第57話 聖教国の降伏と、世界一豪華な『下水清掃』
聖教国が放った最終兵器「終焉の審判者」が、魔王領の技術と石鹸成分によって「巨大な自動洗浄オブジェ(再就職先)」へと書き換えられてから三日。魔王領の港には、その石鹸化した神を動力源とする巨大な加圧ポンプが据え付けられていた。
「……陛下、接続完了しました。聖都へと続く海底魔導パイプライン、圧力正常。……これより、聖教国全土に対する『物理的・政治的強制洗浄』を開始します」
テトラが、冷徹な手つきで巨大なバルブを握った。
「……よし、やれ。……神の威光で隠してきたドブ板の裏まで、一滴残らず泡まみれにしてやれ」
1
ドォォォォン!!
凄まじい振動と共に、審判者(石鹸神)から溢れ出した超高濃度洗浄液が、パイプを通じて聖教国の聖都へと送り込まれた。
数分後。聖都の中央広場にある「聖なる泉」から、突如として天高く純白の泡が噴き出した。
「な、なんだ!? 奇跡か? 神の恵みの雪か!?」
祈りを捧げていた信者たちが驚喜したのも束の間、泡は瞬く間に街中に広がり、石畳の隙間に溜まった数百年の汚れを浮き上がらせていった。
「……ぎゃああ! 隠していた裏帳簿が! 賄賂の証拠が、泡に溶けて浮き上がってくる!」
パニックに陥った司教たちが、泡にまみれて書類を回収しようと右往左往するが、魔王領特製の洗浄液は「嘘」と「汚れ」だけを選択的に抽出するように設計されていた。
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「……見てください、陛下。聖都の排水路から、どす黒い水と共に、横領の証拠品や不当な契約書が次々と流れ出していますぞ」
水晶球越しにその光景を眺めるバルガスが、毒気を含んだ笑い声を上げた。
「……掃除の基本は、見えない場所を綺麗にすることだ。……あいつらが神聖視していた『聖域』こそが、一番の不法投棄場所だったというわけだな」
そこへ、泡だらけになったカスティール司教が水晶球通信に飛び込んできた。
「……魔王! 貴様、何ということを! 聖なる都を石鹸の海に沈めるとは、神への冒涜……ブハッ!(泡を吸い込む音)」
「……司教、口を閉じろ。泡が喉に入って『本音』が出るぞ。……お前たちの降伏文書は、既にその泡の中に紛れ込ませてある。……ハンコがなくても、その汚れた指先でサインすれば受理してやる」
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『あはは! 傑作ね! 「神の裁き」が「排水掃除」に使われるなんて、歴史上最大の発想の転換だわ!』
空からノルンの爆笑が響く。彼女たちは、かつて自分たちを崇めていた聖教国が、魔王の「清掃事業」によって物理的にも社会的にも解体されていく様子を、新しい文明の誕生として祝福(観測)していた。
『ねえアストレア、見てよ。あの司教、泡で顔を洗われて、ちょっとだけ「善人」そうな顔になってるわよ? ……魔王様、ついでに彼らの「性格」も除菌してあげたら?』
(……だめがみ、余計なオプションを追加するな。……人格更正はコストがかかる。俺はただ、あいつらの『事務権限』を没収したいだけだ)
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数時間後。聖都は、建国以来最も「白く、輝く」場所となった。
それと引き換えに、聖教国は「清掃費用」と「環境汚染への罰金」の名目で、国家予算の全てを魔王領へ差し出す契約を強制的に結ばされることとなった。
「……陛下、聖教国の完全民営化……いえ、子会社化、完了しました」
テトラが、聖教国の全資産リストを綴った書類をデスクに置いた。
「……ふん。これでようやく、人間領の『不透明な会計』も俺の管理下に入ったわけだ。……だが、バルガス。……この書類の山、どうにかしろ。……聖教国一人一人の住民票を作るだけで、あと百年はかかるぞ」
俺は、再び唸りを上げる「鋼鉄製ハンコ押し機」を見つめながら、遠い目をした。
隠居への道。それは、世界を綺麗にすればするほど、自分に課せられる「管理」という名の鎖が重くなっていく、矛盾に満ちた旅路だった。
「……だめがみ。……次は、俺の『責任感』も、石鹸で溶かして消してくれないか?」
俺のぼやきを乗せて、魔王領の空には、泡のように儚く、しかし確かな平和が広がっていた。
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