第14話

令和の爺ちゃん剣士、幕末で無双してました〜竹刀一本で新選組を圧倒〜

第14話 無拍子、鬼を断つ

河原。

朝の空気が、静かに張り詰めていた。

風が止む。

水の音だけが、遠くで響く。

向かい合う二人。

一歩の距離。

土方歳三。

そして、仲村源蔵。

「来たか」

「来たな」

それだけ。

余計な言葉はない。

後方では、新選組の隊士たち。

その横で、沖田総司が楽しそうに目を細めている。

少し離れて、綾が息を呑む。

(……始まる)

次の瞬間。

動いた。

――速い。

土方の踏み込み。

重い。

速さだけじゃない。

踏み込み一つで空気が沈む。

振り下ろし。

――ガンッ!!

竹刀と刀がぶつかる。

衝撃。

砂が舞う。

綾が目を見開く。

(受けた……!)

だが、源蔵の足がわずかに沈む。

重い。

これまでとは違う。

土方の二撃、三撃。

連なる。

すべてが殺しに来ている。

だが――

当たらない。

源蔵は最小の動きで捌く。

だが、完全ではない。

押されている。

(……互角……?)

綾の心臓が跳ねる。

そのとき。

土方の目が変わった。

「……潰す」

低い声。

空気が凍る。

次の踏み込み。

さらに速く。

さらに重く。

(来る……!)

斬撃。

一瞬の隙もない。

逃げ場はない。

だが――

そのとき。

空気が、変わった。

音が消える。

風も、止まる。

(……え?)

綾の視界が、揺れる。

何かが違う。

(今……何が……)

源蔵が、そこにいる。

だが。

“間”がない。

踏み込む前も、後もない。

ただ――

そこにいる。

新兵衛が目を細める。

(……それか)

土方が踏み込む。

その瞬間。

いや――

その“前”。

――バシン!

乾いた音。

静寂。

土方の動きが、止まっていた。

竹刀が、ぴたりと手元を押さえている。

一歩も動けない。

風が戻る。

世界が動き出す。

源蔵が言った。

「終わりだ」

静かな声。

だが、絶対だった。

沈黙。

土方が、ゆっくりと息を吐く。

「……今のは……」

目を閉じる。

そして、開く。

「間が……無い……」

理解した。

源蔵は何も言わない。

ただ、竹刀を下ろす。

数秒。

やがて。

土方が刀を納めた。

「……負けだ」

はっきりと。

隊士たちがざわつく。

沖田が、くすっと笑う。

「やっぱり面白い」

土方は振り返らない。

そのまま歩き出す。

すれ違いざま、一言。

「覚えておく」

それだけ言って、去っていく。

新選組も続く。

気配が遠ざかる。

静寂。

風の音だけが残る。

数秒後。

「勝ったああああ!!」

綾が叫んだ。

「すごいすごいすごい!!」

源蔵は竹刀を肩に担ぐ。

「普通だ」

「普通じゃない!!」

そのとき。

「いやあ、見事じゃったのう」

声。

振り向くと、男が立っていた。

「また来たの!?」

綾が叫ぶ。

男――坂本龍馬は笑う。

「これで終わりじゃないぜよ」

「え?」

その一言に、空気が少しだけ変わる。

源蔵は興味なさそうに言った。

「そうか」

綾が頭を抱える。

「終わりでいいじゃん!!」

川の流れが続く。

だが、戦いは終わっていない。

ただ一つ、確かなこと。

竹刀一本の老人は――

鬼を、止めた。

(第二章・了)

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