『俺だけレベルアップできると思ってたら、レベルは何度でも失う世界だった。』
マムルーク
第1部
第1章
気づけば、俺は草原に立っていた。
青空、風、遠くに見える石造りの街。そして目の前には半透明のウィンドウ。
《レベル:1》
《スキル:なし》
「……異世界、だよな?」
試しに拳を握る。
体は軽い。まるでゲームの主人公になったみたいだ。
そして数分後、俺はそれを確信した。
森で出会ったスライムを殴った瞬間、目の前に表示が浮かんだからだ。
《経験値を取得》
《レベルアップ》
「……来た!!」
思わず叫ぶ。
これだ。これこれ。
ゲームみたいに敵を倒すとレベルが上がる。
つまり――
「俺だけレベルアップできるやつじゃん!!」
テンプレだ。完全にテンプレ。
異世界転生の王道。
つまり俺はこれから最強になる運命。
俺は森の中でスライムを狩り続けた。
倒す。
レベルアップ。
倒す。
レベルアップ。
気づけばレベルは10を超えていた。
「ふふ……異世界チートってやつだな」
そのときだった。
「おーい! そこの人!」
振り向くと、鎧を着た青年が走ってきた。
「大丈夫ですか!? この森、スライムが多いんですよ!」
「いや、むしろ助かった。経験値が――」
言いかけて、止まる。
「経験値?」
「……いや、なんでもない」
青年は少し首をかしげたあと、笑った。
「それより、レベルいくつですか?」
「え?」
今、なんて言った?
「レベル、いくつです?」
「……え?」
俺は固まった。
「え、見えないんですか? ほら」
青年の前にもウィンドウが現れる。
《レベル:14》
「……」
沈黙。
「……え?」
俺の口から、間抜けな声が出た。
「え、レベルって……みんなあるの?」
「え? はい。普通ですけど」
「……」
普通?
普通なの?
俺は混乱した。
「……じゃあ、スライム倒すと?」
「経験値入りますね」
「レベル上がる?」
「上がりますね」
「……」
俺のチート。
普通だった。
その後、俺は街に来た。
石畳の通り。
市場。
冒険者ギルド。
完全にファンタジー世界。
だが、ひとつだけ思っていたのと違った。
「レベル28です」
「俺は32」
「パーティー募集! 平均25以上!」
……。
みんなレベル上げてる。
普通に。
当たり前のように。
「……」
ギルドの椅子で、俺は遠い目をした。
俺だけの特別なシステムじゃない。
この世界そのものがゲームだった。
だが。
それでも、何かおかしい。
俺は森で一日狩っただけでレベル10。
でも街の冒険者たちは、かなり時間をかけてるらしい。
そこに、ギルドの受付嬢が来た。
「新人さんですか?」
「まあ、そんな感じです」
「レベルはいくつです?」
「……12」
受付嬢の目が丸くなる。
「え?」
「え?」
「新人で12!?」
周りの冒険者がざわついた。
「嘘だろ」
「早すぎない?」
「普通は半年で10くらいだぞ」
「……」
あれ?
なんか空気が違う。
受付嬢が小声で言った。
「もしかして……成長倍率スキル?」
「……?」
「まれにいるんです。経験値効率が異常に高い人」
その言葉を聞いた瞬間。
俺は気づいた。
なるほど。
俺だけレベルアップできるわけじゃない。
でも――
俺だけ、レベルの上がり方が違う。
つまり。
「……これ、結局チートじゃん」
小さくつぶやく。
そのとき。
ギルドの扉が、バンと開いた。
「緊急依頼!!」
鎧の騎士が叫ぶ。
「ダンジョンが暴走した! モンスターが街に向かってる!」
ざわめく冒険者たち。
「推定レベルは!?」
「……40以上!」
空気が凍る。
この街の平均は20〜30。
つまり――
強すぎる。
騎士が叫ぶ。
「戦える者は来てくれ!」
誰も動かなかった。
そのとき。
俺は立ち上がった。
「……まあ」
肩を回す。
「試しに行ってみるか」
周りがざわつく。
「おい新人!」
「レベル12だろ!」
俺は笑った。
「大丈夫」
「帰ってきたら、たぶん」
窓を開く。
自分のステータス。
《レベル:12》
《経験値倍率:×10》
そして俺は言った。
「レベル、30くらいになってるから」
ギルドの扉を押して、外に出る。
夕焼けの空。
遠くから、咆哮。
モンスターの群れ。
そして俺は歩きながら思った。
俺だけレベルアップできると思っていた。
でも違った。
世界全体がレベルアップする世界だった。
ただし――
その中で。
俺の成長速度だけ、少しだけ狂っている。
だからこれは、きっと。
最強になる物語じゃない。
世界の成長と、俺の成長がぶつかる旅の物語。
剣を拾う。
モンスターが迫る。
そして俺は笑った。
「さて」
「どっちが先にレベル上がるかな」
世界か。
それとも――
俺か。
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