寄生型スマートフォン

ちびまるフォイ

本体のありか

「最新のスマホ、楽しみだなぁ」


新型スマホの店舗に並ぶこと数時間。

手に取ったときの驚きのため、あえて事前情報は入れていない。


「それでは! 新型スマホを販売します!」


店舗の扉が開かれ、行列を作っていた客がなだれこむ。

お目当てはもちろん新型スマートフォン売り場。


「こ、これが新型……!?」


足早にコーナーにたどり着いたが、

そのグロい見た目に言葉をうしなった。


「新型スマホ"パラサイト"をご購入ですか?」


「そのつもりだったんですが……。

 なんか虫みたいにスマホに手足ついてるんですけど」


「寄生型スマホですからね。

 もうスマホを手元でちまちまいじる時代は終わりました!

 これからは、体の内部にスマホを仕込んで、スマート人間になれます!」


「ええ……?」


「買わないんですか? もう売り切れますよ?」


「買います! か、買いますって!」


今にも売り切れそうな新型寄生スマホを購入した。

箱を開けると新型スマホはカサカサと動き出し、皮膚の下に入り込む。


「うわぁ!? キモい!!」


「大丈夫。痛みは無いでしょう?」


「ないですけど!」


「もうすぐセットアップ終わりますから」


寄生型スマホが体内に入り込み、初期設定を終える。

目に映る風景がより鮮明で明るくなった。


「どうです? 今はあなたの眼球がカメラになりました」


「すごい……。QRコードも肉眼で読み取れるんですね」


「ズーム、録画、写真撮影。なんだってできますよ」


「未来感がすごい……!」


「これが寄生型スマホです。スマホを寄生させて、ハンズフリーな毎日を!」


最初は抵抗感があったが、一度使ったら寄生型スマホの便利さに感動する。


体温で充電されるため、家に溜まってた充電器は全部捨てた。

寄生スマホしている人とはBluetoothで脳内やり取りもできちゃう。


体内アラームがあるので寝坊もなくなったし、

脳内にマップも展開できるので道に迷うこともなくなった。


「ああ、これがスマート人間の生きる世界!」


SF映画でみたような世界が現実にやってきた。


いまだに手元で四角い板をちまちま操作しているような

"非パラサイト"人間はなんだか原始人のように見えた。



それからしばらく経った頃。



「ふぁぁ……。はぁ、なんだろう。体が最近ずっと重いなぁ……」


いくら寝ても回復しない。

ストレスだろうか。


体の変調を感じて病院に向かった。

いくら精密検査を受けても体は健康体という通知が出るばかり。


「患者さん、本当に疲れてるんです? 気の持ちようでは?」


「医者が根性論を言い始めたら終わりでしょう。

 なんだか何をするにも倦怠感がすごくて……。

 メンタルクリニックでも異常なしだったんです」


「はあ。ますますわかりませんなぁ。

 そうだ。デジタル外科にはいきました?」


「デジタル……外科?」


医者に招待状を受け取って、新しめの病棟に向かった。

ハイテクっぽいマシンがそこかしこにある。


「あの、ここで診断しろと言われてきたんですが……」


「はい。ここはデジタル外科。

 体内のスマホを専門に扱う病棟です」


「え?」


「寄生型スマホの流行で今、スマホが体内に及ぼす影響も大きくなっています。

 なのでその体内スマホを診ているんですよ」


「お願いします」


「失礼しますね。むむ、これは……」


「なにか悪いんですか!?」


「ええ、原因がわかりましたよ。

 あなたの不調の原因は体内のスマホです」


「や、やっぱり!」


「アプリを産んでますね」



「……んん?」


目が点になった。

医者はなおも解説を続ける。


「あなたの体内にある寄生型スマホですが、

 体内で多くの新しいアプリを産み始めています。

 アプリが多くなることで電池の消費量は増える。

 で、あなたの体はエネルギー不足になったんです」


「り、理屈はわかりましたけど……どうしてそんなことに?」


「寄生型スマホですからね。自分に心地よい環境を作るために進化するのでしょう」


「先生、俺はこの先どうなるんですか?」


「寄生型スマホはかまわずアプリのタマゴを産み続けます。

 ひいてはあなたの体は今よりエネルギー不足となり倒れるでしょう」


「そんなの嫌だ! なんとかしてください!」


「もちろんです。では摘出手術をしましょう」


「お願いします!!」


トントン拍子で摘出手術がはじまる。

このままアプリが体内で増え続ければ自分の人生は終わりだ。


「手術、うまくいきますよね……」


「もちろんです。私は一度も失敗したこと無いんです」


「ああ、それは安心だ」


「手術は今回が初ですがね」


「挑戦したこともないんかい!!」


「患者がうるさいので麻酔」


全身麻酔であっという間に眠りに落ちた。



病室で目が覚める。


「あ……先生」


「目が覚めましたか。手術は成功ですよ」


「本当ですか! やったーー!!」


「いや本当に驚きましたよ」


「なにがです?」


「あなたの体内で作られていたアプリに驚きました」


医者の目はらんらんと輝いていた。


「あなたの体で生まれていたアプリはどれも革新的。

 これが多くの人に導入されればみんなもっと便利になるでしょう」


「えっと……摘出、したんですよね?」


「もちろんです! アプリはちゃんと摘出しました!」


血の気が引いた。

生み出されたアプリは取り出されたが、おおもとのスマホはそのままだ。


「話が違うじゃないですか!

 スマホを取り出してくれるって話でしょう!?

 これじゃ永久に体内のスマホからアプリが産まれ続ける!」


「良いことじゃないですか」


「どこが!?」


医者はにこりと笑って、冷たく言い放つ。



「優秀なスマホアプリの培養器として生きるなんて、光栄でしょう?」



もう人間として見ちゃいない目だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

寄生型スマートフォン ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ