第10話
令和の爺ちゃん剣士、幕末で無双してました〜竹刀一本で新選組を圧倒〜
第10話 本隊突入
「……ほんとに来るの?」
夕暮れの道場。
綾が落ち着かない様子で竹刀を握る。
「来る」
久我新兵衛の返事は短い。
「絶対?」
「絶対だ」
逃げ場はない。
空気が張り詰める。
仲村源蔵は、いつも通りだった。
コツ、コツ、と床を鳴らしながら歩く。
「来るなら来い」
「いや軽いって!」
綾が思わず突っ込む。
そのときだった。
――足音。
一つではない。
二つでもない。
増えていく。
ザッ、ザッ、ザッ……
規則的な音が、道場の外を埋めていく。
綾の喉が鳴る。
(多い……!)
新兵衛が低く呟く。
「……本隊だ」
次の瞬間。
道場の入口に、ずらりと人影が並んだ。
新選組。
数十。
無言。
圧。
そして――
一歩、前に出る男。
鋭い視線。
揺るがぬ気配。
土方歳三。
「囲め」
低い声。
同時に、隊士たちが動いた。
一斉。
逃げ場を塞ぐ。
完全包囲。
「ちょっと待って待って待って!」
綾が叫ぶ。
「多すぎるでしょこれ!?」
誰も答えない。
源蔵が竹刀を構えた。
「来い」
その一言で、戦いが始まった。
――速い。
隊士たちが同時に踏み込む。
連携。
左右から。
上から。
死角から。
普通なら、避けられない。
だが――
――バシン。
――バシン。
――バシン。
乾いた音が連続する。
源蔵は、最小限の動きで捌いていた。
一歩も多くない。
一振りも無駄がない。
流れるように、隊士たちが崩れていく。
「なっ……!」
「見えねえ……!」
ざわめき。
それでも、止まらない。
次々と来る。
囲む。
削る。
押し切る。
それが本隊の戦い方。
(……やばい……!)
綾も動く。
一人、二人。
なら戦える。
「はあっ!」
――バシン!
一人倒す。
だが――
三人目で止まる。
「くっ……!」
横から来る。
後ろから来る。
(無理……!)
囲まれる。
動けない。
その瞬間。
「下がれ」
声。
同時に。
――バシン、バシン!
一瞬で二人が弾かれる。
源蔵が、そこにいた。
「……!」
綾が息を呑む。
「無理するな」
「……うん」
悔しいが、下がる。
源蔵が前に出る。
流れが変わる。
隊士たちの動きが、乱れる。
(……何だ……この間……)
新兵衛が目を細める。
攻撃の“前”に、すでにそこにいる。
踏み込む“前”に、当たっている。
(……読んでいるのか……?)
いや、違う。
(……ズレている)
そのときだった。
「どけ」
低い声。
空気が変わる。
隊士たちが、一斉に下がる。
中心に道ができる。
そこを歩いてくる男。
土方歳三。
「……ようやく出てきた」
綾が呟く。
背筋が凍る。
(この人……別格……)
土方が、ゆっくりと刀に手をかける。
「お前が相手だ」
源蔵は竹刀を構えた。
「そうか」
一歩。
踏み込む。
――速い。
だが、それだけじゃない。
重い。
圧が違う。
(来る……!)
振り下ろし。
――ガンッ!!
鈍い音。
竹刀と刀がぶつかる。
重い。
衝撃が走る。
綾が息を呑む。
(受けた……!)
だが、源蔵の足がわずかに沈む。
初めての感覚。
「……なるほどな」
土方が低く言う。
もう一歩。
踏み込もうとした、そのとき。
「……十分だ」
刀が止まった。
綾が目を見開く。
「え?」
土方はゆっくりと刀を納める。
「目的は果たした」
隊士たちに目を向ける。
「引くぞ」
「はっ!」
一斉に動く。
整然とした撤退。
あっという間に、気配が消える。
静寂。
綾がその場に座り込む。
「……やばかった……」
心臓がうるさい。
新兵衛が静かに言う。
「……次は、もっと来る」
「え……まだあるの……?」
源蔵は竹刀を肩に担いだ。
「面倒だな」
「だから軽いって!!」
そのとき。
「いやあ、派手にやりよるのう」
聞き慣れた声。
振り向くと、男が立っていた。
「また来たの!?」
綾が叫ぶ。
男――坂本龍馬は笑う。
「これは、ただの始まりぜよ」
その一言が、妙に重い。
風が吹く。
京の空気が変わる。
個人と組織。
その戦いは、まだ序章にすぎない。
(続く)
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