第40話

リビングに顔を出したが、いつもの場所にスケルトンさんの姿はなかった。

話を聞いてほしかったが仕方ない。俺は少し早いが夕飯の支度をしながら、彼の帰りを待つことにした、と言っても、簡単な物で済ませるだけだが。


夕飯を終えてもスケルトンさんは姿を現さなかったが、その分、俺には考える時間が出来た。

先日の事があってギルドに不信感を抱いていた上に今回の事が引き金となってギルドとは決別した、それがどんな結果を招くかは分からない。ただ一つ心配なのは、明日に迫った孤児院の受け入れだ。このままだと皆に迷惑をかけかねないと思うと、少し早まったかなという思いが頭をよぎる。


悶々と考えていると、不意に来客が訪れた。

荒々しくドアを開け、リビングに踏み込んできたのはヴォルフだった。


「……しつこいな」


「ギリッ……!」


ヴォルフはいつも以上に、何かに耐えるように立ち尽くし、何かを訴えようとしているようだが、多分スケルトンさんは姿が見えないだけで、この屋敷のどこかにいるはずなんだ。


「何だよ、はっきり言えよ。突っ立ってるだけじゃ分からないだろ?」


「ぐっ……。あんな事をしてタダで済むと思うなよ、リョージ。お前はギルドを敵に回したんだ。これから先、この街でまともに暮らせると思うなよ……」


「それだけか? なら街を出るよ。まあ今すぐ出ればあんたらの標的になるから、スケルトンさんに鍛えてもらってからになるけどな。その時は、命の限り抗わせてもらうよ、ヴォルフ」


「…………」


「それとも、今ここで俺を何とかするか?」


――ギシリッ!

リビングの建付けが軋むと同時に、肌を刺すような重圧が走った、いつの間にか、スケルトンさんが入口に立っていた。


「リョージさん、おかえりなさい、話は見えませんが……その男と仲違いでもしましたか?」


既に魔圧が可視化されるほどの密度。スケルトンさんにも、何かあったのか?


「……どうやら、あの傭兵がいた傭兵団が壊滅したらしいんだ。その容疑が俺たちにかかっていて、ヴォルフは俺たちを捕らえたいみたいだよ」


「ふむ」


「おまえ、話を聞け! 俺はただ……っ、ぐあぁ!?」


より魔圧が濃くなり、ヴォルフはその場に膝をついた。スケルトンさんは彼を無視するように横を通り過ぎ、いつもの席に座る。だが、その頭蓋はヴォルフに向けられたままだった。


しばらくの沈黙の後、スケルトンさんが軽く左手をかざすと、床の影から黒い鎖が蛇のように伸び、ヴォルフの全身を拘束した。


「では、話を聞きましょうか」


スケルトンさんの圧に耐えながら、ヴォルフが絞り出すように口を開く。


「……お前らに容疑がかかっているのは確かだ。衛兵からの取り押さえの依頼が来たのも確かだ、それに、この街にいる他の傭兵団にも話はいっているんだ。お前らが、ただではやられないのは分かっている……余計な被害を出さないためにだな……」


「そうですか。なら、私たちに近づかないように働きかけてはどうですか?」


「そんな事できるか! 冒険者ギルドも反逆者に加担したと見なされるだろうが!」


「既に遅いのでは? 私に歯が立たずに引き下がった貴方が何を言ったところで。それに、傭兵団を潰したのは今朝方ここへ来た、あの元傭兵ですよ」


――!?

あれ、本当にアイツがやったことだったのか。


「それを証明できるのか!? その傭兵を引き渡せ!」


「嫌です」


「……え?」


「今回の件に関しては、私も少なからず憤りを感じていまして、彼には既に『仕事』を依頼しました。なので、引き渡せません」


「そんな、戯言が通じると……っ、ぐぁぁっ!?」


鎖が一段と強く締まり、ヴォルフは床に這いつくばった。


「通じるんですよ、私はアンデッドではありますが……それ以上に、『アーバン・ロクステッド』です、分かりますか、ヴォルフ?」


どういうことだ? 過去の英雄、アーバン・ロクステッド子爵であるという事実には、俺の知らないどんな意味があるんだ?


「う、ぐ……わかった……」


スケルトンさんが左手を払う仕草をすると、拘束していた鎖は霧のように霧散した。


「私は既に記憶を取り戻しました。その意味、重々理解しておいてくださいね」


ヴォルフはその後、一言も発することなく屋敷を後にした。一体どういうことなのか聞きたかったが、スケルトンさんの纏う空気があまりに険しく、今の俺には声をかける勇気が湧かなかった。



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