魔王が討伐され、世界は平和を迎えた。
主人公はその戦いで活躍をした勇者。
式典。仲間たちの像。魔王討伐に湧く街で物語は始まる。
が、主人公はその式典に至るまでの記憶がない。
『すべてを救ったあとの勇者』という立場からスタートし、その足跡を追うのがこの物語だ。
ただし、この主人公にとって、『今日』の次は『明日』ではなく『昨日』で、『昨日』の次は『一昨日』。なぜかどんどん、日付が巻き戻っていく。
何も知らない状態から毎日過去へ戻っていく主人公は、『己の足跡』を辿っていくことになる。
建てられた像でのみ容姿を知る仲間たちは、どのような人物だったのだろう。
魔王に苦しめられていた世界は、どういう世界だったのだろう。
この物語の最も見事な点は構造にある。
主人公はどんどん過去に戻っていく中で、失った仲間の失われる瞬間に『出逢う』。
最初は『よく知らない人』だった仲間との思い出を逆行経験していくことで、命の重みが増していく感覚。
読んでいくうちにじわじわと胸に圧し掛かる命の重さ。
構造と文章がもたらす独特な読書体験を、是非多くの人にして欲しい。
(「10テーマ小説コンテスト」骨太ダークファンタジー部門 講評4選/文=稲荷竜)