令和の爺ちゃん剣士、幕末で無双してました〜竹刀一本で新選組を圧倒〜

ミヤボン

第1話

令和の爺ちゃん剣士、幕末で無双してました〜竹刀一本で新選組を圧倒〜

第1話 その一撃、一本

「……遅いな」

静まり返った道場に、低い声が落ちた。

仲村源蔵、七十二歳。

竹刀を中段に構えたまま、ぴくりとも動かない。

向かいに立つのは若い五段。額に汗を浮かべ、息を荒げている。

「い、いきます!」

踏み込んだ。

速い。若さの勢いがある。

だが――

「間合いが甘い」

次の瞬間。

――バシンッ!

乾いた音。

面を打ち抜かれた青年が、呆然と立ち尽くす。

「……一本だ」

ざわめきが広がる。

「まただ……」「あの爺さん、強すぎるだろ……」

源蔵は小さく息を吐いた。

「打つ前に分かる。肩が上がっている」

「は、はい……」

青年は項垂れる。

源蔵は竹刀を下ろし、静かに礼をした。

――その瞬間だった。

世界が、歪んだ。

「……なんだ、ここは」

目を開けると、そこは土の匂いがする場所だった。

木造の建物。土間。見慣れぬ服装の男たち。

そして――腰に差された刀。

(撮影か? いや……)

違う。

空気が違う。

生の気配。張り詰めた殺気。

「おい、じじい」

声をかけられた。

振り向くと、浪人風の男が三人。にやにやと笑っている。

「その格好……どこから来た?」

源蔵は竹刀を軽く持ち直した。

「分からん。だが――」

一歩、踏み出す。

「道場ではないな」

男が舌打ちした。

「ふざけやがって。斬るぞ」

刀が抜かれる。

鋭い音。

(真剣、か)

源蔵は目を細めた。

「……反則だな」

「は?」

次の瞬間、男が斬りかかる。

速い。だが――

(見える)

踏み込み。

重心の移動。

肩の入り。

全部が“遅い”。

「入ったな」

――バシン!

竹刀が手首を打ち抜いた。

「ぐあっ!?」

刀が地面に落ちる。

「小手だ」

残りの二人が一瞬固まる。

「な、なんだこいつ……!」

「ば、馬鹿な……竹の棒で……!」

「長いな」

源蔵は一歩だけ動いた。

――バシン!

――バシン!

二つの音。

気づけば二人とも倒れていた。

静寂。

源蔵は息を整え、竹刀を下ろす。

「終わりだな」

その場にいた全員が、言葉を失っていた。

「……何をしている」

低い声が響いた。

振り向くと、一人の男が立っていた。

鋭い眼光。無駄のない体。

腰には刀。

ただ立っているだけで分かる。

(強いな)

男は源蔵をじっと見つめた。

「どこの流派だ」

源蔵は肩をすくめた。

「ただの剣道だ」

「……剣道?」

男の眉がわずかに動く。

その横から、少女が顔を出した。

「父上、この人――」

十七、八といったところか。

凛とした目をしている。

だが次の瞬間、その目が変わった。

地面に倒れた浪人たちを見て。

「……全部、この人が?」

「……そうらしい」

男――久我新兵衛はゆっくりと歩み寄った。

「老人」

源蔵を見る。

「もう一度、見せろ」

「何をだ」

「その剣だ」

綾が口を挟む。

「父上、こんなじいさん――」

その言葉は、最後まで続かなかった。

源蔵が、動いたからだ。

一歩。

それだけ。

気づけば。

竹刀の先が、綾の喉元にあった。

「一本だ」

「……え?」

綾の声が震える。

「い、今……何を……?」

「打った」

「見えなかった……!」

新兵衛の目が細くなる。

(……速い。いや、違う)

(“無駄がない”)

源蔵は竹刀を下ろした。

「力みすぎだ。踏み込みも大きい」

綾が顔を赤くする。

「なっ……!」

「基礎が甘い」

「この……!」

飛びかかろうとして、新兵衛が手で制した。

「やめろ、綾」

静かな声。

だが、その目は真剣だった。

「……老人」

源蔵を見る。

「その剣、遊びではあるまいな」

「遊びではない」

「だが人は斬れぬ」

「斬る必要がない」

空気が張り詰める。

綾が息を呑む。

新兵衛が一歩、踏み出した。

「……ならば」

刀に手をかける。

「試させてもらおう」

源蔵は、静かに構えた。

「好きにしろ」

そのときだった。

「おんしら、物騒じゃのう」

場違いな声が響いた。

振り向くと、一人の男が立っていた。

着物は着崩れ、どこか軽い雰囲気。

だが――目が鋭い。

男はにやりと笑った。

「面白そうじゃき、混ぜてもらってええか?」

綾が小声で呟く。

「あの人……」

新兵衛も目を細めた。

「あれは――」

男は源蔵を見て、楽しそうに言った。

「じいさん、あんた……ただもんじゃないのう」

源蔵は肩をすくめる。

「ただの剣道家だ」

「ほうか」

男は笑う。

「なら、その剣――見せてもらおうかのう」

風が吹いた。

幕末の空気の中で。

一人の老人が、竹刀を握る。

その一撃が。

この時代を、変え始める。

(続く)

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