第013話:二度目の邂逅
扉の前に立った娘たちは、ここでも対照的だった。
警戒心も
あまりの唐突すぎる行動に思わず目が丸くなる。よからぬことが起きたのではないかと、左脚を
「ミシェリア、アマレッテ、なにがあったの」
不安が頭をよぎる。この時期、この時間に行商人がやって来るなど万に一つもあり得ないし、そもそもあの時の約束しか念頭になかった。
「まさか、魔獣が」
切迫感
「違うの、お母さん」
すぐに否定の言葉を口にしたミシェリアに続いて、アマレッテが引き取った。
「あのね、あのね、大きな、大きな、雪だるまさんが立ってたの。それにね、真っ白な
いかにも残念そうに、身振り手振りで大袈裟に説明してくる。それは次の言葉で分かった。
「テア様じゃなかったの」
可愛らしい仕草を目の当たりにしても、疑問が氷塊したわけではない。それでも、少しばかりは表情を
「よかったわ。魔獣じゃなかったのね。それで、その雪だるまさんと茸とやらは」
どうなったのかと問おうとしたところで、閉めたはずの扉が音もなく勝手に開いていった。
「随分な歓迎だ。防寒着を用意してこなかったのは失敗だった」
続きの言葉をなにか口にしているものの、全く耳に入ってこなかった。
そうだと信じていても、実際に確かめるまでは不安も大いにあった。これで雪だるまの正体も確信に至った。自然と涙が溢れ出し、止まらなくなっている。
雪だるまから伸びた左手が動き、杖の石突きで軽く床を叩く。先端部の三日月に垂れ下がった八つ色の金属が
「わああ」
アマレッテが目を見開き、感嘆の声を発している。ミシェリアも同様ながら、
「ファナエラ、久しぶりだ。二十余年か。随分と大きくなったものだ」
流れる涙はそのままに、
「ア、アシェリーテア様」
あの時と全く変わらない姿で立っている。アマレッテが絶叫する中、輝く美しい銀の髪がゆっくりと宙から垂れてくる。幻想的な
口から零れ出た言葉はそれだけだった。まともに話などできるはずもない。本当に会いに来てくれた。頭の中はその思いだけで占められていた。どうして変わっていないのかなど、考える余裕は一切なかった。
「知らせが来た。だから会いに来た。わたしは、約束は守る主義だ」
心地よい涼やかな声が心の奥深くにまで浸透してくる。胸に埋めたままの頭を優しく
◇ ◇◇ ◇ ◇◇ ◇
「まるで子供だな。構わない。泣きたいなら、好きなだけ泣けばいい。このわたしの胸の中で。なにしろ、わたしはお姉さんだからな」
≪リーシェ様、お姉様、お姉様≫
≪僕たち、ちゃんとこの娘を見守って来たよ。だから、
この場に慣れてきたのか、騒ぎ始めた
余裕を見せつけたところで、いつものごとく鋭い突っ込みが待ってましたとばかりに来る。
≪
左手に瞬時に魔力を集わせ、
≪この魔力、大きらい。身体が
方々から同様の声が上がっている。異様なざわめきに、少しばかり魔力量を絞った。
あらゆる魔力を受け入れ、己が力に変換できる
≪ごめんなさい。ごめんなさい。二度と言わないから、どうか許してください。ください≫
哀れな懇願は通用しない。右手に新たな
「ディラァグ・サゥミィケ・シュリニ・ハゾア」
(訳:君との話は後回しだ)
続けざまに言葉を発する。
「デンディ・ウィフォド・シリニハ・ベーレ・ンベティア
パラーディ・オピュム・ナルキィジェ」
(訳:雪茸諸君、離れていたまえ。巻き込まれたくないだろ)
いずれも母娘には理解できない言語だった。とりわけ、ファナエラの記憶力を考慮しても、言霊でない限り何の問題もない。
「先に済ませておく」
言葉を戻し、
「また泣くかもしれないが。我慢するんだ」
流れ落ちた涙が細い糸を引き、充血した目も痛々しい。
「あ、あの、アシェリーテア様、それは」
蒼の瞳で
「君の額から指を離す直前だ。わたしは言霊を刻んだ」
小さく頷き、両手で額に触れている。
雪茸たちも同様に傘を大きく振って、頷いている。構ってほしいのだろう。今は無視に限る。
あの時、やはり気づいていたのだ。なにかされた、という事実に。
「君を守護するための言霊だった。だから、左脚だけで済んだとも言えるし、一方で左脚を持っていかれたという事実は変えようがない」
動かない左脚に視線を落とし、何度となくさすっている。
「辛いだろう。痛むだろう。申し訳なく思う」
率直な気持ちだ。あの時の見立てに誤りはなかった。そのはずだ。ただ言霊を刻む際の条件が厳しかった。それを言い訳にはできない。だからこそ、謝意を
雪茸たちも慌てて、白い傘を大きく前に倒している。少なからず責任を感じているのだろう。
「アシェリーテア様、どうかそのようなことはお止めください」
ゆっくりと頭を上げた先で、ファナエラが何度も首を横に振っている。
どうしてとばかりに無言で疑問をぶつける。頭を下げることなど、なんでもない。必要ならいくらでも下げる用意がある。魔力を乗せた言霊がファナエラを守り切れず、左脚を持っていかれた。それが全てなのだ。
「
真摯な言葉を聞いても、理解に苦しむばかりだった。思わず小首を
≪ああ、もう、どうして分からないのよ。そんなことだから、いつまで経っても≫
ふん、とばかりに、石突きを今度は力任せに床に叩き付ける。
≪ひ、酷いじゃない。せっかくの忠告を≫
今一度、床に落としてから小声で
「うるさいな」
手にした
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