからパンを受け取ると、一瞬で壁を駆け上がった。一週目でもサトウを驚かせたあの身体能力は、二年前の今でも健在だ。
リナは、意識が朦朧としているのか、虚空を見つめていた。
「……もう、……だめ。……最期に、……焼きたての、……クロワッサン……食べたかった……」
──その瞬間だった。
シュパッ! と空気を切り裂く音が響き、リナの膝元の魔導書の上に、紙袋に包まれた温かいパンが、まるで天からの贈り物のように着地した。
「……え、……え? ……パ、パン? ……幻覚? ……空から、……パンが降ってきた……?」
リナが、信じられないものを見るような目で膝元を見つめる。彼女は震える手で紙袋を開け、そこから漂うハチミツの甘い香りに、瞳を大きく見開いた。
「……本物。……温かい。……まだ、湯気が……」
リナは、周囲をキョロキョロと見渡した。だが、そこには誰もいない。マイはすでにサトウの待つ物陰へと、音もなく着地して戻っていたからだ。
「……誰? ……誰か、いるの? ……あの、ありがとうございます! 私、……助かりました!」
リナは、ふらふらと立ち上がろうとしながら、空に向かって叫んだ。その声は、一週目の怒鳴り声とは正反対の、心の底からの感謝に満ちた、美しく透き通ったものだった。
(……よし。……よし、これでいい。……接触ゼロ。恩義の匿名化完了。これでリナの記憶に残るのは、せいぜい『パンをくれた謎の影』止まりだ。俺という人間は、彼女の人生のログには一切残らない。完璧な損切りだ)
サトウは壁の影で、冷や汗を拭いながらガッツポーズをした。
──だが、事態はサトウの予想を少しだけ超えていた。
リナはパンを一口食べると、そのあまりの美味しさと、誰かが自分の窮地を救ってくれたという事実に、目から大粒の涙をポロポロとこぼし始めたのだ。
「……うう、……う。……美味しい。……こんなに、優しい味のパン、初めて……。……私、……頑張って修行して、いつか……いつかこのパンをくれた人に、ちゃんとお礼を言いたい……。……絶対に、見つけ出してみせるわ……!」
(……え、……重い。……お礼の決意が、既に重いんですけど……!?)
サトウは、リナの背後から漂ってくる、一週目とは質の違う、しかし同じくらい強力な「執着」の予感に、全身の毛穴が逆立つのを感じた。
「サトウさん! あのお姉さん、泣いて喜んでるっスよ! やっぱり、直接挨拶した方がいいんじゃないっスか? アタシ、あんなに綺麗に泣く人、初めて見たっス!」
「ダメだ! マイ、絶対にダメだ! あそこに行ったら、俺たちは再び『パーティーメンバー』という名の共依存関係に引きずり込まれる! ……撤収だ! 今すぐ北門を抜けて、隣の街まで強行軍だ!!」
サトウはマイの腕を引き、全速力で裏路地を駆け抜けた。
普通の、性格の良い、不器用な努力家のリナ。
一週目の記憶がなければ、サトウだって彼女の手を取り、「一緒に頑張ろう」と言っていただろう。だが、知っているのだ。その「善意」が積み重なった先に待っているのが、アルベルトと出会い性格が歪み始め、服を燃やされ、全財産を奪われ、最終的に崖からダイブすることになる「断罪」のデッドラインであることを。
「……待っていろ、セシル。……大聖堂の炊き出し。……あそこには、さらなる
「了解っス、サトウさん! アタシ、サトウさんの『ホワイトな計画』、全力でサポートするっスよ!」
サトウは、背後でリナが「……あの、パンの袋……捨てずに持っておこう……」と呟いていることなど知る由もなく、マイと共に「回避」という名の二週目の戦場へと突き進んでいくのだった。
中間管理職サトウの、二度目の異世界生活。
一週目よりも遥かに過酷な「回避行動」が、今、静かに幕を開けようとしていた。
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