第10章

受付嬢の怒り ――絶対にさせない


 ギルド。


 昼。


 重装備の騎士が入ってくる。


 王国騎士団。


 紋章付き。


 ギルドがざわつく。


「王国の命令だ」


 騎士が言う。


「冒険者を一名招集する」


 受付嬢が前に出る。


「名前は?」


 騎士は紙を見る。


 そして言った。


「――黒髪の新人冒険者」


 ギルドの視線が一斉に向く。


 当の本人。


「俺?」


 騎士が頷く。


「王命だ」


「え?」


「お前を」


 一拍。


「英雄候補として召集する」


 ギルドが爆発した。


「英雄!?」


「新人が!?」


 主人公は固まる。


「え?」


「俺?」


 騎士は続ける。


「王国はお前の戦闘記録を確認した」


「はあ」


「その経験値」


「はあ」


「異常だ」


 主人公は頭を掻く。


「いや」


「ただ死にかけてるだけですけど」


 騎士は言う。


「それが重要だ」


「?」


「お前は」


 一拍。


「誰よりも死線を経験している」


 そのとき。


 机が叩かれた。


 ドン。


 全員が振り向く。


 そこにいたのは――


 受付嬢。


 リディア。


 目が怒っている。


「断ります」


 騎士が言う。


「本人ではない」


「本人も断ります」


 主人公が言う。


「え?」


 受付嬢が言う。


「あなた」


「はい」


「黙っててください」


「はい」


 騎士が眉をひそめる。


「理由は?」


 受付嬢は言う。


「簡単です」


「?」


「この人」


 一拍。


「まだ弱いです」


 騎士が言う。


「それは承知している」


「なら」


「しかし」


 騎士は言う。


「英雄は強さだけではない」


「?」


「経験」


「?」


「成長」


「?」


「可能性」


 受付嬢は即答した。


「全部足りません」


 沈黙。


 騎士が言う。


「S級リディア」


 ギルドがまたざわつく。


「あなたも昔」


「?」


「新人だった」


 受付嬢は言う。


「だからこそ」


 一拍。


「今はダメなんです」


 主人公が小さく聞く。


「……なんで?」


 受付嬢は振り向く。


 少し怒っている。


 でも。


 少しだけ。


 悲しそうだった。


「あなた」


「はい」


「今」


「はい」


「やっと」


 一拍。


「冒険者になり始めたばかりです」


 沈黙。


 彼女は続ける。


「英雄なんて」


「?」


「その何十倍も」


「?」


「死ぬ場所です」


 主人公は黙る。


 騎士が言う。


「それでも」


「?」


「王命だ」


 受付嬢は言った。


「なら」


 一拍。


「私も同行します」


 騎士が目を見開く。


「……元S級が?」


「はい」


 受付嬢は言う。


「この人を英雄候補にするなら」


「?」


「私が監視します」


 主人公が言う。


「なんか」


「はい」


「話がでかくなってません?」


 受付嬢は小さくため息をついた。


「ええ」


 そして言う。


「あなた」


「はい」


「どうやら」


 一拍。


「本当に英雄候補になってしまいました」


 主人公は空を見上げた。


 思う。


 俺は。


 最強でもない。


 天才でもない。


 ただ。


 何度も。


 何度も。


 失敗してきただけだ。


 なのに。


 どうしてか。


 世界は――


 俺を英雄にしようとしている。

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