第4章

世界のレベルシステムの秘密


 王都。


 夜。


 宿屋の部屋は半分崩れていた。


 壁は吹き飛び、床には剣の跡。


 そして中央。


 倒れている三体の魔族。


 魔王軍暗殺部隊。


 主人公は床に座り込んでいた。


「……疲れた」


 リディアが剣を鞘に戻す。


「生きてますか」


「多分」


 主人公は天井を見上げた。


「なんで魔王軍が俺を殺しに来るんだ」


 リディアは言う。


「理由は一つです」


「?」


「あなたが危険だからです」


 主人公は首を傾げる。


「俺が?」


 リディアは倒れている魔族を見る。


「普通の人間なら」


「はい」


「魔王軍暗殺部隊に襲われた時点で終わります」


「確かに」


「でも」


 一拍。


「あなたは勝った」


 主人公は苦笑する。


「ギリギリでしたけど」


 その時。


 部屋の外から声がした。


「……失礼する」


 扉の前に立っていたのは。


 白いローブの老人。


 長い髭。


 金色の杖。


 リディアが目を細める。


「宮廷魔術師」


 主人公が言う。


「偉い人?」


 老人が頷く。


「王国魔術院長」


 一拍。


「君に話がある」


 主人公が言う。


「嫌な予感しかしない」


 数分後。


 宿屋の部屋。


 魔族の死体は回収されていた。


 老人が椅子に座る。


「まず」


「はい」


「確認させてほしい」


 主人公を見る。


「君」


「はい」


「戦闘中」


「はい」


「未来が見えるような感覚は?」


 主人公が固まる。


「……あります」


 老人が頷く。


「やはり」


 リディアが聞く。


「何かわかったんですか」


 老人は言う。


「君の能力」


 一拍。


「解析した」


 主人公が言う。


「俺のスキルですか?」


 老人は首を振る。


「違う」


「?」


「世界の仕組みだ」


 沈黙。


 主人公が言う。


「え?」


 老人は杖を置く。


「まず」


 一拍。


「この世界には」


「?」


「レベルがある」


「はい」


「スキルもある」


「はい」


「しかし」


 老人は言う。


「それは自然ではない」


 主人公が言う。


「どういう意味です?」


 老人が答える。


「人工的な仕組みだ」


 沈黙。


 主人公が言う。


「ゲームみたいな?」


 老人が頷く。


「近い」


「……え」


 リディアが目を細める。


「つまり」


「?」


「誰かが作った?」


 老人が静かに答える。


「そうだ」


 一拍。


「神だ」


 部屋が静まり返る。


 主人公が言う。


「え?」


 老人は続ける。


「遥か昔」


「?」


「この世界には魔族が溢れていた」


「はい」


「人間は弱かった」


「はい」


「そこで」


 一拍。


「神はシステムを作った」


 主人公が呟く。


「レベル」


「スキル」


「その通り」


 老人は言う。


「戦えば経験値」


「レベルアップ」


「能力上昇」


「それによって」


「?」


「人間は魔族と戦えるようになった」


 主人公が言う。


「便利じゃないですか」


 老人は頷く。


「便利だ」


「しかし」


 一拍。


「欠陥がある」


 リディアが言う。


「何です?」


 老人が主人公を見る。


「このシステム」


「?」


「本来」


「?」


「安全に成長するためのものだ」


 主人公が言う。


「はい」


「普通の人間は」


「?」


「危険を避ける」


「?」


「死線を避ける」


「?」


「だから」


 一拍。


「レベルはゆっくり上がる」


 主人公が言う。


「それが普通」


 老人が頷く。


「だが」


 一拍。


「君は違う」


 主人公が言う。


「え」


 老人が指を立てる。


「君は」


 一拍。


「死線に突っ込みすぎた」


 沈黙。


 主人公が言う。


「確かに」


 老人が続ける。


「その結果」


「?」


「本来想定されていない現象が起きた」


 主人公が聞く。


「何です?」


 老人が言った。


「君は」


 一拍。


「レベルシステムを飛び越えた」


 沈黙。


 リディアが言う。


「つまり?」


 老人が答える。


「普通は」


「?」


「レベル1→2→3」


「?」


「と成長する」


「はい」


「しかし君は」


 一拍。


「経験そのものを直接戦闘能力に変換している」


 主人公が言う。


「それって」


 老人が頷く。


「そうだ」


 一拍。


「システムの外の力だ」


 沈黙。


 主人公が言う。


「それ」


「はい」


「まずいですか」


 老人が笑う。


「非常にまずい」


 主人公が天井を見る。


「ですよね」


 老人は言う。


「君の能力は」


 一拍。


「世界のルールを破っている」


 リディアが聞く。


「だから魔王軍が?」


 老人が頷く。


「魔族は」


「?」


「この世界の仕組みを知っている」


「?」


「そして理解した」


 一拍。


「この男が」


「?」


「世界のバグだと」


 主人公が呟く。


「バグ」


 老人が立ち上がる。


「もし君が」


「?」


「さらに死線を増やせば」


「?」


「どうなると思う?」


 主人公が言う。


「強くなる?」


 老人が静かに答えた。


「違う」


 一拍。


「システムが壊れる」


 沈黙。


 外で風が吹いた。


 主人公はしばらく考えて。


 そして言った。


「……それ」


「はい」


「めちゃくちゃ怒られるやつですよね」


 リディアが苦笑した。


「ええ」


 老人が言う。


「だから王国は」


 一拍。


「君を監視する」


 主人公が言う。


「ですよね」


 しかし老人は続けた。


「だが」


 一拍。


「魔王軍は違う」


「?」


「彼らは」


「?」


「壊される前に君を殺す」


 主人公がため息をついた。


「最近」


「はい」


「敵が増えてません?」


 リディアが笑う。


「英雄候補ですから」


 窓の外。


 夜空。


 遠くで黒い影が飛んでいた。


 魔族の斥候。


 魔王軍。


 そして。


 この時まだ誰も知らなかった。


 主人公の能力は。


 世界のバグではない。


 もっと恐ろしいもの。


 それは――


 神が作ったシステムの“後継者”の力だった。

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