皆さん、哲学はご存じでしょうか。
何か知らなくても、名前だけなら聞いたことがあるでしょう。
本作はその哲学をする、という一風変わった部活動のお話。大学で途中まで哲学を専門にしていた自分はみごとホイホイされました。
本作の一番の魅力は、個性的なキャラクターと、そのキャラクターたちによる理屈っぽくコミカルな会話です。
え、哲学じゃないの?
皆さん。大真面目に哲学的思索をされたらたぶん、よほど哲学好きじゃないとページ閉じると思います。自分は全然それでも良いのですが、それだと作品として成り立たない。作者様はしっかりそれを見越してか、パンチの効いたキャラクターを揃えております。
哲学者ってあれでしょ、自殺しちゃうやつでしょ。きっと世を儚んだキャラクターなんだろうな、なんて思った方、いらっしゃるかもしれません。
大学時代たびたび言われたことなんですが……たぶんそれは文学者のイメージです。倫理学とかをメインに据えていたり、文学者としての面のある哲学者……カミュやニーチェのイメージが先行しているのかもしれないですが、そんな彼らでも死因は病死です。哲学者ってどっちかというと「あいつら理屈っぽくてうざい」と周囲からドン引きされつつ図太く生きている……と哲学の恩師が苦笑していました(ある程度偏見は入っている可能性はありますが)。そして本作でもっとも個性的な哲学部の美人部長はまさにそんな感じです。めっちゃ周りをドンびかせながら、我が道を行きます。
哲学者を知っている方が身構える可能性があるので触れておきますが、作中で語られる台詞から幸福論(人生論)や倫理学(実践哲学)、一部精神分析学をはじめとした心理学をベースにしているのだとうかがえるので、我が道レベルはマイルドです。
ばりばりの形而上学や認識論専門とかだと「”私”とはなんだだ」「え、俺たちのことだろ?」「違う。昨日の私と今日の私がどうして連続しているとわかるのか。細胞は日々入れ替わってるのにどうしてなんだと聞いているんだ!」みたいに、世間的にはどうでもいいことを気にし、それに対して「変化しない「私」が基本にあるのだろうか」「いや変化しないってなんだ?」みたいに毒にも薬にもならない会話しかしません(だいぶ形而上学・認識論寄りの哲学をディスっているように見えますが、ディスってはいません。「世界の根源や認識の仕組みを問う」には有用ですが、悩みの解決にはあんまり意味がないと言っているだけです。)
作中で悩めるひとの相談を受ける活動をしているのですが、形而上学や認識論専門になると助言なんてほぼ不可能でしょう。作者様はそのあたりも考えてどの哲学者の思想を持ちだすか検討し、台詞に交えているのでしょう。あっぱれです。
話が逸れましてしまったので、話を戻します。本作の最大の魅力はキャラクターと、理屈っぽくコミカルな会話です。先ほどは美人部長だけを挙げましたが、他のキャラクターもパンチ効いていて、彼らの会話は実に楽しいです。そしてこのおかげで、本来は主題にしたかったであり、周囲から避けられがちだろう哲学的思索を交えることができる。その内容は深く刺さる読者もいらっしゃることでしょう。素晴らしいですね。作者様のバランス感覚には感服です。
個性的と書きましたが、ただ個性的なだけではありません。個性的な美人部長も、それにすっかり慣れ親しんでいる副部長にも深い過去がある。その過去は切なさもあります。省エネ主義な主人公もラストで悩み、哲学するシーンがあります。ただ個性的なのではなく、そのキャラクターには厚みがあるのです。
お勧めです。
個性的なキャラクターの織り成すコミカルな会話を楽しみながら、作者様が選び抜いただろう比較的親しみやすい哲学から哲学を知り、問いを磨いてみてください。