第22話:好奇心はダークマターと共に

** 第六章:旅立ち:


*** 第一節:領土争い:


    〜〜〜

 我々の新しい時空間に異物が混入している。それは活性化している。

 我々の領土拡大計画に齟齬そごをきたす。

 どうする? 

 少し中和剤を入れて様子を見よう。

    〜〜〜


『他の世界の認識が、愛子の世界に干渉。

 その結果、愛子の世界が小さく閉じられようとしている。

 愛子、聞こえる? 』


――ヘロドトスの声が、どこからかハッキリと聞こえる。


『誰でも条件を満たせば、時間の中に空間を作ることが出来る。その空間はぶつかりあうこともある』


――それは現在の時空間と同じ理屈ね。


『他の世界は、愛子の世界を小さく閉じた世界にしようとしている』


――この世界も私は好きよ。


『小さく閉じた世界では、存在できる青き星の人間の数が限られる』


――そうね。私は三人の世界を望んだのだから。


『未来に空間を作ろうとした意図を思い出せ! 』


――十分の九の人間が住める空間を創造する!!


『相手の空間に勝つためには、さらに強い想像力と認識力で空間を想像することが必要』


――結局は強い者が勝つのね……

  でも、さらなる強い想像力と認識力を行使するのならば、本当に自分が好きな世界でなければ……


    **


 愛子は、今一番自分がどうなりたいかを思い浮かべた。

 源理とイチャイチャする? それは、現実の世界でできていた……

 バンド活動? それも楽しけど……

 藤家を発展させる? それは御父様、お願いね……


 ふと、自分の部屋の本棚のイメージが湧き上がった。

 大好きな本をスキャンする。

『宇津保物語』『中国文藝大事典』『水木しげる妖怪大図鑑』『真・ク・リトル・リトル神話体系』『宇宙海賊になる簡単な方法』……


 そうだ、のよ!


 星間ロケットを入手して、ディラックの海を華麗に超え、ことわりの神殿の秘密を解き明かし、風と砂の街に住む仲間を得て、うちゅうせんの墓場からボトル・メールを拾い、宇宙シミュレーションしているドクター・ケスラーと内宇宙の存在を賭けた戦いをする……


 う〜ん、素敵!!

 私のは、ダークマターと共にある。好奇心に従え!!!


  **


『これで開いた世界が予定された。遊び疲れるときを待っている』

 ヘロドトスの優しい声がフェードアウトして消えていった。


*** 第二節:好奇心はダークマターとともに:


 藤愛子は、宇宙船発着所と宇宙船エンデバーを想像する。


 私は身体にピッタリの宇宙服を着ている。同じ宇宙服を着た源理と林丿宮倫子と共にエンデバーに乗り込む。


 司令室には、ヘロドトスとシモニデスがあらかじめ待っている。

 私は船長席に座るため、背負ったギターを下ろす。

「出発の準備は整っているわ。でも創造主になることを捨てて、宇宙に飛び立って良いの? 」 倫子の最終確認ね。

「だって私は、エデンの星探検隊の末裔だもの」


 私は船長席に座る。御器噛が、ちょこんと肩に乗る。

「姫様が旅立つときは、私はいつでも従いていきます」「そうだったわね」 その言葉に私は満足する。


 全員を見渡して、皆に号令をかける。

「総員配置につけ! 宇宙船エンデバーは、二番目に近い恒星バーナード星を目的地とする」


 号令を遮るように、エンデバーが大げさに振動する。

「艦長。本艦に名前をつけて呪をかけてくれ。

 名は体を表す、というからね。昔のエンデバーのままではちょっと違うだろう?! 」

「そうね……

 じゃあ、キュリオシティにしよう!

 宇宙海賊船キュリオシティ号、発進!! 」


 愛子は、レスポールを抱えて、Esus4のコードを鳴らした。

 何かが始まりそうな和音が、ダークマターへと鳴り響いた。


 藤愛子の新しい時空間の中で、宇宙船キュリオシティ号は、大宇宙に向かって飛び立った。


    (了)

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藤愛子の内なる宇宙 ペテロ(八木修) @jp1hmm

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